世界各地から集まった選りすぐりの剣士や魔法師、魔法使いと魔女たち――中でも最も活躍した四人の英雄によって、とうとう魔王は倒されたのだ。
泰平の世になって以降は、神の祝福を受ける者の数は年を経るごとに減っていった。今では魔法師よりも魔法使いと魔女は稀有な存在となっている。
ミゼリアが先生と呼んでいるバーバラは、神の祝福を受けた『霊薬の魔女』だった。
どんな不治の病も彼女の霊薬があれば瞬く間に完治する。
しかし、バーバラにも作れないものがあった。その一つが精神操作系だ。
(先生は精神状態の異常をもとに戻す霊薬は作れるけど……どこかで話がねじ曲がって好きな人の愛を得られる霊薬が作れるって内容に変わったのね)
バーバラが作れるのは人々の心や身体を癒やすものだけ。したがって、この令嬢が求めているような霊薬は、仮に彼女が生きていたとしても提供できない。
ミゼリアは手のひらサイズの缶を令嬢の前に置いた。
「代わりといっては何ですが、私が作った特製ハーブティーなどいかがですか? リラックス効果があるので好きな相手の前でも緊張することなくお話しでき……」
「そんなもの、こんな冴えない店じゃなくても王都でいくらでも買えるわよ。っていうか、うちの商会に言えばもっと良いものだって国内外で買えるんだから!!」
怒り狂った令嬢はそのまま踵を返して帰っていった。
乱暴に扉が閉められ、扉につけられていたベルが激しく揺れる。
ミゼリアはふうっと小さく息を吐いてカウンターに突っ伏した。
外からはぶつくさと不平不満を漏らす令嬢の声がまだ聞こえてくる。
次第に遠のいて聞こえなくなると、ミゼリアは顔を上げて叫んだ。
「私だって……私だって大金が欲しかったよ!!」
ミゼリアは令嬢が小切手に書いていた額を思い出す。
あれだけの金額があれば、クロロの森を守る費用に充てられるかもしれない。



