うちのギルド長が高レベル冒険者なのにスライムしか狩らない。

「リナ! 大丈夫?」

「――う、うん」

情けない。

私はその場から動くこともできず、泣いていた。

駆けつけたエレナが、私の肩を強く抱き締めてくれている。

「ギルド長! 申し訳ありません、オレの判断が――」

「トウマくんの判断にも、指示にも、ひとつもミスはありませんでしたよ」

エレナの肩越しに、私は二人のやり取りを見ることしかできなかった。

ギルド長は、スライム一匹が収まる程度の小さな結界を維持しながら、その動きをじっと観察している。

スライムは何度も、何度も、結界へ身体をぶつけていた。

「攻撃性……いや。これは、執着?」

届くはずのない私へ向かって、それでも何度も身体をぶつけようとしている。

そう見えた。

「トウマくん。帰還の準備をしましょう。今からなら予定通りの時間に戻れるでしょうし」

そこでギルド長は、少しだけ笑った。

「ミルヴスくん、今日は機嫌が悪いと思うので。僕もしかられずに済みそうです」

トウマの張り詰めていた表情が、ほんの少しだけ緩んだ。

「さて」

やがて、スライムの動きが止まった。

ギルド長はそれを確認すると、結界を維持したまま、ゆっくりと地面へ降ろしていく。

地面に着いても、スライムは動かなかった。

しばらく観察したあと、ギルド長が結界を解除する。

ようやく手足の先に力が戻ってきた。

私はエレナの肩を借りながら立ち上がる。

「ギルド長、ありがとうございました」

「無事でよかったです。僕の引率の仕事なので、感謝は要らないですけどね」

その言葉に少し安心して、私はスライムへ一歩近づいた。

その瞬間だった。

ピクリとも動かなかったスライムの身体が跳ねる。

鋭く尖った触手が、真っすぐ私へ伸びてきた。

「リナ、下がって!」

エレナが私の肩を強く引き、自分の身体を私の前へ滑り込ませる。

――けれど。

触手は、私たちへ届くより先に勢いを失った。

スライムの身体ごと、霧のように崩れていく。

一拍遅れて。

キン、と高い音が響いた。

「リナさん。油断はダメです」

ギルド長は、いつもと変わらない声で言った。

「スライムだって、生きるために必死なんですから」

その手には、すでに刃を収めた折りたたみナイフが握られていた。

「……見えなかった」

エレナが、霧散していくスライムを見つめる。

それから、信じられないものを見るようにギルド長へ視線を向けた。

「私が前に出るより、先に……?」

「さ、リナさん、エレナさん。依頼任務は帰るまで、ですよ?」

そう言って笑うと、ギルド長はまるで散歩帰りのような足取りで、先に集まっている隊列の方へ歩いていった。

「……てき」

「え?」

私は、エレナが何と言ったのか本当に分からなかった。

エレナはゆっくりと隊列の方へ向き直る。

というか、たぶん絶対に、ギルド長を見ていた。

「《スライム狩り》様、すてき」

その目は、さっきまでとは確かに違っていた。

私も――ほんの少しだけ。