うちのギルド長が高レベル冒険者なのにスライムしか狩らない。

◇

翌日。

「モアさん」

「ん?」

「ギルド長どこ行ったか知ってます?」

朝の訓練を終えたモアさんは、大盾を壁へ立てかけながら振り返った。

「さあな」

「また仕事ですかね」

「どうだろうな」

少し考えてから、モアさんが笑う。

「あの人のことだから、スライムでも狩ってるんじゃないか?」

「またですか?」

「さあ?」

「僕だって好き好んでスライム狩ってるんじゃないんですよ」

背後から声がした。

振り向く。

ギルド長が立っていた。

「おっと。お前さん、帰ってきてたのか」

「これは失礼ですねぇ、モアさん」

口ではそう言っているけど、別に怒ってはいない。

いつも通りだ。

その右手には、小さな布包みが握られていた。

「で、スーラくん。何か用ですか?」

「あ、いや」

特に用はない。

昨日から。

なんとなく、ギルド長のことが気になっていた。

見つけると声をかけたくなる。

それだけじゃない。

この人が何を考えて、何のために戦っているのか。

少しだけ、知りたくなっていた。

「別に……」

そう答えかけて、やめる。

「ギルド長って、どうしてスライムばかり狩ってるんですか?」

ギルド長が歩き出しかけて、足を止めた。

「急にどうしました?」

「いや。高レベルの冒険者なら、もっと強い魔物を狩ったほうが効率がいいんじゃないかと思って」

「なるほど。スーラくんは勇敢なんですね」

ギルド長はそう言って、布包みへ視線を落とした。

「え、バカにしてます?」

「いいえ。本心です」

いつもの柔らかな表情のまま、続ける。

「僕は怖いから、強い魔物とは戦わないんです。それだけですよ」

「でも、あなたは弱くないじゃないですか」

「……模擬戦が、もし本当の戦いだったら。スーラくんはどうなっていましたか?」

胸のあたりが、ちくりとした。

昨日。

指先を置かれた場所。

「……ギルド長に殺されてました」

「そうですね」

あっさり言われた。

でも、声は優しい。

「スーラくんは勇敢ですし、弱くもない。でも、条件が違えば、昨日みたいに命を落とすこともある」

ギルド長は少しだけ目を細めた。

「だからね。命を落とさずに、次のチャンスへ繋げることも、勇敢さの形の一つだと僕は思うんですよ」

柔らかな口調だった。

なのに。

その目の奥だけが、少し遠いところを見ているように思えた。

何かを知っている目だった。

オレの知らない。

たぶん。

もっとずっと重い何かを。

ギルド長は布包みを開いた。

中には、乾きかけた半透明の欠片が入っている。

見覚えがあった。

「スライム?」

「……の残留物です」

ギルド長はそれを眺める。

さっきまでの柔らかな表情が、ほんの少しだけ変わった。

「ちょっと気になることがあったので、分析に回します」

「なんだ」

思わず笑った。

「やっぱり狩ってるんじゃないですか」

「だから、今日は狩ってませんって」

「でもスライム持ってるじゃないですか」

「拾っただけです」

「同じようなもんでしょう」

「全然違いますよ」

また始まった。

でも。

なんとなく。

昨日までとは違って見える。

ギルド長は、ただ強いだけの人じゃない。

誰も見向きもしないようなものの中から、何かを見つけようとしている。

その考え方が。

少し、気になった。

もっと知りたいと思った。

分かったことは。

ギルド長は、ただ者じゃないってこと。

それから。

どうやら――

うちのギルド長は、高レベル冒険者なのにスライムしか狩らない。

……らしいってこと。