ドカンと一発、昨日は派手にドローンを粉砕してやった。
お陰で我が忠実なる部下・デスモを家電量販店から救出できたわけだが、代償として私の貯金は完全に底をついた。
「はぁ……パフェが遠のいていくわ……」
翌朝。私は重い足取りで学校の校門へと向かっていた。
今日から新学期。桜も満開である。
私のスクールバッグは、今にもはち切れんばかりにパンパンに膨らんでいる。
中には、どうしても家でお留守番ができなかったデスモが、ギチギチに詰め込まれていた。
『魔王様……。狭いです。死神としての威厳が、布一枚隔てて潰されそうです…。』
「うるさいわね、置いていったら勝手に街を滅ぼしに行くでしょ。大人しくしてなさい」
カバンから響く念話に小声で毒づいた、その時だった。
ゾクッ。
私の背筋を、強烈な戦慄が駆け抜けた。
この魂の奥底まで浄化されるような、胸糞悪いほどに純粋で、圧倒的な――『光のオーラ』。
(まさか、この時代にまだ『聖騎士』の生き残りがいるの……!?)
瞬時に臨戦態勢をとる。右手の指先にどす黒い暗黒魔法の粒子がバチバチと火花を散らす。
カバンの中のデスモも、敵の気配を察して超高速で回転を始め、私の背中でカバンが激しくガタガタと暴れ出す。
「キィー!!!魂を吸い取ってやるー!!」
「黙ってデスモ。」
私は鋭い眼光で、校門の前に立つ「光の主」を睨みつけた。
そこには、左腕に『風紀委員』のデジタルホログラム腕章を巻いた、一人の男子生徒が立っていた。
こいつ…どっかで見たことあるような…
「あ、天海さん⁉︎おはよう。遅刻ギリギリだよ。学級委員長として見過ごせないな」
あ、そういえば同じクラスだったわね。
爽やかな笑顔。整った顔立ち。
間違いない。現世での名前は…たしか新星とかだったか。
今まで対して意識していなかったが…。
あの顔、あの声、あの忌々しい正義の眼差し――。
(勇者……!! 前世で我が不滅の肉体を相打ちで滅ぼした、伝説の勇者……!!)
現世でまさか同じクラスの学級委員長をやっていたなんて!
私の脳内は一瞬でパニックになった。ついに決戦の時が来た。
ここで奴の首を刎ね、前世の雪辱を果たすべきか!? 私の指先の暗黒魔法が、さらに禍々しく膨れ上がる。
しかし、勇者――新星勇斗は、私のエグい殺気とバチバチ光る右手を目の前にして、首を傾げた。
「おや、天海さん。その指先が光るやつ最新のプロジェクションマッピング付きの指輪?
すごく綺麗だね。……でも、校則違反だから学校では外すんだよ?」
「……はえ?」
間抜けた声が出た。
勇斗は、私の魔法を「ハイテクなアクセサリー」だと1000%本気で勘違いして、眩しいほどの善意の笑顔を向けている。
(こ、こいつ……前世の記憶が、1ミリもない……!?)
ハッと我に返った。
ここで私が魔王だと名乗りを上げて戦えば、街は崩壊する。
私の平穏な女子高生ライフも、パフェ巡りの野望も、すべてが泡と消える。
(――引くのよ、魔王! ここは全力の『偽装工作』よ……!)
脳内のギアを,最高出力の「ぶりっこモード」へシフトする。
指先の暗黒魔法を一瞬で消し去り、私は両手をフリフリと振って、上目遣いでうるうるした瞳を勇斗に向けた。
「え、えへへへぇ〜♡勇斗くんおはよぉ〜! これね、ルナのお気に入りのおもちゃなのぉ!
でも校則違反なら、すぐポッケにないないしちゃいまぁす♡」
声音を3オクターブ上げ、わざとらしく胸の前で手を合わせる。
『魔王様ぁぁぁぁー! 何を弱腰な!
今こそ勇者の魂を吸引して、ボコボコにしましょうぞーーー!』
カバンの中のデスモが激怒して暴れ、私のカバンが「ブォォォン!」と生き物のように跳ね上がった。
「うわっ!? 天海さん、今カバンがすごく動かなかったかい!?」
「ふぇっ?♡」
勇斗が目を丸くする。
私は冷や汗を流しながら、カバンを全力でキックして黙らせた。
「な、なんでもないよぅ♡るなのカバン、最近のAI搭載だから!
たまに自立歩行したくなっちゃうみたいでぇ〜♡あははは♡」
「へぇ、最近のスクールバッグはハイテクなんだね。
……でも、天海さんが素直に注意を聞いてくれて嬉しいよ。はい、よくできました」
ポンポン、と勇斗の手が私の頭に優しく触れた。
(……あ?)
前世では神剣を構えて私を睨みつけていた男が、現世では、私の頭を、幼児をあやすように撫でている。
(お、おのれ勇者ァァァ……!! 我が不滅の肉体を気安く触りおって!
あとで絶対にぶちのめして、もやしの芯しか食えぬ身体にしてやるわ……!!)
脳内で過去最大級の呪詛を吐き散らしながらも、私の顔面は完璧な営業スマイルをキープしていた。
「えへへぇ〜☆ 勇斗くんの手、あったかぁい」
「よし、それじゃあ一緒に教室に行こう。あ、荷物が重そうだね。僕が持とうか?」
「えっ! いいのぉ? 勇斗くん、だぁい好き♡」
こうして、元魔王と記憶喪失の元勇者の、最低最悪でちぐはぐな高校生活が幕を開けたのだった。
