忘却魔女ミゼリアの恋煩い〜記憶喪失中につき、あなたの呪いは解けません〜



「私はただの薬師です。仮に魔女だとしても、先生のような霊薬は作れません。ご存じの通り、神の祝福に同じ力は存在しないので」



 この世界には呪文を詠唱して意のままに風を操ったり、水を出したりできる人間がいる。
 彼らは魔法師と呼ばれていて、どの国でも重宝されている。その理由はすべての人間に魔力があったとしても、魔法を扱えるわけではないからだ。

 通常、魔法が使えるのは豊富な魔力を持っている者に限られている。そのほとんどが貴族の子供で彼らは魔法学校へ入学し、技能や知識を学んで研鑽を積み、魔法師としての免許を取得するのが通例だ。

 しかし、生まれながらに豊富な魔力が備わっていなくとも、突如として不思議な力を扱える者が存在する。
 それが、神から祝福されて力を与えられた者たち――魔法使いや魔女といった存在だ。


 魔法使いや魔女はある日突然、不思議な力に目覚める。
 もともと、この祝福は魔王を討伐するために神が人間に与えたものだった。

 今から七百年前、魔王は魔物を従えて勢力を伸ばし、この世界を蹂躙していた。
 どれだけ優れた魔法師や剣士がいようと、人間よりも圧倒的な力を誇る魔王には歯が立たなかった。毎日至る所で殺戮が繰り返され、尊い命が犠牲になっていく。
 世界の人口は激減し、この世界を見守っていた神は遂に介入を決意した。

 それは魔力のない人間に力を与え、魔王に対向できる新たな勢力を生み出すこと。
 これによって魔法使いや魔女が数多く輩出され、三百年前に形勢が逆転した。