東京に来て、一週間。
私はまだ、
何者にもなっていなかった。
*
朝7時12分。
アラームが鳴る。
止める。
7時17分。
また鳴る。
止める。
7時22分。
「……無理」
東京に来たら、
毎朝おしゃれなカフェでコーヒーを飲むと思っていた。
現実は違った。
布団から出て、
顔を洗って、
適当に髪を巻いて、
コンビニで買ったパンを口に入れながら駅まで走る。
電車は混んでいる。
というか、
人が多すぎる。
知らないおじさんの背中。
知らない女の人のバッグ。
知らない大学生。
知らない会社員。
東京には、
人が死ぬほどいる。
なのに。
知ってる人は一人もいなかった。
*
私が働き始めたのは、
表参道にある美容サロンだった。
美容師ではない。
受付とSNSの更新、
簡単な撮影の手伝い。
そんな感じ。
給料は普通。
東京で一人暮らしするには、
全然余裕なんてなかった。
でも、
「表参道で美容の仕事してます」
と言うと、
ちょっとだけかっこよかった。
だからInstagramのプロフィールにも、
Tokyo / Beauty / 18
と書いた。
本当は毎日、
タオルを畳んだり、
予約の電話を取ったり、
ゴミをまとめたりしていたけど。
そんなものは載せない。
*
「美月ちゃんってTikTokやってる?」
休憩中。
先輩の亜美さんに聞かれた。
22歳。
髪が綺麗で、
ネイルが長くて、
東京の女の人って感じがした。
「一応」
「フォロワー何人?」
「……1,800くらいです」
言ったあと、
なぜか少し恥ずかしくなった。
「普通にいるじゃん」
「全然ですよ」
「私300人」
「え、意外」
「見る専だから」
亜美さんが私のアカウントを開く。
高校時代の動画。
菜々と撮った文化祭。
制服。
地元の海。
陸が少しだけ映っている動画もあった。
「あ、美月ちゃん高校のときの方がギャルじゃん」
「そうですか?」
「てか普通に可愛いんだから、もっとやればいいのに」
その言葉に、
少しだけ反応した。
「TikTokですか?」
「うん。東京いるんだし」
東京いるんだし。
なんとなく、
その言葉が残った。
*
仕事が終わったのは19時過ぎ。
表参道の外に出る。
まだ人がたくさんいた。
街を歩いている女の子が、
みんな可愛く見えた。
脚が細い。
髪が綺麗。
服がおしゃれ。
バッグも知らないブランドじゃない。
地元にいたころ、
私は自分を「可愛い方」だと思っていた。
実際、
そう言われることも多かった。
でも東京に来てから、
自分が普通に見える瞬間が増えた。
信号待ち。
前にいた女の子が、
友達に写真を撮ってもらっている。
何枚も。
何枚も。
撮る。
確認する。
また撮る。
その横を通った女の子も可愛い。
向こうから歩いてくる女の子も可愛い。
「……東京やば」
小さく言った。
*
帰りに渋谷で降りた。
用事はない。
まっすぐ家に帰るのが、
なんとなく嫌だった。
スクランブル交差点を渡る。
センター街を歩く。
MIYASHITA PARKの方へ行く。
一週間前は、
「東京だ」
って全部に感動していた。
今日はもう少しだけ普通だった。
慣れるの早。
そう思って笑った。
屋上まで上がった。
夜。
友達同士。
カップル。
外国人。
写真を撮っている人。
スマホを立てて、
一人でTikTokを撮っている女の子もいた。
誰も気にしていない。
地元だったら、
一人で踊って動画撮ってたら絶対見られる。
東京では、
誰も見ない。
私はそれが好きだった。
*
菜々からLINE。
《東京どう?》
写真も送られてきた。
いつものファミレス。
高校の友達が三人。
私がいつも座っていた席。
《今日みんなでいる》
私は写真を拡大した。
楽しそう。
少しだけ寂しくなった。
《いいなー😭》
送る。
菜々。
《帰ってこい笑》
《まだ1週間なんだけど笑》
《もう東京人ぶってそう》
《ぶってないし😂》
そのあと、
《陸もさっきいたよ》
と来た。
指が止まった。
《へー》
だけ返した。
菜々から、
《気になるくせに》
《別に》
《はいはい》
LINEを閉じた。
Instagramを開く。
陸のストーリー。
友達と車。
それだけ。
女の子はいない。
安心した。
自分から別れたくせに。
*
