帰り際の騒動が嘘だったかのように、帰還はスムーズに完了した。
おばちゃんたちともすっかり仲良くなって、別れ際には商店に出せない食材をたくさん持たせてもらった。
それもすごく助かるし、嬉しかったんだけど。
「あなたたちのおかげで、安心して収穫できたわ。またお願いね」
その言葉が、少し涙腺を刺激するくらいに温かくて、嬉しかった。
きっと、この言葉を私は忘れないと思う。
ギルドハウスへ戻ると、ギルド長が私たちの前に立った。
「皆さん、お疲れ様でした。警護対象に怪我はなし。作物にも損害はなし。――皆さんにも、大きな怪我がなくて本当によかったです」
誰よりも安堵したような声だった。
「反省するところがあった人もいるでしょう。成長に手応えを持った人もいるでしょう。戦うことが怖くなった人もいるでしょう」
ギルド長は、私たち一人ひとりを見るように続ける。
「でも、皆さんは生きて戻ることができました。誇ってください」
ギルド長と目が合ったのは、きっと私だけじゃなかった。
トウマは少し重たい表情をしている。
ビッグラットとの交戦で噛みつかれた人は、腕に包帯を巻いていた。
みんな、それぞれ今日の依頼で何かを持ち帰っている。
「皆さんは冒険者ギルドへ登録し、ルーキーとして数々の依頼をこなしてきました。そして今日、最後の連盟選定依頼を完遂しました」
少しだけ間を置いて、ギルド長が笑う。
「報告書を期日までにギルド連盟へ提出すれば、晴れて皆さんもLv.1冒険者の仲間入りです。これからも無事で。健闘を祈っています」
こうして、私たちのルーキーとしての最後の依頼は幕を閉じた。
疲れ切った仲間同士で労い合う人。
今日の失敗を振り返る人。
トウマの周りには何人かが集まり、さっそく反省会が始まっていた。
私は帰り支度をしていたニアちゃんに声をかけた。
どうしても、聞きたいことができてしまったから。
「ニアちゃん、お疲れ様」
「リナ! 怖いことあったんでしょ? 大丈夫?」
「うん。平気だよ、ありがとう」
そう答えながら、最後にスライムへ襲われた光景を思い出す。
身体が少しだけ震えた。
「ねぇ、ニアちゃん」
「なに?」
「ギルド長って、本当は強い人なんだよね?」
「え?」
ニアちゃんが、本気で意味が分からないという顔をした。
いや、なんでニアちゃんが困惑してるんだ?
エレナですら何が起きたのか分からないほどの速さで、あのスライムを倒した。
弱い人だとは、とても思えない。
「きっと上位魔物とかも倒してたり――」
「しないわよ?」
即答だった。
「じゃ、じゃあ中位の魔物をたくさん倒したり――」
「しないわね」
「え。でも、あんなに強いのに」
「さっきギルド長自身が言ってたじゃない。31,205体」
ニアちゃんが指を一本立てる。
「あ、今日一匹狩ったから、31,206体かしら」
ニアちゃんが嘘をついているようには見えない。
ということは。
本当に、それだけ?
「ギルド長の討伐記録は、31,206体のスライム。以上よ」
そう言い残して、ニアちゃんは荷物を抱え、ギルドハウスから出ていった。
私はしばらく、その背中を見送っていた。
反省会の方へ目を向ける。
話はどんどん白熱しているようで、いつの間にか先輩冒険者まで混ざって討論を始めていた。
私は少し笑って、自分の荷物を抱えた。
拝啓、おじいちゃん。
かねてから目指していた、Lv.1冒険者になりました。
怖いこともあります。
できないことの方が、まだまだ多いです。
でも、いろんな人の笑顔を守れる冒険者という仕事が、私はやっぱりとても好きみたいです。
これからも頑張ります。
P.S.
うちのギルド長、スライムしか狩らないんです。
リナ
おばちゃんたちともすっかり仲良くなって、別れ際には商店に出せない食材をたくさん持たせてもらった。
それもすごく助かるし、嬉しかったんだけど。
「あなたたちのおかげで、安心して収穫できたわ。またお願いね」
その言葉が、少し涙腺を刺激するくらいに温かくて、嬉しかった。
きっと、この言葉を私は忘れないと思う。
ギルドハウスへ戻ると、ギルド長が私たちの前に立った。
「皆さん、お疲れ様でした。警護対象に怪我はなし。作物にも損害はなし。――皆さんにも、大きな怪我がなくて本当によかったです」
誰よりも安堵したような声だった。
「反省するところがあった人もいるでしょう。成長に手応えを持った人もいるでしょう。戦うことが怖くなった人もいるでしょう」
ギルド長は、私たち一人ひとりを見るように続ける。
「でも、皆さんは生きて戻ることができました。誇ってください」
ギルド長と目が合ったのは、きっと私だけじゃなかった。
トウマは少し重たい表情をしている。
ビッグラットとの交戦で噛みつかれた人は、腕に包帯を巻いていた。
みんな、それぞれ今日の依頼で何かを持ち帰っている。
「皆さんは冒険者ギルドへ登録し、ルーキーとして数々の依頼をこなしてきました。そして今日、最後の連盟選定依頼を完遂しました」
少しだけ間を置いて、ギルド長が笑う。
「報告書を期日までにギルド連盟へ提出すれば、晴れて皆さんもLv.1冒険者の仲間入りです。これからも無事で。健闘を祈っています」
こうして、私たちのルーキーとしての最後の依頼は幕を閉じた。
疲れ切った仲間同士で労い合う人。
今日の失敗を振り返る人。
トウマの周りには何人かが集まり、さっそく反省会が始まっていた。
私は帰り支度をしていたニアちゃんに声をかけた。
どうしても、聞きたいことができてしまったから。
「ニアちゃん、お疲れ様」
「リナ! 怖いことあったんでしょ? 大丈夫?」
「うん。平気だよ、ありがとう」
そう答えながら、最後にスライムへ襲われた光景を思い出す。
身体が少しだけ震えた。
「ねぇ、ニアちゃん」
「なに?」
「ギルド長って、本当は強い人なんだよね?」
「え?」
ニアちゃんが、本気で意味が分からないという顔をした。
いや、なんでニアちゃんが困惑してるんだ?
エレナですら何が起きたのか分からないほどの速さで、あのスライムを倒した。
弱い人だとは、とても思えない。
「きっと上位魔物とかも倒してたり――」
「しないわよ?」
即答だった。
「じゃ、じゃあ中位の魔物をたくさん倒したり――」
「しないわね」
「え。でも、あんなに強いのに」
「さっきギルド長自身が言ってたじゃない。31,205体」
ニアちゃんが指を一本立てる。
「あ、今日一匹狩ったから、31,206体かしら」
ニアちゃんが嘘をついているようには見えない。
ということは。
本当に、それだけ?
「ギルド長の討伐記録は、31,206体のスライム。以上よ」
そう言い残して、ニアちゃんは荷物を抱え、ギルドハウスから出ていった。
私はしばらく、その背中を見送っていた。
反省会の方へ目を向ける。
話はどんどん白熱しているようで、いつの間にか先輩冒険者まで混ざって討論を始めていた。
私は少し笑って、自分の荷物を抱えた。
拝啓、おじいちゃん。
かねてから目指していた、Lv.1冒険者になりました。
怖いこともあります。
できないことの方が、まだまだ多いです。
でも、いろんな人の笑顔を守れる冒険者という仕事が、私はやっぱりとても好きみたいです。
これからも頑張ります。
P.S.
うちのギルド長、スライムしか狩らないんです。
リナ



