「ぼく大きくなったら《竜殺し》になる!」
賑わう広場の一角に、そんな可愛らしい声が響く。
石畳の広場には露店が立ち並び、焼き菓子や果物を売る声に、荷車の車輪が転がる音が混じっていた。中央の噴水では水しぶきが陽の光を弾き、その周囲を買い物客や旅人、装備を整えた冒険者たちが行き交っている。
「あら、じゃあ未来の大英雄さんね」
少年と手を繋いでいた母親は、優しく笑いかける。
この世界には冒険者がおり、多くのギルドも存在している。その中でも、圧倒的な実力や、大きな実績を成した者には、その者だけを指す名が与えられることがある。
《竜殺し》も、そのひとつだった。
「ほらママ早くー!」
そう言って走り出した少年は、母親を何度も振り返るので、前方への注意がおろそかになっていた。
噴水公園を囲む低い石段に躓き、その場に転んでしまう。
周囲の視線が少年と、慌てて駆け寄る母親に向けられた。
「うわーん、痛いよぉ」
母親に抱き起こされた少年は、両手で目を覆いながら、大きな口をあけて泣いている。左の膝と、おでこには擦り傷が出来ていた。
「あらあら、痛かったわね。どうしましょう、今は傷に当ててあげられる物もないわ」
母親が優しく接するのを見て、周囲は少しずつ視線を外していく。
露店の呼び声も、人々の話し声も、すぐにいつもの広場の喧騒へ戻っていった。
その中で、一人の少女だけが少年と母親に近づいていく。
「きーみ、どうしたの?」
少年が、その声の先を見上げる。
ちょうど少女の背後に太陽が重なっただけだったのだが、少年にはその少女が光っているように見えただろう。
「ちょっと待ってね」
少女は優しく、左膝に手を当てる。
祈るように目を閉じているが、表情は柔らかい。
少年が安心すると、涙も自然と止まっていった。
少女は次に、おでこへ手を当てる。
陽だまりのような温もりのある手を、少年はじっと見つめた。
「どうかな? もう平気そう?」
そう言って少女は笑う。
さっきまで広場に響くほど泣いていた少年も、釣られて笑っていた。
「うん! もう大丈夫。ありがとうお姉ちゃん!!」
「あら、血が止まってる? ありがとうございます」
「いえいえー! お役に立ててなによりです!」
少女のローブに丁寧に縫い付けられた紋章を、母親が見つける。
「冒険者さんだったんですね」
そう母親が聞こうとした、その瞬間だった。
少女は何かを思い出したように目を見開き、咄嗟に立ち上がる。
そして、懐中時計を確認した。
「やばーい! これから、最後の連盟任務なんです!! そ、そ、それじゃああ!」
少女は人だかりの中へ駆け出していく。
すぐに人影の中へ吸い込まれていったが、時折遠くから、
「すみませーん!」
という声だけが聞こえてくる。
少年と母親は顔を見合わせ、思わず笑うのだった。
賑わう広場の一角に、そんな可愛らしい声が響く。
石畳の広場には露店が立ち並び、焼き菓子や果物を売る声に、荷車の車輪が転がる音が混じっていた。中央の噴水では水しぶきが陽の光を弾き、その周囲を買い物客や旅人、装備を整えた冒険者たちが行き交っている。
「あら、じゃあ未来の大英雄さんね」
少年と手を繋いでいた母親は、優しく笑いかける。
この世界には冒険者がおり、多くのギルドも存在している。その中でも、圧倒的な実力や、大きな実績を成した者には、その者だけを指す名が与えられることがある。
《竜殺し》も、そのひとつだった。
「ほらママ早くー!」
そう言って走り出した少年は、母親を何度も振り返るので、前方への注意がおろそかになっていた。
噴水公園を囲む低い石段に躓き、その場に転んでしまう。
周囲の視線が少年と、慌てて駆け寄る母親に向けられた。
「うわーん、痛いよぉ」
母親に抱き起こされた少年は、両手で目を覆いながら、大きな口をあけて泣いている。左の膝と、おでこには擦り傷が出来ていた。
「あらあら、痛かったわね。どうしましょう、今は傷に当ててあげられる物もないわ」
母親が優しく接するのを見て、周囲は少しずつ視線を外していく。
露店の呼び声も、人々の話し声も、すぐにいつもの広場の喧騒へ戻っていった。
その中で、一人の少女だけが少年と母親に近づいていく。
「きーみ、どうしたの?」
少年が、その声の先を見上げる。
ちょうど少女の背後に太陽が重なっただけだったのだが、少年にはその少女が光っているように見えただろう。
「ちょっと待ってね」
少女は優しく、左膝に手を当てる。
祈るように目を閉じているが、表情は柔らかい。
少年が安心すると、涙も自然と止まっていった。
少女は次に、おでこへ手を当てる。
陽だまりのような温もりのある手を、少年はじっと見つめた。
「どうかな? もう平気そう?」
そう言って少女は笑う。
さっきまで広場に響くほど泣いていた少年も、釣られて笑っていた。
「うん! もう大丈夫。ありがとうお姉ちゃん!!」
「あら、血が止まってる? ありがとうございます」
「いえいえー! お役に立ててなによりです!」
少女のローブに丁寧に縫い付けられた紋章を、母親が見つける。
「冒険者さんだったんですね」
そう母親が聞こうとした、その瞬間だった。
少女は何かを思い出したように目を見開き、咄嗟に立ち上がる。
そして、懐中時計を確認した。
「やばーい! これから、最後の連盟任務なんです!! そ、そ、それじゃああ!」
少女は人だかりの中へ駆け出していく。
すぐに人影の中へ吸い込まれていったが、時折遠くから、
「すみませーん!」
という声だけが聞こえてくる。
少年と母親は顔を見合わせ、思わず笑うのだった。



