忘却魔女ミゼリアの恋煩い〜記憶喪失中につき、あなたの呪いは解けません〜



 雪が降り積もる冬枯れの季節。
 ロエウルム王国東部に位置するオーベル領には、クロロという名の森がある。


 森の入り口には茅葺き屋根の小さな家があり、玄関扉の上には『クロロ薬草店』という看板がかけられていた。

 店内は薬草独特の香りに包まれていて、天井からは乾燥された薬草が吊されている。
 棚一面には、瓶詰めされた薬がびっしりと並んでいて、それぞれにどんな効能があるのかラベルが貼られて分かるようになっていた。

 店の奥にはカウンターがあり、後ろの棚には秤や小瓶、紙袋といった販売に必要な道具と備品が置かれている。
 その手前には商談ができるちょっとした応接スペースが設けられていた。


 このこぢんまりした店内には現在、華やかな身なりをした令嬢がいる。カウンター越しに立っているミゼリアに対し、令嬢は柳眉を逆立てていた。


「わざわざ足を運んだっていうのに、薬が作れないってどういうこと? あの人の愛を手に入れるためには、愛の霊薬が必要なのよ!」

 令嬢がバンッとカウンターを叩いて身を乗り出し、凄んでくる。
 ミゼリアは山吹色の髪を揺らし、両手を軽く上げた。そして再度、事情を説明する。

「ですから、薬を作れる魔女が数ヶ月前に身罷りまして。霊薬は用意できないんです」
「あなたも魔女なら同じように作ればいいのよ。うちは貴族じゃないけど、商家だからお金ならあるの。報酬はたっぷりと弾むわ」


 令嬢は小さなカバンから一枚の小切手を取り出し、大金をちらつかせてくる。
 思わずごくりと生唾を飲むミゼリアだったが、すぐに頭を振って自制した。