滅びの魔女と楽園の神官

 無事に山を越えたノインとヴィンセントは、山裾の村に立ち寄って食糧を補充し、長居はせず大きめの街を目指した。宿が一軒しかないような小さな村では、また同じ目に遭いかねない。
 幸いにもよく晴れて、歩くのに支障のない道のりだった。

「いいかげん、国中の『魔女』を狩り尽くしたんじゃないかしら」
「星から滅びの予兆が消えない限り、国王は諦めませんよ」

 ノインの隣を歩くヴィンセントは、力無く首を振った。

「今の王さまは、まだお若いのよね。いくつだったかしら」
「十四で即位し、今、十七です」
「国が滅ぶと言われる中で即位して、大変ね」

 ノインの口調に、同情はなかった。
 現王の評判は、決して良くない。苛烈さを増すばかりの魔女狩りに国民は疲弊し、魔法使いたちはみな亡命した。

 まだ十七の少年ということもあって、大臣たちを抑えるのにも難儀しているようだ。長らく平穏であったこの国の一大事は、大臣や貴族たちにとって立身出世の好機でもあり、宮廷には野心が渦巻いているらしい。

 神殿にいたヴィンセントにさえ剣呑な空気が伝わってくるくらいだから、状況は相当に厳しいのだろう。

「ねえ、星読みは星の光からさまざまな予兆を読み取るというけれど、今のわたしたちに見える星の光って、ずっと昔に生まれたものらしいじゃない。それなら、明日のことも、未来のことも、遥か昔に決まっているのではないかしら」

 ノインが上体を軽く前に倒して、ヴィンセントの顔を覗いてくる。その何気ない仕草が、今までの彼女に比べ、妙に無邪気に見えて、ヴィンセントはつい微笑んだ。

「星の瞬きや、光の具合を見るのです。それは、この世界を巡る魔力の揺らぎです。星読みというのは、それを『視る』ことができる魔法使いなのですよ」
「ふうん。ヴィンセントって、その星読みなの?」