空中を自動走行のホログラムバスが飛び交う、近未来のハイテク都市。
その一角にある巨大な家電量販店で私――天海るなは、キラキラした目を輝かせていた。
「わぁ〜☆ 最新型のお掃除ロボットさんだぁ! まんまるで可愛い〜!」
まわりの店員や他のお客さんに聞こえるように、とびきり可愛い「ぶりっこ声」を出す。
よし、周囲の目は「今どきの可愛い女子高生だな」という生温かいものに変わった。
しかし、私の脳内では、地を這うような低音ボイスのモノローグが鳴り響いている。
(フッ……下等生物どもめ。私が本気を出せば、この店舗ごと空間を真っ二つに引き裂くなど造作もないわ。偽装工作のために一般市民のフリをするのも楽ではないな……)
そう。私の前世は、世界を恐怖に陥れた最強最悪の『黒銀の魔王』。
なぜか現代の近未来都市で、ごく普通の女子高生として転生してしまったのだ。
前世の記憶も圧倒的な魔力もバッチリ残っているが、目下の目標は一般市民に魔王だとバレずに、現世の娯楽である「超空間イチゴパフェ」を一口食べることである。
そのために、今日も「無害で可愛い女子高生」の演技に励んでいるわけだが――。
「…ックシュン!」
なんだかこの辺寒くないか?まるで何かが殺気を放っているような…。
そう思った直後。
『ピピ……ピピッ。……オ、オオ……魔王様……!?』
突如、展示されていた円盤型お掃除ロボットが、ガタガタと激しく震え出した。
バグったような電子音の隙間から、私にしか聞こえない超低音の「念話」が響いてくる。
『魔王様!?ご無事だったのですね…!さぁ,ご命令とあらばこの薄汚い家電量販店を今すぐ血の海に変えてご覧に入れましょう!!』
(……は? え、ちょっと待って。あんた、まさかデスサイズ!?)
こいつは前世の魔王軍四天王、触れるものすべての命を吸い尽くす暴君死神の『デスサイズ』。
…だったのだが、現世ではなぜか最新型ルンバに転生し、定価49,800円のプライスタグをぶら下げている。
(なんであんたそんな平べったい鉄クズになってるのよ!)
『わかりません! 目覚めたらこの不自由な肉体に! 鎌の代わりに回転ブラシしか付いておりませぬ! ですが魔王様への忠誠は不滅! さあ、まずはそこの店員の魂を吸引して――』
(やめなさい!ほら、人が怪しむから!普通のロボットのフリして!)
私が焦って「めっ☆」と可愛く指を振ると、死神ロボは『御意ィ……』と悲しげに電子音を鳴らし、その場で「ウィィィン」と虚しく回転を始めた。
その時だった。
――ズドォォォン!!
けたたましい爆発音と共に、家電量販店の正面ガラスが派手に吹き飛んだ。
「ぎゃははは! 最新の量子チップはすべて俺たち『サイバー犯罪組織』がいただく!」
現れたのは、全身をトゲトゲのサイバーパーツで改造した見るからに頭の悪そうな男。
その後ろには、ビーム砲を搭載した巨大な蜘蛛型の多脚虐殺ドローンが控えている。
店内は一瞬でパニックになり、客たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「ひぃっ! 逃げろ!」
逃げ遅れた店員に向かって、蜘蛛型ドローンが非情なロックオンレーザーを照射した。
チャージされるビーム。このままだと、店員が消し炭になる。
(……やれやれ。一般市民の前で派手な魔法は使いたくないんだけど)
私はわざとらしく頭を抱えて、カウンターの物陰に隠れた。
「きゃあああ! 怖いよぅ! 誰かるなを助けてぇ〜!☆」
悲鳴を上げながら、チラリと足元を見る。そこには、私の後を必死に追いかけてきていた元死神ロボの姿があった。
(デスモ、初陣よ。あの鉄クズの足元に突撃しなさい)
『ハッ! 我が大鎌(回転ブラシ)のサビにしてくれよう!』
ウィィィン!と最大出力のモーター音を響かせ、死神ロボがドローンの足元へ猛ダッシュ!