MIYASHITA PARKの端で、
東京の夜を背景に自撮りした。
一枚。
二枚。
三枚。
全然盛れない。
角度を変える。
また撮る。
ライトが暗い。
場所を変える。
18枚。
23枚。
31枚。
「何やってんだろ、私」
一人で笑った。
結局、
一番マシな写真をInstagramのストーリーに載せた。
仕事終わり🫶
東京まだ全然慣れない🥹
投稿してから、
閲覧者を見る。
高校の友達。
菜々。
知らない男。
地元の後輩。
知らない女の子。
陸。
いた。
また見てる。
なんか嬉しい。
*
その日の夜。
家に帰る。
メイクを落とす。
コンタクトを外す。
スウェットに着替える。
鏡を見る。
「普通じゃん」
昼間、
表参道で見た女の子たちを思い出した。
Instagramを開く。
可愛い女の子。
次。
可愛い女の子。
次。
また可愛い女の子。
TikTok。
可愛い。
細い。
可愛い。
金持ち。
可愛い。
東京。
旅行。
ブランド。
彼氏。
画面を閉じた。
鏡を見る。
前髪を触る。
鼻を横から見る。
スマホを開いて、
インカメラ。
「私こんな鼻だっけ」
今まで気にしたことなかった。
*
次の日。
昼休み。
亜美さんが言った。
「今日暇だからTikTok撮ろうよ」
「店でですか?」
「裏なら平気」
「何撮るんですか?」
「これ」
流行っている音源。
簡単な振り。
二人で撮った。
「美月ちゃん前」
「なんでですか」
「若いから」
「関係ないじゃん」
「いいから」
三回撮った。
四回目。
「これよくない?」
「私、顔やばくないですか?」
「全然」
「いやここ」
「誰もそんな見てないって」
亜美さんが笑う。
誰もそんな見てない。
その言葉に、
なぜか少し安心した。
投稿。
キャプションは適当。
仕事の休憩中😂🩷
投稿して、
スマホを置いた。
*
仕事に戻った。
予約。
電話。
会計。
掃除。
二時間くらいして、
トイレへ行った。
何気なくTikTokを開く。
通知。
99+
「え?」
動画を見る。
再生 32,000
「え?」
更新。
33,400。
更新。
34,100。
数秒で数字が増える。
コメント。
《右の子誰?》
《普通に可愛い》
《右の子インスタ知りたい》
《この子めっちゃタイプ》
《おすすめ出てきた》
右。
私。
心臓が少し速くなった。
フォロワー。
1,842
だった数字が、
2,103
になっている。
更新。
2,119。
更新。
2,136。
「……やば」
スクショした。
菜々に送る。
《え、バズってる》
既読。
《は????》
《美月じゃん》
《やばくない?》
《東京行って1週間でTikToker爆誕してて草》
笑った。
でも、
手が少し震えていた。
*
仕事が終わるころ。
再生数。
186,000
フォロワー。
4,827
亜美さんが、
「美月ちゃんやば!」
と笑っている。
「私より美月ちゃんしか見られてないじゃん!」
「そんなことないですって」
言いながら。
嬉しかった。
めちゃくちゃ嬉しかった。
*
表参道駅まで歩く。
スマホがずっと震えている。
ポケットに入れても震える。
出す。
通知。
しまう。
また震える。
また出す。
知らない人が、
私をフォローしている。
知らない人が、
私の顔を見ている。
知らない人が、
かわいい
と言っている。
昨日まで、
東京では誰も私を知らなかった。
今日。
何千人もの人が、
私を知った。
その感覚が。
怖いくらい、
気持ちよかった。
*
電車に乗る。
更新。
再生 412,000
更新。
421,000。
フォロワー。
7,921
更新。
8,003。
8,003。
数字を見て、
笑った。
8,000人。
地元の高校の全校生徒より、
全然多い。
その全員が、
私を見ている。
そう考えると、
急に現実味がなくなった。
InstagramにもDMが来ていた。
《TikTokから来ました!》
《かわいすぎます》
《どこのサロンですか?》
《モデルとかしてますか?》
その中に、
小さなアパレルブランドからのDM。
《突然のご連絡失礼いたします。
商品をご提供させていただき、Instagramにてご紹介いただくことは可能でしょうか?》
何度も読んだ。
商品をご提供。
私に?
