愛する人の代わりにはなれますか【10/10完結】

*

・




「……そんなこともあったんですね」


先生から一通りの話を聞き終えた椎名くんは、静かに呟いた。



「俺、由宇のそんな顔、知らなかったです」

「……そう?」


「はい」



椎名くんは、ふっと小さく笑った。



「なんか……ちょっと悔しいな」

「え?」

「俺は、六年。センセーは十二年。俺より、センセーのほうがずっと長く一緒にいるし、そのぶん俺の知らない由宇を知ってるじゃないですか」


冗談めかした口調。

だけど、その瞳はひどく寂しそうに揺れていた。



「……でも」


椎名くんが、先生をそっと見つめる。



「聞けてよかったです」

「…………」

「俺の兄が、どんな人だったのか」



そして、彼はほんの少しだけ目を細めた。


その視線は、先生のすべてを記憶に焼き付けようとしているみたいで。



「由宇が最後まで大切にしてた人が、どんな人なのかも」



先生が、また溢れた涙を白い指先で拭う。


そんな彼女の姿を静かに見つめながら、椎名くんはしばらく、何かを考えるように黙り込んでいた。




───そして。


「……センセー」

「なに?」


「……もし、」


そこで、椎名くんが一度だけ言葉を切って、顔を俯かせる。


長い睫毛が、彼の瞳に暗い影を落とした。




「……もし、由宇が死んでなかったって言ったら……どうします?」

「…………え?」


先生の動きがピタリと止まった。