……が、現実は無情である。ロボット掃除機なので、巨大メカの太い脚に小気味いい音を立ててぶつかり、そのままペチペチとブラシを虚しく回転させることしかできない。
「なんだこの玩具は? 邪魔だ!」
サイバー男が死神ロボを蹴り飛ばそうと足を上げる。
(――我が部下に、気安く触るな)
私の瞳は,妖しく紅く輝いた。
空間の温度が一瞬で氷点下まで下がり、圧倒的な魔王のオーラに耐えきれず、周囲の照明やホログラムディスプレイがバチバチとショートし始める。
「ひっ……!? な、なんだこの寒気は……!?」
サイバー男が、恐怖のあまりガタガタと膝を震わせ始めた。
物陰からゆっくりと立ち上がった私は、ぶりっ子らしく両手を頬に当て、ウインクを飛ばした。
「めっ☆」
パチン、と指を鳴らす。
瞬間、蜘蛛型ドローンの真下に漆黒の魔法陣が展開し――次の瞬間、メカは内側から強烈な超重力でペシャンコに潰れ、木っ端微塵に爆発四散した。
「ば、化け物め、覚えとけよーーー!!」
サイバー男は涙目になりながら、一目散に逃げ去っていった。
「あれぇ〜?☆」
私は一瞬で元のぶりっこに戻り、首を傾げる。
「なんかルナが『めっ!』って言ったら、機械さんがお空に飛んでっちゃいましたぁ〜! 不思議ですねぇ〜♡」
こうして、家電量販店の危機は(一応)去った。
私は、慌てて駆け寄ってきた店員に向かって、上目遣いでサイフを取り出した。
「あのぉ……このお掃除ロボットさん、ルナを助けてくれたみたいで可愛いので……買っちゃってもいいですかぁ?♡」
「は、はい! 命の恩人ですし、今なら半額で結構です!」
こうして私は、なけなしのお小遣いと引き換えに、前世の忠実な部下を手に入れたのだった。
帰り道。
夕暮れの街を、私は死神ロボを小脇に抱えて歩いていた。
『魔王様、お救いいただき感謝いたします。……ところで、財布にお金は残っておられますか?』
死神ロボがウィィィンと念話を飛ばす。
「……ゼロよ。半額でも予算オーバーだったわ」
「期間限定パフェ」への道のりは、まだ遠い。
その一角にある巨大な家電量販店で私――天海るなは、キラキラした目を輝かせていた。
「わぁ〜☆ 最新型のお掃除ロボットさんだぁ! まんまるで可愛い〜!」
まわりの店員や他のお客さんに聞こえるように、とびきり可愛い「ぶりっこ声」を出す。
よし、周囲の目は「今どきの可愛い女子高生だな」という生温かいものに変わった。
しかし、私の脳内では、地を這うような低音ボイスのモノローグが鳴り響いている。
(フッ……下等生物どもめ。私が本気を出せば、この店舗ごと空間を真っ二つに引き裂くなど造作もないわ。偽装工作のために一般市民のフリをするのも楽ではないな……)
そう。私の前世は、世界を恐怖に陥れた最強最悪の『黒銀の魔王』。
なぜか現代の近未来都市で、ごく普通の女子高生として転生してしまったのだ。
前世の記憶も圧倒的な魔力もバッチリ残っているが、目下の目標は一般市民に魔王だとバレずに、現世の娯楽である「超空間イチゴパフェ」を一口食べることである。
そのために、今日も「無害で可愛い女子高生」の演技に励んでいるわけだが――。
「…ックシュン!」
なんだかこの辺寒くないか?まるで何かが殺気を放っているような…。
そう思った直後。
『ピピ……ピピッ。……オ、オオ……魔王様……!?』
突如、展示されていた円盤型お掃除ロボットが、ガタガタと激しく震え出した。
バグったような電子音の隙間から、私にしか聞こえない超低音の「念話」が響いてくる。
『魔王様!?ご無事だったのですね…!さぁ,ご命令とあらばこの薄汚い家電量販店を今すぐ血の海に変えてご覧に入れましょう!!』
(……は? え、ちょっと待って。あんた、まさかデスサイズ!?)
こいつは前世の魔王軍四天王、触れるものすべての命を吸い尽くす暴君死神の『デスサイズ』。
…だったのだが、現世ではなぜか最新型ルンバに転生し、定価49,800円のプライスタグをぶら下げている。
(なんであんたそんな平べったい鉄クズになってるのよ!)