*
夜。
部屋。
コンビニのおにぎり。
一週間前と何も変わらない。
狭い部屋。
向かいのマンション。
安いテーブル。
でもスマホの中だけ、
何かが変わっていた。
再生数。
782,000
フォロワー。
12,481
私は画面を伏せた。
十秒。
また見る。
12,603。
伏せる。
また見る。
12,719。
やめられなかった。
*
深夜1時。
100万。
動画の数字が、
1,000,000
を超えた。
私は一人で画面を見ていた。
誰もいない部屋で。
「……100万」
声に出した。
スクショ。
菜々に送る。
お母さんにも送ろうとして、
やめた。
陸にも送りたかった。
でも。
もっとやめた。
どうせ見てる。
そう思って、
Instagramのストーリーに載せた。
100万再生ありがとうございます😭🩷
なにが起きてるのかわからない😂
投稿。
数分後。
閲覧者。
菜々。
亜美さん。
高校の友達。
知らない人。
知らない人。
知らない人。
そして。
陸。
見ていた。
私は笑った。
*
寝ようと思った。
スマホを充電器につなぐ。
電気を消す。
目を閉じる。
三十秒。
目を開ける。
スマホ。
フォロワー。
14,209
また増えてる。
画面を消す。
目を閉じる。
また開く。
14,371。
その夜。
私はたぶん、
東京に来て初めて、
地元のことを一度も考えずに眠った。
東京には、
人が死ぬほどいる。
最初は、
その中で誰も私を知らないことが寂しかった。
でも。
知らない人が私を知っていく。
その感覚を、
私は知ってしまった。
私はまだ、
何者にもなっていなかった。
*
朝7時12分。
アラームが鳴る。
止める。
7時17分。
また鳴る。
止める。
7時22分。
「……無理」
東京に来たら、
毎朝おしゃれなカフェでコーヒーを飲むと思っていた。
現実は違った。
布団から出て、
顔を洗って、
適当に髪を巻いて、
コンビニで買ったパンを口に入れながら駅まで走る。
電車は混んでいる。
というか、
人が多すぎる。
知らないおじさんの背中。
知らない女の人のバッグ。
知らない大学生。
知らない会社員。
東京には、
人が死ぬほどいる。
なのに。
知ってる人は一人もいなかった。
*
私が働き始めたのは、
表参道にある美容サロンだった。
美容師ではない。
受付とSNSの更新、
簡単な撮影の手伝い。
そんな感じ。
給料は普通。
東京で一人暮らしするには、
全然余裕なんてなかった。
でも、
「表参道で美容の仕事してます」
と言うと、
ちょっとだけかっこよかった。
だからInstagramのプロフィールにも、
Tokyo / Beauty / 18
と書いた。
本当は毎日、
タオルを畳んだり、
予約の電話を取ったり、
ゴミをまとめたりしていたけど。
そんなものは載せない。
*
「美月ちゃんってTikTokやってる?」
休憩中。
先輩の亜美さんに聞かれた。
22歳。
髪が綺麗で、
ネイルが長くて、
東京の女の人って感じがした。
「一応」
「フォロワー何人?」
「……1,800くらいです」
言ったあと、
なぜか少し恥ずかしくなった。
「普通にいるじゃん」
「全然ですよ」
「私300人」
「え、意外」
「見る専だから」
亜美さんが私のアカウントを開く。
高校時代の動画。
菜々と撮った文化祭。
制服。
地元の海。
陸が少しだけ映っている動画もあった。
「あ、美月ちゃん高校のときの方がギャルじゃん」
「そうですか?」
「てか普通に可愛いんだから、もっとやればいいのに」
その言葉に、
少しだけ反応した。
「TikTokですか?」
「うん。東京いるんだし」
東京いるんだし。
なんとなく、
その言葉が残った。
*
仕事が終わったのは19時過ぎ。
表参道の外に出る。
まだ人がたくさんいた。
街を歩いている女の子が、
みんな可愛く見えた。
脚が細い。
髪が綺麗。
