ログアウト

100万回再生された次の日。
朝起きて、
一番最初に見たのは時計じゃなかった。


TikTok。


フォロワー。


18,621


寝る前は、
14,000くらいだった。


「……増えすぎ」


声に出して笑った。


通知。


99+。


Instagram。


99+。


DM。


知らない人。
知らない人。
知らない人。


昨日まで、
私のスマホはこんなに忙しくなかった。


*


仕事へ向かう電車でも、
ずっとスマホを見ていた。


コメント。


《インスタどれ?》
《右の子まじでタイプ》
《この子絶対伸びる》
《芸能人?》
《彼氏いる?》


彼氏。


その文字で、
一瞬だけ陸を思い出した。


いない。


もう。


プロフィールを開く。


フォロー中。


陸。


外そうかな。


指を置く。


やめた。


別に、
フォローくらいよくない?


そう自分に言い訳した。


*


サロンに着くと、
亜美さんが私を見るなり叫んだ。


「有名人きた!」


「やめてくださいよ笑」


「何人いった?」


「1万8千」


「昨日1,800じゃなかった?」


「そうです」


「十倍じゃん」


スタッフのみんなが私のTikTokを見る。


「これ美月ちゃん?」


「すご」


「コメントやば」


恥ずかしい。


でも。


気持ちいい。


昨日まで私は、
新人の18歳だった。


今日。


みんなが私のスマホを覗いている。


何も変わってないのに。


数字だけで。


*


昼休み。


InstagramのDMを整理した。


美容室。


アパレル。


カラコン。


アクセサリー。


撮影依頼。


ほとんどが、
《商品提供》
だった。


無料でもらえる。


それだけで嬉しかった。


その中に一件。


《撮影モデルのご相談》


ギャラ。


30,000円


何度も見た。


三万円。


写真撮られるだけで?


サロンで一日働くより高い。


「亜美さん」


「ん?」


スマホを見せた。


「これ本物ですかね」


「あー、ここ知ってる」


「三万って書いてあります」


「いいじゃん」


「写真撮るだけですよ?」


亜美さんが笑った。


「美月ちゃんに三万払うんじゃないよ」


「え?」


「美月ちゃんのフォロワーに払うの」


その言葉が、
少し分からなかった。


私じゃない。


私を見ている人に価値がある。


でも。


その人たちは、
私についている。


だったら。


私に価値があるってこと?


*


撮影は原宿だった。


人生で初めてのスタジオ。


メイクさん。


カメラマン。


スタイリスト。


「朝倉さん入りまーす」


朝倉さん。


なんか変。


鏡の前に座る。


メイクされる。


髪を巻いてもらう。


服を渡される。


カメラの前。


「もうちょっと顎引いて」


「そう」


「美月ちゃんいいね」


シャッター。


シャッター。


シャッター。


気持ちよかった。


高校の卒業アルバムとは、
全然違った。


*


撮影が終わって、
封筒をもらった。


三万円。


帰り道。


何度もバッグの中を確認した。


働いてもらったお金とは、
少し違う気がした。


私だからもらえたお金。


そう思った。


*


数週間。


フォロワーは増え続けた。


3万。


4万。


5万。


Instagramも伸びた。


街で声をかけられたのは、
渋谷が初めてだった。


「すみません」


女の子二人。


高校生くらい。


「あの……TikTokの美月ちゃんですか?」


一瞬。


何を言われたのか分からなかった。


「はい」


「やば!」


二人が顔を見合わせる。


「写真撮ってください!」


私と?


「いいよ」


三人で写真を撮った。


「ずっと見てます!」


ずっと。


まだ一ヶ月も経ってないのに。


「ありがとう」


女の子たちが離れていく。


私は歩き出した。


五歩。


十歩。


振り返る。


二人がまだこっちを見ていた。


笑っていた。


その瞬間。


東京が、
少しだけ自分の街になった気がした。


*


その夜。


初めて、
インフルエンサーの集まりに呼ばれた。


場所は渋谷。


知り合いの知り合い。


正直、
誰が主催なのかも分からなかった。


「一人で行くの怖い」


亜美さんにLINE。


《行ってきなよ》
《絶対人脈増えるよ》


人脈。


東京に来てから、
よく聞く言葉。


地元では使ったことなかった。


*


店に入る。


可愛い女の子ばかり。


フォロワー10万。


20万。


50万。


名乗るより先に、
Instagramを交換する。


「何人?」


「TikTok5万くらいです」


「あ、伸びてる子だ」


フォロワー数が、
自己紹介みたいだった。


そこで。


「あれ」


誰かが言った。


空気が少し変わった。


入口を見る。


女の子が入ってきた。


ベージュ系の長い髪。


小さい顔。


細い身体。


ブランドバッグ。


写真で見るより、
ずっと華があった。


知ってる。


私でも知ってる。


一ノ瀬リナ。


歌舞伎町の人気キャバ嬢。


Instagram35万人。


TikTokでもよく流れてくる。


「リナちゃん!」


みんなが寄っていく。


私は少し離れたところから見ていた。


同じ女の子なのに。


何かが違う。


「あの子誰?」


リナが言った。


一瞬。


私じゃないと思った。


でも、
こっちを見ている。


「美月ちゃん。最近TikTok伸びてる子」


「あー!」


リナが近づいてくる。


「見たことある」


「え?」


「休憩中に踊ってたやつでしょ?」


「あ、はい」


心臓が速くなる。


リナが私の顔を見る。


近い。


肌が綺麗。


「普通に可愛いじゃん」


また。


かわいい。


最近、
毎日言われる。


なのに。


嬉しい。


毎回。


「Instagram交換しよ」


リナがスマホを出した。


私のInstagram。


フォロワー、2.8万人。


リナ。


35.4万人。


フォロー。


ichinose_rina があなたをフォローしました。


画面を見た。


何度も。


「今度飲もうよ」


「え、いいんですか?」


「なんで敬語なの笑」


リナが笑う。


「美月、絶対もっといくと思うよ」


また言われた。


もっといく。


RENをまだ知らなかった私にとって。


その夜のリナは、


東京で一番遠い場所にいる女の子だった。


*


翌朝。


リナがInstagramのストーリーに、
昨日の集合写真を載せていた。


私もいる。


タグ。


@mizuki_asakura


スマホが震え始めた。


フォロワー。


29,103。


29,211。


29,408。


増える。


また。


知らない人が私を知っていく。


私はベッドの中で、
笑った。


地元にいたころ。


「東京住んでるだけじゃん」


って菜々に言った。


違った。


東京には。


私の知らない扉が、
本当にあった。


そして私は。


その一つ目を、
開けた。