◇
手を差し出してシエナを馬車に乗せた。自分も向かいに座り、扉が閉まると真剣な顔で言った。
「さあ。みせてみなさい」
シエナは目をぱちぱちと瞬いた。
「何をでしょう?」
「腹だ」
「えっ」
「やましい気持ちはない。他は見ないようにする」
「えっちょ、こら!」
手を伸ばすと叩かれた。
「なんですか急に!」
瞳に涙を浮かべ、真っ赤な顔で見上げるシエナに、やましい気持ちはないと言い切った自分を恥じた。
(無理だ。やましい気持ちをなくすことなんて出来ない)
「……やけどだ。医者には診せたのか?」
「え?ああ。やけどは大丈夫です」
「淹れたてだったのだろう?数日経って痛みは薄らいでいるかもしれないが、大丈夫な訳ががない」
シエナは気まずそうに口を濁す。
「えっと……」
「心配なんだ。少しでいいから見せてくれないか?」
懇願するように見上げると、シエナの表情が変わった。ラベンダーの瞳は変わらず潤んでいるが、熱が籠っている。艶のある赤い唇が震えながら開く。
「――……は…」
口を開きかけて、シエナは飛びのいた。
「――あ、あぶない!見せません!閣下の色気に絆されるところだった……!閣下……!その色気しまってください!」
慌てながら言うシエナにルークスも狼狽える。
「え?」
(あぶない?なにが危なかったんだ……?しかしもう少しで見せてくれるところだったということか?)
「……残念だ」
ルークスはがくりと項垂れた。
「何故そんなに残念がるのですか」
じとりと睨まれる。やましい気持ちが半分以上もあったので、ルークスは顔をあげられなかった。
「しかし、本当に大丈夫なのか?痛みはもうないのか?」
ルークスが言うと、シエナはドレスの裾をはたきながらきちんと座りなおした。そして膝のうえで両手を開いた。
「閣下、見てください」
ルークスが顔を上げると、シエナの手のひらから柔らかい光が溢れた。溢れた光が集まり、やさしい輝きを放つ球体に変わった。
「魔法か……!それも治癒魔法だな」
ルークスも思わず感嘆の声を漏らす。母からも話には聞いた事があるが、実際に見るのは初めてだ。
「長く騎士団を勤めているが、魔術師に会ったのは初めてだ」
「帝国では珍しいですからね」
光の球体は徐々に消えていく。
「なるほど。それでやけども治癒したのか」
「ええ。お茶をかけられてすぐに」
「すごいな。しかし痛かっただろう?」
「え?それはまあ……」
ルークスの眼がサッと冷たく光る。
「ふむ。やはりアディラ伯爵家は帝都から追い出そう」
「い、いえ。一瞬でしたから」
シエナは冷や汗をかきながら撤回した。
しかしルークスがシエナを害したものを許すはずもなく、それ以降帝都でアディラ伯爵家の者を見かけることはなかった。
手を差し出してシエナを馬車に乗せた。自分も向かいに座り、扉が閉まると真剣な顔で言った。
「さあ。みせてみなさい」
シエナは目をぱちぱちと瞬いた。
「何をでしょう?」
「腹だ」
「えっ」
「やましい気持ちはない。他は見ないようにする」
「えっちょ、こら!」
手を伸ばすと叩かれた。
「なんですか急に!」
瞳に涙を浮かべ、真っ赤な顔で見上げるシエナに、やましい気持ちはないと言い切った自分を恥じた。
(無理だ。やましい気持ちをなくすことなんて出来ない)
「……やけどだ。医者には診せたのか?」
「え?ああ。やけどは大丈夫です」
「淹れたてだったのだろう?数日経って痛みは薄らいでいるかもしれないが、大丈夫な訳ががない」
シエナは気まずそうに口を濁す。
「えっと……」
「心配なんだ。少しでいいから見せてくれないか?」
懇願するように見上げると、シエナの表情が変わった。ラベンダーの瞳は変わらず潤んでいるが、熱が籠っている。艶のある赤い唇が震えながら開く。
「――……は…」
口を開きかけて、シエナは飛びのいた。
「――あ、あぶない!見せません!閣下の色気に絆されるところだった……!閣下……!その色気しまってください!」
慌てながら言うシエナにルークスも狼狽える。
「え?」
(あぶない?なにが危なかったんだ……?しかしもう少しで見せてくれるところだったということか?)
「……残念だ」
ルークスはがくりと項垂れた。
「何故そんなに残念がるのですか」
じとりと睨まれる。やましい気持ちが半分以上もあったので、ルークスは顔をあげられなかった。
「しかし、本当に大丈夫なのか?痛みはもうないのか?」
ルークスが言うと、シエナはドレスの裾をはたきながらきちんと座りなおした。そして膝のうえで両手を開いた。
「閣下、見てください」
ルークスが顔を上げると、シエナの手のひらから柔らかい光が溢れた。溢れた光が集まり、やさしい輝きを放つ球体に変わった。
「魔法か……!それも治癒魔法だな」
ルークスも思わず感嘆の声を漏らす。母からも話には聞いた事があるが、実際に見るのは初めてだ。
「長く騎士団を勤めているが、魔術師に会ったのは初めてだ」
「帝国では珍しいですからね」
光の球体は徐々に消えていく。
「なるほど。それでやけども治癒したのか」
「ええ。お茶をかけられてすぐに」
「すごいな。しかし痛かっただろう?」
「え?それはまあ……」
ルークスの眼がサッと冷たく光る。
「ふむ。やはりアディラ伯爵家は帝都から追い出そう」
「い、いえ。一瞬でしたから」
シエナは冷や汗をかきながら撤回した。
しかしルークスがシエナを害したものを許すはずもなく、それ以降帝都でアディラ伯爵家の者を見かけることはなかった。