服がおしゃれ。
バッグも知らないブランドじゃない。
地元にいたころ、
私は自分を「可愛い方」だと思っていた。
実際、
そう言われることも多かった。
でも東京に来てから、
自分が普通に見える瞬間が増えた。
信号待ち。
前にいた女の子が、
友達に写真を撮ってもらっている。
何枚も。
何枚も。
撮る。
確認する。
また撮る。
その横を通った女の子も可愛い。
向こうから歩いてくる女の子も可愛い。
「……東京やば」
小さく言った。
*
帰りに渋谷で降りた。
用事はない。
まっすぐ家に帰るのが、
なんとなく嫌だった。
スクランブル交差点を渡る。
センター街を歩く。
MIYASHITA PARKの方へ行く。
一週間前は、
「東京だ」
って全部に感動していた。
今日はもう少しだけ普通だった。
慣れるの早。
そう思って笑った。
屋上まで上がった。
夜。
友達同士。
カップル。
外国人。
写真を撮っている人。
スマホを立てて、
一人でTikTokを撮っている女の子もいた。
誰も気にしていない。
地元だったら、
一人で踊って動画撮ってたら絶対見られる。
東京では、
誰も見ない。
私はそれが好きだった。
*
菜々からLINE。
《東京どう?》
写真も送られてきた。
いつものファミレス。
高校の友達が三人。
私がいつも座っていた席。
《今日みんなでいる》
私は写真を拡大した。
楽しそう。
少しだけ寂しくなった。
《いいなー😭》
送る。
菜々。
《帰ってこい笑》
《まだ1週間なんだけど笑》
《もう東京人ぶってそう》
《ぶってないし😂》
そのあと、
《陸もさっきいたよ》
と来た。
指が止まった。
《へー》
だけ返した。
菜々から、
《気になるくせに》
《別に》
《はいはい》
LINEを閉じた。
Instagramを開く。
陸のストーリー。
友達と車。
それだけ。
女の子はいない。
安心した。
自分から別れたくせに。
*
MIYASHITA PARKの端で、
東京の夜を背景に自撮りした。
一枚。
二枚。
三枚。
全然盛れない。
角度を変える。
また撮る。
ライトが暗い。
場所を変える。
18枚。
23枚。
31枚。
「何やってんだろ、私」
一人で笑った。
結局、
一番マシな写真をInstagramのストーリーに載せた。
仕事終わり🫶
東京まだ全然慣れない🥹
投稿してから、
閲覧者を見る。
高校の友達。
菜々。
知らない男。
地元の後輩。
知らない女の子。
陸。
いた。
また見てる。
なんか嬉しい。
*
その日の夜。
家に帰る。
メイクを落とす。
コンタクトを外す。
スウェットに着替える。
鏡を見る。
「普通じゃん」
昼間、
表参道で見た女の子たちを思い出した。
Instagramを開く。
可愛い女の子。
次。
可愛い女の子。
次。
また可愛い女の子。
TikTok。
可愛い。
細い。
可愛い。
金持ち。
可愛い。
東京。
旅行。
ブランド。
彼氏。
画面を閉じた。
鏡を見る。
前髪を触る。
鼻を横から見る。
スマホを開いて、
インカメラ。
「私こんな鼻だっけ」
今まで気にしたことなかった。
*
次の日。
昼休み。
亜美さんが言った。
「今日暇だからTikTok撮ろうよ」
「店でですか?」
「裏なら平気」
「何撮るんですか?」
「これ」
流行っている音源。
簡単な振り。
二人で撮った。
「美月ちゃん前」
「なんでですか」
「若いから」
「関係ないじゃん」
「いいから」
三回撮った。
四回目。
「これよくない?」
「私、顔やばくないですか?」
「全然」
「いやここ」
「誰もそんな見てないって」
亜美さんが笑う。
誰もそんな見てない。
その言葉に、
なぜか少し安心した。
投稿。
キャプションは適当。
仕事の休憩中😂🩷
投稿して、
スマホを置いた。
*
仕事に戻った。
予約。
電話。
会計。
掃除。
二時間くらいして、
トイレへ行った。