『わかりません! 目覚めたらこの不自由な肉体に! 鎌の代わりに回転ブラシしか付いておりませぬ! ですが魔王様への忠誠は不滅! さあ、まずはそこの店員の魂を吸引して――』
(やめなさい!ほら、人が怪しむから!普通のロボットのフリして!)
私が焦って「めっ☆」と可愛く指を振ると、死神ロボは『御意ィ……』と悲しげに電子音を鳴らし、その場で「ウィィィン」と虚しく回転を始めた。
その時だった。
――ズドォォォン!!
けたたましい爆発音と共に、家電量販店の正面ガラスが派手に吹き飛んだ。
「ぎゃははは! 最新の量子チップはすべて俺たち『サイバー犯罪組織』がいただく!」
現れたのは、全身をトゲトゲのサイバーパーツで改造した見るからに頭の悪そうな男。
その後ろには、ビーム砲を搭載した巨大な蜘蛛型の多脚虐殺ドローンが控えている。
店内は一瞬でパニックになり、客たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「ひぃっ! 逃げろ!」
逃げ遅れた店員に向かって、蜘蛛型ドローンが非情なロックオンレーザーを照射した。
チャージされるビーム。このままだと、店員が消し炭になる。
(……やれやれ。一般市民の前で派手な魔法は使いたくないんだけど)
私はわざとらしく頭を抱えて、カウンターの物陰に隠れた。
「きゃあああ! 怖いよぅ! 誰かるなを助けてぇ〜!☆」
悲鳴を上げながら、チラリと足元を見る。そこには、私の後を必死に追いかけてきていた元死神ロボの姿があった。
(デスモ、初陣よ。あの鉄クズの足元に突撃しなさい)
『ハッ! 我が大鎌(回転ブラシ)のサビにしてくれよう!』
ウィィィン!と最大出力のモーター音を響かせ、死神ロボがドローンの足元へ猛ダッシュ!
……が、現実は無情である。ロボット掃除機なので、巨大メカの太い脚に小気味いい音を立ててぶつかり、そのままペチペチとブラシを虚しく回転させることしかできない。
「なんだこの玩具は? 邪魔だ!」
サイバー男が死神ロボを蹴り飛ばそうと足を上げる。
(――我が部下に、気安く触るな)
私の瞳は,妖しく紅く輝いた。
空間の温度が一瞬で氷点下まで下がり、圧倒的な魔王のオーラに耐えきれず、周囲の照明やホログラムディスプレイがバチバチとショートし始める。
「ひっ……!? な、なんだこの寒気は……!?」
サイバー男が、恐怖のあまりガタガタと膝を震わせ始めた。
物陰からゆっくりと立ち上がった私は、ぶりっ子らしく両手を頬に当て、ウインクを飛ばした。
「めっ☆」
パチン、と指を鳴らす。
瞬間、蜘蛛型ドローンの真下に漆黒の魔法陣が展開し――次の瞬間、メカは内側から強烈な超重力でペシャンコに潰れ、木っ端微塵に爆発四散した。
「ば、化け物め、覚えとけよーーー!!」
サイバー男は涙目になりながら、一目散に逃げ去っていった。
「あれぇ〜?☆」
私は一瞬で元のぶりっこに戻り、首を傾げる。
「なんかルナが『めっ!』って言ったら、機械さんがお空に飛んでっちゃいましたぁ〜! 不思議ですねぇ〜♡」
こうして、家電量販店の危機は(一応)去った。
私は、慌てて駆け寄ってきた店員に向かって、上目遣いでサイフを取り出した。
「あのぉ……このお掃除ロボットさん、ルナを助けてくれたみたいで可愛いので……買っちゃってもいいですかぁ?♡」
「は、はい! 命の恩人ですし、今なら半額で結構です!」
こうして私は、なけなしのお小遣いと引き換えに、前世の忠実な部下を手に入れたのだった。
帰り道。
夕暮れの街を、私は死神ロボを小脇に抱えて歩いていた。
『魔王様、お救いいただき感謝いたします。……ところで、財布にお金は残っておられますか?』
死神ロボがウィィィンと念話を飛ばす。
「……ゼロよ。半額でも予算オーバーだったわ」
「期間限定パフェ」への道のりは、まだ遠い。
