公爵様に、「父親と歳が近い男は嫌だろう?」と言われましたが、私そんなに若くないですけど。



――そして現在。夜会会場で壁と同化している訳だが。

(今日も誰1人として、ご令嬢と会話すら出来ていない)

先ほどの部下オルドの妻、ラニアス夫人の見立てで、今日は落ち着いた深緑色の上着に、襟元を縁取るように金糸刺繍が施されたものを選んだ。

夜会のたびに、いつも世話になっているラニアス夫人も、部下たちも、母も、大絶賛するほど着飾るのだが、毎回壁の花である。

(そもそも男は壁の花とは言わないのか)

「ルークス。最近よくお会いしますね」
「アディラ伯爵夫人」

「相変わらずの美丈夫ですこと。本当にお父様そっくりね。夜会に来て一度も踊らないのはつまらないでしょう?わたくしと踊りませんか?」
「……」

アディラ伯爵夫人は昔からの顔見知りだ。幼馴染と言っても良い。アディラ伯爵邸に嫁ぐ前は、帝国の二大公爵家の令嬢であった。会うたびに話しかけてくれるが、既婚者と仲良くするわけにもいかず、アディラ伯爵とも親しい仲ではないので、ルークスはいつも対応に困っていた。

「いや、ダンスは好きじゃない。やめておこう」
(話せる淑女といえば彼女しかいないな。彼女が誰か紹介してくれればいいのだが)

とはいえ、それも情けない気がする。ルークスは持っていたグラスを置き、中庭へ向かった。


(…ふう。父と私は本当に似ているのか?私に気遣ってそう言っているだけでは?)

息子から見ても確かに父は見目が良い。子供心に、父と歩く際には周りの女性たちの視線が父を向いている事も分かっていた。
しかし自分はそうではない。交際一歩手前までいった令嬢も一人二人いるのだが、何度か二人で会うと会話も全く進まず、しまいには泣き出すので、いつも破談になってしまう。


噴水のある開けた場所に出ると、会話が聞こえた。数人の令嬢の話し声だ。

「――なのよ。貴方も……」
「うーん、私はよくわからないわ。気になる方なら、声をかけてもいいじゃない」
「まあ!なんてこと!貴方……!」

声が荒くなってきたので、ルークスは敢えて大きな音を立てて歩いた。近くの草木を足で揺らしてみたりする。

「あら?何?」
「猫じゃないかしら」

「ゴホン!ゴホン!」
咳払いも加えてみる。

「も、もう行きましょう」

人だと気付いた途端に、令嬢たちは散り散りになって立ち去った。ルークスは暗がりに一人残された令嬢に声をかけた。

「大丈夫ですか?」

夜空に溶けそうな深い色の髪色だ。

(めずらしい髪色だな)
暗いので、藍色なのか黒なのか判別出来ない。暗闇の中、大きな薄いラベンダー色の瞳が際立って見えた。

(紫とはまた珍しい)
魔力を宿す色だと言われている。魔力持ちが生まれにくくなった昨今では貴重な色だ。

「……大丈夫とは?」
首を傾げてその令嬢は言った。