何気なくTikTokを開く。
通知。
99+
「え?」
動画を見る。
再生 32,000
「え?」
更新。
33,400。
更新。
34,100。
数秒で数字が増える。
コメント。
《右の子誰?》
《普通に可愛い》
《右の子インスタ知りたい》
《この子めっちゃタイプ》
《おすすめ出てきた》
右。
私。
心臓が少し速くなった。
フォロワー。
1,842
だった数字が、
2,103
になっている。
更新。
2,119。
更新。
2,136。
「……やば」
スクショした。
菜々に送る。
《え、バズってる》
既読。
《は????》
《美月じゃん》
《やばくない?》
《東京行って1週間でTikToker爆誕してて草》
笑った。
でも、
手が少し震えていた。
*
仕事が終わるころ。
再生数。
186,000
フォロワー。
4,827
亜美さんが、
「美月ちゃんやば!」
と笑っている。
「私より美月ちゃんしか見られてないじゃん!」
「そんなことないですって」
言いながら。
嬉しかった。
めちゃくちゃ嬉しかった。
*
表参道駅まで歩く。
スマホがずっと震えている。
ポケットに入れても震える。
出す。
通知。
しまう。
また震える。
また出す。
知らない人が、
私をフォローしている。
知らない人が、
私の顔を見ている。
知らない人が、
かわいい
と言っている。
昨日まで、
東京では誰も私を知らなかった。
今日。
何千人もの人が、
私を知った。
その感覚が。
怖いくらい、
気持ちよかった。
*
電車に乗る。
更新。
再生 412,000
更新。
421,000。
フォロワー。
7,921
更新。
8,003。
8,003。
数字を見て、
笑った。
8,000人。
地元の高校の全校生徒より、
全然多い。
その全員が、
私を見ている。
そう考えると、
急に現実味がなくなった。
InstagramにもDMが来ていた。
《TikTokから来ました!》
《かわいすぎます》
《どこのサロンですか?》
《モデルとかしてますか?》
その中に、
小さなアパレルブランドからのDM。
《突然のご連絡失礼いたします。
商品をご提供させていただき、Instagramにてご紹介いただくことは可能でしょうか?》
何度も読んだ。
商品をご提供。
私に?
*
夜。
部屋。
コンビニのおにぎり。
一週間前と何も変わらない。
狭い部屋。
向かいのマンション。
安いテーブル。
でもスマホの中だけ、
何かが変わっていた。
再生数。
782,000
フォロワー。
12,481
私は画面を伏せた。
十秒。
また見る。
12,603。
伏せる。
また見る。
12,719。
やめられなかった。
*
深夜1時。
100万。
動画の数字が、
1,000,000
を超えた。
私は一人で画面を見ていた。
誰もいない部屋で。
「……100万」
声に出した。
スクショ。
菜々に送る。
お母さんにも送ろうとして、
やめた。
陸にも送りたかった。
でも。
もっとやめた。
どうせ見てる。
そう思って、
Instagramのストーリーに載せた。
100万再生ありがとうございます😭🩷
なにが起きてるのかわからない😂
投稿。
数分後。
閲覧者。
菜々。
亜美さん。
高校の友達。
知らない人。
知らない人。
知らない人。
そして。
陸。
見ていた。
私は笑った。
*
寝ようと思った。
スマホを充電器につなぐ。
電気を消す。
目を閉じる。
三十秒。
目を開ける。
スマホ。
フォロワー。
14,209
また増えてる。
画面を消す。
目を閉じる。
また開く。
14,371。
その夜。
私はたぶん、
東京に来て初めて、
地元のことを一度も考えずに眠った。
東京には、
人が死ぬほどいる。
最初は、
その中で誰も私を知らないことが寂しかった。
でも。
知らない人が私を知っていく。
その感覚を、
私は知ってしまった。
