うちのギルド長が高レベル冒険者なのにスライムしか狩らない。

* * *

一仕事を終え、それと同時に厄介な仕事まで抱え込んだ男は、ギルドハウスにある自分の書斎へ戻ってきた。

「――ミルヴスくん。また、そんなところで何してるんですか?」

書斎の灯りをつけると、ソファに身体を投げ出すように寝転がっているミルヴスの姿があった。

「あー、ギルド長。おかえりー」

「はい、ただいま。ミルヴスくんも、お帰りなさい」

ギルド長は抱えていた書類を執務用のデスクへ置いた。

それから二人分のお茶を入れ、一つをソファの前のテーブルへ。もう一つを自分のデスクへ運び、そのまま椅子に腰を下ろす。

「ミルヴスくんは、テオドシウスに出向するといつもそうなりますねぇ」

「いや、だから何回も言ってるけど、テオドシウスにはオレの兄貴たちが――」

ギルド長はミルヴスの言葉を最後まで聞かず、今日まとめていた書類へ視線を落とした。

「また、なんかあったんですか?」

「気になることが、ちょっとね」

「ふーん。オレが『視』ましょうか?」

ギルド長の手が、わずかに止まった。

「……そうだね」

そのまま真剣な表情で、今日の新人引率任務の報告書を開く。

備考欄へ、いくつかの内容を書き加えていった。

少しして、ミルヴスが口を開く。

「……異常は、なさそうですけどね」

「ありがとう」

ギルド長は短く答えた。

それから、書き終えた報告書をもう一度見下ろす。

「そうであってほしいよね」

そう言ってペンを置き、ようやく自分で入れたお茶へ手を伸ばした。

静かな書斎に、湯気だけがゆっくりと立ち上っていた。