唯織くんは素直にデレない

「や、比土(ひど)ちゃん、もぉかんべーん。俺もう、金輪際ケンカはしねぇって決めたの!」

「ウッセぇえ! 神戸、テメェ勝ち逃げする気かァ? ンなこと絶対許さねぇぞ!!」

「勝ちは比土ちゃんに譲ってやるから。周りには“神戸は比土に負けて再起不能になりましたァ”って、触れ回っといてよ」

すると比土は腕を大きく振り、ぐんっとスピードをあげると唯織の横にぴったり並んだ。

そして並走しながらツバを飛ばさんかという勢いで怒鳴ってくる。

「ンなダッセェことできっかァっ! テメェと直接対決して正々堂々と勝ち、最強の名を手に入れてやる!」

矢場高(ヤバコー)ファイティングキングの名に賭けて!!

と天を仰いで声高らかに叫ぶ。

そんな熱く息巻くキングとは対照的に、追走してきているツレ2人が極めて冷静な表情で、後ろからこそっと彼に耳打ちをした。

「オイ比土。追いついてんぞ。早く捕まえろや」

「あ、お、おう。だな」 

どうやら途中で、走っている理由を見失っていたらしい。

比土が仲間(ツレ)に向かって慌てたようにうなずくと、隣を走る唯織の方へ手を伸ばしてきた。

「オラ神戸ぇ! 勝負しろぉ!」

「いや待って、比土ちゃん。も、やめてって!」

そう懇願して比土の手を振り払おうとしたその時。

ひとりの女子が、唯織の視界に入ってきた。

お手本のようにきっちり着られた、唯織と同じブレザーの制服。

艶のある長い黒髪。

それを風になびかせながら、こちらに向かって颯爽と歩いてくる。

うっ…!