ある朝の訓練場。
「そういえば、いつだったかLv3になったどっかのお坊っちゃまが、オレに模擬戦挑んできたことあったなぁ」
モアがそう言うと、ミルヴスがキッと睨んだ。
スーラの騒動は、若気の至りとはいえ、多くの冒険者がギルド長の言葉を受け取る大きなきっかけになった。
「あん時はオレも若かったし……それに、いつも言ってるけど、お坊っちゃまとか言うな」
「なんで、そんな嫌がるかねぇ」
「嫌がってはないさ。誇りもあるしね」
ミルヴスは少しだけ視線を逸らした。
「でも、それ以上に――あの人にもらった“ミルヴス”って名前を気に入ってるだけだよ」
戦闘訓練をする冒険者たちの掛け声が、遠くに響いている。
モアは傍らの大盾に手をかけ、表面に刻まれた無数の傷を指でなぞった。
「そういえば、お前さんと同期で入ったあいつ。パン屋で繁盛してるそうじゃあないか」
「あー、バチェッタな! よく覚えてるな」
「あの事故は忘れられんよ」
モアの指が、盾の傷の一つで止まる。
「ギルド長がいなかったら、あいつは今ごろパンを焼いてるどころか、この世にいなかったかもしれん」
冒険者に危険はつきものだ。
勇敢だから危険なのではない。
スライムを狩るだけでも。
探索に出るだけでも。
事故や怪我は起こる。
命を落とすことだってある。
だからこそ。
「退路を、どんな時にも確保する」
モアが静かに言った。
「ヤドリギの方針が、バチェッタたちを死なせなかった」
「そうだな」
ミルヴスが頷く。
少しの間。
二人とも、訓練場を眺めていた。
「いつかさ」
ミルヴスが言う。
「なんであの人が、ヤドリギをこんなギルドにしたのか。聞いてみたいもんだな」
モアは小さく笑った。
「そうだな」
その時。
「あー! モアさん、ミルヴスさん、ちーっす!」
後ろから、聞き慣れた大声が響いた。
ミルヴスが露骨に顔をしかめる。
「まぁた、うるせぇのが来たよ」
「うわ、なんでそんなこと言うんですか? パワハラっすよ?」
「どこがだよ」
「そんなことより、モアさん!」
「なんだ?」
スーラは、目を輝かせて大きな声で言った。
「今日も模擬戦お願いします!」
一瞬。
モアはスーラの顔を見た。
そして。
小さく笑う。
「ふっ。言うと思った」
「そういえば、いつだったかLv3になったどっかのお坊っちゃまが、オレに模擬戦挑んできたことあったなぁ」
モアがそう言うと、ミルヴスがキッと睨んだ。
スーラの騒動は、若気の至りとはいえ、多くの冒険者がギルド長の言葉を受け取る大きなきっかけになった。
「あん時はオレも若かったし……それに、いつも言ってるけど、お坊っちゃまとか言うな」
「なんで、そんな嫌がるかねぇ」
「嫌がってはないさ。誇りもあるしね」
ミルヴスは少しだけ視線を逸らした。
「でも、それ以上に――あの人にもらった“ミルヴス”って名前を気に入ってるだけだよ」
戦闘訓練をする冒険者たちの掛け声が、遠くに響いている。
モアは傍らの大盾に手をかけ、表面に刻まれた無数の傷を指でなぞった。
「そういえば、お前さんと同期で入ったあいつ。パン屋で繁盛してるそうじゃあないか」
「あー、バチェッタな! よく覚えてるな」
「あの事故は忘れられんよ」
モアの指が、盾の傷の一つで止まる。
「ギルド長がいなかったら、あいつは今ごろパンを焼いてるどころか、この世にいなかったかもしれん」
冒険者に危険はつきものだ。
勇敢だから危険なのではない。
スライムを狩るだけでも。
探索に出るだけでも。
事故や怪我は起こる。
命を落とすことだってある。
だからこそ。
「退路を、どんな時にも確保する」
モアが静かに言った。
「ヤドリギの方針が、バチェッタたちを死なせなかった」
「そうだな」
ミルヴスが頷く。
少しの間。
二人とも、訓練場を眺めていた。
「いつかさ」
ミルヴスが言う。
「なんであの人が、ヤドリギをこんなギルドにしたのか。聞いてみたいもんだな」
モアは小さく笑った。
「そうだな」
その時。
「あー! モアさん、ミルヴスさん、ちーっす!」
後ろから、聞き慣れた大声が響いた。
ミルヴスが露骨に顔をしかめる。
「まぁた、うるせぇのが来たよ」
「うわ、なんでそんなこと言うんですか? パワハラっすよ?」
「どこがだよ」
「そんなことより、モアさん!」
「なんだ?」
スーラは、目を輝かせて大きな声で言った。
「今日も模擬戦お願いします!」
一瞬。
モアはスーラの顔を見た。
そして。
小さく笑う。
「ふっ。言うと思った」



