「……俺は、由宇(ゆう)の弟です」
───そう、静かに告げた。
椎名くんの声は、まるで、何かから逃げているかのように震えていて。
転校当初のように、どこか心に壁をつくっているような冷たい響きだった。
「やっぱり…………」
先生もまた、震える声で言葉を絞り出す。
その瞳の奥に、チリッと小さな影が落ちた。
「俺が、この学校に来た理由。」
椎名くんは、淡々と続ける。
「……ナツさんが、大好きだった由宇を失ってどれだけ傷ついているのか。それを、確認しに来たんです」
ジワジワと暴かれる真実を前に、先生の瞳は困ったように揺れる。
「それで、」
椎名くんの口元に、ほんの少しだけ笑みが浮かんだ。
「もしだいぶヤバそーだったら」
一拍。
「俺が、代わりになってあげようかなーって」
その言葉が、静まり返った保健室に落ちた。
……それって。
そう思ったのと、先生が狼狽えるように口を開いたのは、ほとんど同時だった。
「あなたが、代わりに……?」
その言葉の意味なんて、深く考えなくてもわかってしまった。
大切な人を失って傷ついた心を、椎名くんが代わりに癒す。
”由宇”の代わりになって。
先生のそばにいる。
それは、つまり──。



