うちのギルド長が高レベル冒険者なのにスライムしか狩らない。

関所を抜けると、城下町の喧騒は少しずつ小さくなっていく。

関所前で合流した市民の方々の表情も柔らかく、冒険者を信用してくれているのが伝わってくる。

隊列の先頭を歩くのは、エレナともう一人の斥候だ。その少し後ろに、全体を見ながら指揮を取るトウマが続く。

市民の方々を挟むように、重装備の冒険者が左右へ少し広がって歩き、私と何人かの子は最後尾から後方を警戒する。

「確かに、何もしないとは言ってたけど……なんであの人、あんな遠くなの?」

引率役のはずのおじさんは、さらにその後ろだった。

散歩を楽しむかのように最後方をゆっくり歩いていると思えば、市民の方と仲良く喋っていたり、いつの間にか脇の草花をじーっと観察していたり。今は何故か、草陰から出てきた小さいスライムと睨めっこしている。

「お嬢さんたち、ルーキーの任務の最後なんでしょう?あの方が引率で良かったわねぇ」

「そうねぇ。ミルヴスさんも素敵だけど、あなたたちにとってはよりラッキーだと思うわよぉ」

「えー、あの冴えないおじさんがですかぁ?」

そう言った瞬間に、パーティの全員が冷ややかな目で私を見た。

あ、エレナと一緒に過ごしてきた中で一番怖い、いや呆れた顔してる。

「え、あなたまさか、あの人のこと知らないの?」

一緒に護衛をしていた女の子が、幽霊でも見たかのような顔をしてそう聞いてきた。さすがの私でも、ちょっと嫌な予感がしてきたぞ?

その子は、おじさんに聞こえないように、私に耳打ちをして告げる。

「えーーーーー?!あの冴えないおじさんが、ヤドリギのギルド長なの?」

「あっははぁ。威厳ないってよく言われるんですよね、すみません」

いつの間にか隣におじさーーいや、ギルド長が居た。ギルド長は本当に申し訳なさそうに頬を指で掻きながらそう言った。

「信じられない。私なんて、この方に憧れてヤドリギでの研修を希望したのよ?この方は巷では《」

「総員警戒態勢!!!」

前方からトウマの怒号が響く。市民の方を咄嗟に中央に固めて、私たちは警戒を続ける。

エレナがトウマの側から走ってきて、私たちに異変の正体を伝えた。

「大型のフリーボアが一体出現。家畜の放牧地の方を見ているけれど、現在のところ警戒域にも入っておらず、隊列は停止しつつ様子を見る」

「了解」

「命令があった時にはすぐに撤退できるように、準備もしてね。頼んだわよリナ」

「うん、エレナたちも気をつけて」

情報の伝達をして、エレナは信じられない速さでトウマの元へ戻り、また自分の配置へと戻っていくのだった。

結局、フリーボアはそのまま茂みに消えて、私たちは予定通りに進み始めた。

急な緊張で少し怖かったけど、私たちよりも怖いであろう市民の人たちはどこか安心しているような感じもして、もしかしたらギルド長が居てくれているからなのかな?なんて思ったりもした。

「フリーボア……この人数の人間を見て逃げ退くまでの判断が遅かったですねぇ」

そう何かを呟いたギルド長の瞳は、影になってよく見えなかった。