愛する人の代わりにはなれますか【10/10完結】



「それって……どういう……」

「さあ、どういう意味でしょうね」


椎名くんは、微かに笑っている。



冗談なのか。

それとも、本気なのか。


そのどちらとも取れる、酷く曖昧で、絶妙な表情で。



「……そんなの」


おそるおそる口を開く先生の声が、激しく震える。



「そんなこと……っ」


自分でもわからない言葉を探すように、彼女の青ざめた唇が小さく震えた。



「……もし、本当にそうだったら」



先生は一度だけ、祈るように目を伏せて。



「……嬉しいに、決まってるじゃない。だって、だって…っ……。何度、思ったことか……っ…”由宇が、生きて帰ってきてくれたら”って。」



───その言葉を聞いた瞬間。

椎名くんの顔から、全ての温度が消え失せた。




「…………そうですか」



先生には聞こえないほどの小さな声で。

彼は、ぽつりと呟いた。



「じゃあ……俺が頑張って、敵を討たなきゃだな」

「……?」


「……何か言った?」


先生が、涙に濡れた顔を上げる。



「……いえ。なんでもないです」


そう言って、誤魔化すように椎名くんはいつもの笑顔を浮かべた。


───けれど。


彼のその瞳の奥には。

さっきまでとはまるで違う、底無しの、深い闇が渦巻いていた。



私は、彼の横顔をただ見つめることしかできなくて。



どうしてだろうか。



───背筋を、冷たいものが走り抜けるのを感じていた。