新星勇斗は、何かにつけて付き纏ってきた。
《授業中》
「天海さん!分からない問題ある?教えるよ!」
「ふぇ〜。るな、お馬鹿さんだから嬉しい〜♡ありがとぉ♡」
(だるこいつ…。)
《昼休み》
「天海さん!お弁当残さず食べれて偉いね!」
「きゃー♡ありがとぉ♡るな、頑張ってよかったぁ♡」
(話しかけんな♡)
《放課後》
「天海さん!今日の小テスト、よく頑張ったね。はい、ご褒美の飴ちゃん」
「わぁ〜い! 勇斗くんありがとぉ〜♡るな、いちご味だぁい好き♡(※大嘘)」
(もう勘弁して…。)
校門前でクソ真面目な元勇者――もとい、学級委員長の勇斗をなんとか撒いた私は、一目散に誰もいない校舎裏へと逃げ込んでいた。
「あぁぁぁーーーーー!!疲れた!!死ぬほど疲れた!!」
私はスクールバッグを地面に投げ捨て、自らの髪をボサボサとかきむしった。
声音は完全に地を這うような魔王モード。
朝から晩まで、前世の宿敵に向かって媚びを売り続けるのは、精神的攻撃魔法を受けるより遥かに摩耗する。
カバンのチャックが開き、デスモ(最新型ル◯バ)がウィィィンと這い出てきた。
『魔王様、お疲れ様です。忌々しい勇者め、魔王様に付き纏うとは……。
今すぐ私が奴の全財産を吸引してやりましょうか』
「いいわよ、あいつのお小遣いを吸い取っても私の財布は潤わないわ。
……はぁ、ストレスで魔力が暴走しそうだわ。ちょっと発散させて」
私は右手を前に突き出し、指先をピンと立てた。
脳内で複雑な魔力軌道計算を走らせ、現世の環境に合わせて調整した新魔法を練り上げる。
「喰らいなさい。―ー『暗黒光裂弾』」
指先から、光を吸い込むような漆黒のレーザーが撃ち出された。
無音で放たれた一撃は、校舎裏に放置されていた粗大ゴミに直撃する。
次の瞬間、空間がぐにゃりと歪み、ゴミは消滅して完全に消え去った。
「ふぅ。少しスッキリしたわ」
『素晴らしい破壊の美学! さすが魔王様です!』
デスモが嬉しそうにその場で高速回転したその時。
「……すご。何今のビーム。激熱じゃん」
突如、頭上から気だるげな男の声が降ってきた。
「ひゃっ♡」
私は飛び上がり、一瞬でぶりっこモードへシフトした。
見上げると、校舎2階の電脳部室の窓から,ノートPCを小脇に抱えた気だるげな少年が身を乗り出していた。
同じクラスの、いつも不登校気味な陰キャオタク――音無ネオンだ。
「あ、あれぇ〜?♡音無くん、いたんだぁ♡?
るな、ちょっとカッコいい手品の練習をしてただけなんだよぅ〜☆」
両手を頬に当て、首を傾げて見せる。冷や汗が止まらない。
見られた。完全にエグい破壊魔法を見られた。記憶消去魔法をかけるべきか!?
しかし、ネオンは窓からハシゴを伝ってするすると降りてくると、眼鏡の奥の目をギラギラと輝かせて私に詰め寄ってきた。
「隠さなくていいよ。今の、手品なんかじゃない。……空間の座標データを直接書き換えて、オブジェクトを完全に消去するグリッチだよね? 君、どんな外部プログラム使ってるわけ?」
「……はぇ…?」
2話連続で、私の口から間抜けた声が出た。
「あの超高エネルギー熱源の放射、既存のサイバー兵器のどれにも該当しない。それを指先一つで実行するなんて……。君、見た目はぶりっこなのに中身はとんでもない凄腕ハッカーなんだね」
「いや、ハッキングじゃなくてこれは魔法……」
「なるほど、『M.A.H.O.U』という自作の次世代プログラミングコードか。
完全に世界をバグらせてる。最高にクールだね。」
「人の話を聞きなさいよ!」
ツッコミが追いつかない。ネオンは私の魔法を、近未来の最先端ハッキング技術だと誤翻訳して、一人で猛烈に感動していた。
『小僧!魔王様の御力をハッキングなどと呼ぶな!殺すぞ!』
足元でデスモが怒声を放つ。
するとネオンは床にしゃがみ込み、デスモの底面を覗き込んだ。
「うわ、このル○バもすごい。AIの会話生成アルゴリズムが自律進化して、めちゃくちゃ滑らかな低音ボイスを生成してる。……ちょっとソースコード見せて。OS書き換えていい?」
『キサマァーーー!! 我のコアデータに触るなァーーー!!』
デスモがパニックになり、ネオンの靴に猛烈な勢いでペチペチとブラシを叩きつけ始めた。
「あはは、面白いな君たち。気に入った」
ネオンはノートPCをパチンと閉じると、不敵にニヤリと笑った。
「天海るな、君の『ハッキング』僕が裏からサイバーサポートしてあげる。
その代わり、僕にそのチートコードを解析させてよ」
「………断ったら?」
私がジト目で睨むと、ネオンはスマホを振ってみせた。
「今の録音音声、学校の掲示板に匿名アップロードしちゃう☆」
「んなっ!いつの間に…!っこの、サイバー脅迫魔め……!!」
「失敬なー。」
私は過去最大級の呪詛を吐き散らしたが、ネオンは聞く耳を持たない。
こうして、元魔王の秘密を握る「専属ハッカー」が仲間に加わった。
迫り来る悪の組織、つきまとうクソ真面目な元勇者、暴走するルンバ、そして魔法をバグと呼ぶ天才ハッカー。もう…なんか。
「……全員めんどくさいわ!!」
私の叫びは、近未来都市の夕焼け空に虚しく響き渡るのだった。
