現在、クロロの森を所有するオーベル子爵は、この森を手放すかどうかの瀬戸際に立っている。
その理由は、今夏の大雨によって河川が氾濫し、主要道路が使えなくなってしまったからだ。
在地差配人の話によれば、オーベル子爵は道路を復旧させようと動いてくれている。しかし、猫の額ほどしかないこの領は収入源が少ない上、主要都市とも繋がっていないので国からの支援も後回しにされていて、財源確保が難しいという。
そこに声をかけてきたのが隣領のリント伯爵だ。
リント伯爵はクロロの森を高値で買おうと意欲的な姿勢を見せている。これはオーベル子爵を助けたいからではなく、この森を手に入れてリゾートホテルを開発するためだと言われていた。
自然豊かなこの森を破壊されることに抵抗があるオーベル子爵は、どれだけ大金を積まれても突っぱねている。しかし、それも時間の問題だ。
次の夏までに主要道路を整備して復旧させないといけない。再び大雨に見舞われたら、さらなる被害が出てしまうからだ。ある一定の所で、決断を下さなくてはいけない。
そして、クロロの森がリント伯爵の手に渡ればミゼリアは立ち退かなくてはいけない。この家だって失ってしまう。
「先生との思い出が詰まった家を失うのも、自然豊かな森を失うのも絶対嫌。なんとかしてお金を稼いで阻止しないと」
ここ一帯が更地になるところを想像して、身体がぶるりと震える。
暖炉に目をやれば、いつの間にか火が消えていた。どうりで寒いわけだ。
ミゼリアは椅子にかけてあった厚手のショールを羽織り、外に備え付けられている薪棚へ薪を取りに行く。
扉を開ければ、冷たい風が容赦なく吹きつけてきて体温を奪った。
「ううっ、寒い」
扉を閉めて冷たくなった指先にはあっと息を吐く。今日は昨日よりも寒さが厳しい。
手を擦りあわせてから歩いていると、遠くから声がした。



