うちのギルド長が高レベル冒険者なのにスライムしか狩らない。

Lv2。

その響きが、昨日までとはまるで違って聞こえた。

冒険者ギルドに登録して、ルーキーとしていくつもの依頼をこなした。

Lv1になってからも、採集、護衛、討伐。地味な仕事も面倒な仕事も、それなりに真面目にやったつもりだ。

そして昨日。

ギルド連盟から正式に、Lv2への昇格が認められた。

つまり。

「オレも、もう新人じゃないってことだよな」

「いや、まだ新人だろ」

朝の食堂で向かいに座っていた同期が、パンをちぎりながら即答した。

「Lv2だぞ?」

「Lv2の新人冒険者スーラだな」

Lv2の冒険者スーラ様。

なんていい響きだ。

「昨日までLv1だったやつが、急に一人前ぶるな。同期として恥ずかしい」

ぐぬぬ。

こいつとは話が合わない。

オレは残っていたスープを一気に飲み干して、立ち上がった。

Lv2。

一般の冒険者として見れば、まだまだ下の方なのは分かっている。

分かっているけど。

Lv1とLv2では、明確に違う。

だってもう、ほら。

数字が違う。

それに、あとは、そうだな。

こなしてきた依頼の数も違う。

ギルド連盟から、ちゃんと一段上の冒険者として認められたということだ。

だったら。

そろそろ、自分がどのくらい強くなったのか確認してもいい頃なんじゃないか。

そう思った。

いや。

正確には、昨日からずっとそう思っていた。

◇

最初に声をかけたのは、訓練場で剣を振っていた先輩だった。

「先輩、ちょっと模擬戦しません?」

「やだよ」

「なんでですか」

「朝から面倒くさい」

次。

「すみません、今ちょっと時間あります?」

「ない」

「まだ何も言ってないんですけど」

「顔で分かる」

次。

「オレ昨日Lv2に――」

「おめでとう」

「ありがとうございます。それで――」

「忙しいからまたな」

全然相手にされない。

なんだ。

このギルドの連中、向上心が足りないんじゃないか?

こんなに向上心に溢れた冒険者が、朝から自主訓練の時間を設けて来ているんだぞ。

なんかもっと先達として、こう、あるだろ?

「……お前、朝から何してんだ?」

声をかけられて振り向く。

大きな身体。

分厚い腕。

訓練用とはいえ、大盾を片手で持っている。

モアさんだった。

オレはしっぽを大きく振る。

「モアさん!」

「おう」

ちょうどいい。

いや。

かなり、ちょうどいい。

モアさんはLv3。

オレより一つ上だ。

一つだけだ。

しかも、ヤドリギではかなり長く冒険者をやっているベテランだと聞いている。

つまり。

今の自分がどこまで通用するのか測る相手として、これ以上ない。

「模擬戦してください!」

「模擬戦? うちはあんまり模擬戦やらんの、知ってるだろう?」

モアさんは大盾を肩へ担ぎ、面倒くさそうに頭をかいた。

「モアさん、オレ昨日Lv2になったんですよ!」

「聞いたよ。おめでとう」

「ありがとうございます! じゃあ――」

「じゃあ、終わりだな」

「なんでですか!? 今の流れは模擬戦の流れでしょう!」

モアさんが笑った。

その笑い方が、なんとなく子どもを相手にしているみたいで気に入らない。

「今のオレが、Lv3相手にどこまで通用するのか知りたいんです」

モアさんは少しだけ目を細めた。

さっきまでの笑い方とは違った。

「なるほどな」

ようやく話を聞く気になったらしい。

「お願いします」

頭を下げる。

数秒。

モアさんはオレの顔を見て、それから訓練場の奥へ視線を向けた。

「まあ、それなら一回くらいはいいか」

「ほんとですか!」

思わず声が大きくなる。

近くにいた冒険者たちが、こっちを見た。

その中に、ソファに座って飲み物を飲んでいるミルヴスさんの姿もあった。

目が合う。

ミルヴスさんは一瞬だけ眉を上げて、

「あー……またアイツか」

と呟いた。

聞こえてますよ。

「なんですか、その反応!」

「いや、別に。モアさん優しくてよかったな」

全然、別にじゃない顔をしている。

まあいい。

見てれば分かる。

昨日までのオレとは違う。

Lv2になったオレが、どこまでやれるのか。

「ほんじゃ、まあ。始めるか?」

モアさんが大盾を構える。

その瞬間。

さっきまでの空気が、少しだけ変わった。

大きな身体が、さらに大きく見える。

けど。

それでもLv3だ。

一つ上。

届かない相手じゃない。

オレは剣を抜き、『身体強化』を巡らせた。

全身に力が満ちていく。

昨日までとは違う。

今なら。

「お願いします!」

地面を蹴った。