滅びの魔女と楽園の神官

「床に寝ると言わないで。体をきちんと休めなくては、日中、動けないから」

 ヴィンセントは困り顔でベッドを見やり、またノインに戻した視線は気まずそうだった。

「宿で雑魚寝は、したことあるでしょう?」

 よほどの高級宿でない限り、少なくともふたりでベッドを共用するのはよくあることだ。
 ヴィンセントはためらいながらうなずいたものの、すぐその首を横に振った。

「女性とは、さすがにありませんでしたよ」

 彼はベッドを気にしながらノインをちらと見、おずおずと口を開く。

「ノインは、男性と同衾したことがあるのですか?」

 ノインは使う枕を軽く叩き、寝る準備を進めながら答える。

「同衾は語弊があるわね。とはいえ、わたしも男性とは無いわ」

 貞操観念以前に、問題に巻き込まれたくはない。男と同室になるくらいなら野宿を選んだほうが、魔法が使えるノインには安全だった。

「僕とベッドをともにするのに、ためらいはないのですか」

 ノインを気遣って困り顔をするヴィンセントは、善良な青年だ。たぶん、善良すぎる、とノインは思う。

「全くないと言えば嘘になるけど、背に腹は代えられないもの」

 女性同士や、ひとりのときは肌着のみでベッドを使うが、ヴィンセントの手前、服を身につけたまま寝ころんだ。男性は全裸になると聞くものの、もし彼が服を脱ぎ始めたらさすがに止める。
 ノインがベッドに仰向けになってヴィンセントの動向をうかがっていると、彼は、諦めたように息をついて、そろりとノインと反対側のベッドの端に腰掛けた。

「早く寝てしまいましょうよ。休息は大事よ」
「そうですね……」

 腰掛けた状態から、ヴィンセントはさらに粗末なベッドさえ軋ませないほどそろそろと横たわった。
 彼が掛け布を被ったのを見届けて、ノインは顔を天井に向け、目を閉じる。
 そう、休息は大事なのだ。休めるときに休まなければ、今のこの世は、平穏とは言い難い。
 ノインは、夜が無事に過ぎてゆくのを願った。