うちのギルド長が高レベル冒険者なのにスライムしか狩らない。

ミルヴスさんは、しばらくオレを見ていた。

さっきまでの面倒くさそうな顔とは、少し違う。

「……まあ、いいか」

「え?」

「一回だけな」

立ち上がる。

場内の空気が、一段張り詰めたのが分かった。

ミルヴスさんは戦闘指南役でもある。

だけど、模擬戦をしているところは見たことがない。

それなのに、なぜか今はやる気になってくれている。

なら、それでいい。

「お願いします!」

剣を構える。

ミルヴスさんは素手のまま、軽く手を上げた。

「いつでもどうぞ」

その余裕。

絶対、後悔させる。

『身体強化』。

脚へ魔力を回す。

踏み込――

「そこから来る?」

止まった。

「……え?」

「いや。来るなら来いよ」

何だ、今の。

気を取り直す。

今度は左。

肩を入れて――

「え?」

いつの間にか、左手首を制されていた。

ピクリとも動かない。

「……」

じゃあ右。

足を踏み替える。

また動かれる。

正面。

魔力を強める。

今度は先に距離を詰められた。

「うわっ」

剣を振れない。

慌てて下がる。

観客から笑い声に混じって、若干引いたような声まで聞こえてきた。

「何もさせてもらえてねぇぞ!」

「ちょっとミルヴスさん、エグすぎねぇか?」

「うるさい!」

もう一度。

フェイント。

潰される。

踏み込み。

潰される。

剣を振る。

届かない。

「残念。――『視』えてるよ」

振る前に距離を詰められる。

離れれば、もうそこにいる。

何なんだ。

こいつ。

「くそっ!」

頭にきた。

考えるからダメなんだ。

だったら。

真正面から行く。

「うおおおっ!」

『身体強化』を全身に乗せる。

一気に踏み込む。

小細工はなし。

体格なら、オレの方が上だ。

今度こそ。

剣を振る。

ミルヴスさんが正面から受けた。

ぶつかる。

――勝てる。

そう思った次の瞬間。

身体が押し返された。

「え?」

一歩。

二歩。

止まらない。

そのまま尻から地面に落ちる。

観客がどっと沸いた。

「うそだろ!」

「体格差あるぞ!」

オレも同じことを思っていた。

「……なんで?」

ミルヴスさんは軽く肩を回した。

「『身体強化』ーー雑」

「は?」

「出力は良いけど、全部にかけすぎ」

それだけ言う。

腹立つ。

でも。

今の一撃。

ミルヴスさんの身体は、細いのにびくともしなかった。

脚から腰。

腰から背中。

背中から腕。

全部が一本に繋がったみたいだった。

オレとは違う。

「……ずるくないですか」

「何が?」

「見るのも上手い。身体強化も上手い」

「んー、お前の言うLv4だからじゃない?」

ミルヴスさんが、少しだけ目を細める。

観客の誰もが妙な顔をした。

モアさんだけは、何かを感じ取ったのか、静かに頷いている。

モアさんはLv3。

読みも、盾の使い方も、圧倒的に強かった。

ミルヴスさんには、何もさせて貰えなかった。

だってLv4だから。

ほら。

やっぱり。

数字が上がるほど強いんだ。

なら。

その上は?

その上になったら、どれだけ強いんだ?

Lv5。

Lv6。

それから――

「あ」

いるじゃん。

もっと上が。

「ミルヴスさん」

「ん?」

「ギルド長って、Lvいくつでしたっけ?」

ミルヴスさんの顔が。

ものすごく嫌そうになった。