*
・
「……そんなこともあったんですね」
先生から一通りの話を聞き終えた椎名くんは、静かに呟いた。
「俺、由宇のそんな顔、知らなかったです」
「……そう?」
「はい」
椎名くんは、ふっと小さく笑った。
「なんか……ちょっと悔しいな」
「え?」
「俺は、六年。センセーは十二年。俺より、センセーのほうがずっと長く一緒にいるし、そのぶん俺の知らない由宇を知ってるじゃないですか」
冗談めかした口調。
だけど、その瞳はひどく寂しそうに揺れていた。
「……でも」
椎名くんが、先生をそっと見つめる。
「聞けてよかったです」
「…………」
「俺の兄が、どんな人だったのか」
そして、彼はほんの少しだけ目を細めた。
その視線は、先生のすべてを記憶に焼き付けようとしているみたいで。
「由宇が最後まで大切にしてた人が、どんな人なのかも」
先生が、また溢れた涙を白い指先で拭う。
そんな彼女の姿を静かに見つめながら、椎名くんはしばらく、何かを考えるように黙り込んでいた。
───そして。
「……センセー」
「なに?」
「……もし、」
そこで、椎名くんが一度だけ言葉を切って、顔を俯かせる。
長い睫毛が、彼の瞳に暗い影を落とした。
「……もし、由宇が死んでなかったって言ったら……どうします?」
「…………え?」
先生の動きがピタリと止まった。
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「……そんなこともあったんですね」
先生から一通りの話を聞き終えた椎名くんは、静かに呟いた。
「俺、由宇のそんな顔、知らなかったです」
「……そう?」
「はい」
椎名くんは、ふっと小さく笑った。
「なんか……ちょっと悔しいな」
「え?」
「俺は、六年。センセーは十二年。俺より、センセーのほうがずっと長く一緒にいるし、そのぶん俺の知らない由宇を知ってるじゃないですか」
冗談めかした口調。
だけど、その瞳はひどく寂しそうに揺れていた。
「……でも」
椎名くんが、先生をそっと見つめる。
「聞けてよかったです」
「…………」
「俺の兄が、どんな人だったのか」
そして、彼はほんの少しだけ目を細めた。
その視線は、先生のすべてを記憶に焼き付けようとしているみたいで。
「由宇が最後まで大切にしてた人が、どんな人なのかも」
先生が、また溢れた涙を白い指先で拭う。
そんな彼女の姿を静かに見つめながら、椎名くんはしばらく、何かを考えるように黙り込んでいた。
───そして。
「……センセー」
「なに?」
「……もし、」
そこで、椎名くんが一度だけ言葉を切って、顔を俯かせる。
長い睫毛が、彼の瞳に暗い影を落とした。
「……もし、由宇が死んでなかったって言ったら……どうします?」
「…………え?」
先生の動きがピタリと止まった。



