いまさら家に男が一人増えたところで構いません!

九条くんが

この家で暮らすことが決まると

父はさっそく風呂へ入っていった

そのあとを弟たちが順番に続いていく

九条くんはその間も料理を手伝ってくれた

結局

最後にお風呂へ入ったのは九条くんだった

晩ご飯の支度がひと段落した頃

浴室の扉が開く音がした

「お待たせ」

九条くんがリビングへ入ってくる

私はコップに水を注いで九条くんに近づいた

「九条くん」
「お水どうぞ」

「ありがとう」

九条くんが私からコップを受け取る

その時

私の体に電流が走った

あれ?

なんか

いい匂いがする

気のせい?

くんくん

やっぱりいい匂いがする

つい……

嗅いでしまいたくなるような匂いが

九条くんから漂っている

白いTシャツにベージュの短パン

着替えは湊から借りたらしい

けれど白いTシャツは

九条くんには少し小さかった

湯上がりの肌にぴったりと張りつき

胸や肩の形がはっきりと浮かんでいる

細いと思っていたのに

意外と筋肉がついていた

しかも薄い生地の向こうに

胸の先までうっすらと透けて見える

なにあれ!?

あれは

私が知っている男たちとは違うわ!

お父さんとも弟たちとも違う!

何か別の生き物よ!

目のやり場に困るんですけど!

ていうか匂いまで違うんですけど!

同じシャンプーとボディソープを使ったのよね?

どうしてこんな摩訶不思議が起きるのよ!

まさか……フェロモン的な?

そんなものが本当に存在したの!?

その時

九条くんが私を見て目が合った

九条くんは少し不思議そうにしたあと

優しく笑いかけてきた

胸がどきりと鳴った

私は慌てて目を逸らす

しまった

私はとんでもない勘違いをしていたわ!

男が一人増えたところで構わない?

構うに決まってるでしょ!

九条伊織はただの男じゃないわ!

私がこれまで一緒に暮らしてきた男たちとは違う

全然違いすぎる!

どうしよう!?

特に香りがヤバい!

目を逸らしても漂ってくる

つい嗅いでしまう……

っていうか……

お風呂上がりの九条くんがエロい!

ものすごくエロいわ!

あんなものどうしろっていうのよ!

私は逃げるようにキッチンへ戻った

すぐに換気扇を回した

胸元を押さえゆっくりと深呼吸する

待て待て

落ち着け

私が九条くんみたいな男に慣れていないだけよ

九条くんに対する免疫がないだけ

ほら

ウイルスだって免疫がなければ熱が出るでしょ

それと同じよ

毎日一緒にいればすぐに慣れる

そのうちお父さんや弟どもと

同じに見えるようになるはず

大丈夫

絶対に私は大丈夫

「姉ちゃん!」
「飯まだ!?」

「あ!」
「ごめん!」
「もうできてるから!」

慌てて茶碗を用意しようとした時

すぐ横から声がした

「何か手伝おうか?」

「ひゃっ!」

いつの間にか九条くんがキッチンへ来ていた

「驚かせた?」

「ち、違う!」
「なんでもないから!」

白いTシャツがさっきより少し透けて見えた

……あれ?

さっきより透けて見えるんですけど

なんで?

汗かいたとか?

ってことはひょっとして……

あの匂いも……?

私はできるだけ距離をとって

換気扇の近くへ寄る

九条くんは炊飯器のそばに並んだ茶碗を見た

「それなら」
「僕がご飯をよそうよ」

「う、うん」
「ありがとう」
「本当に助かる」

九条くんが私の隣へ立つ

近い!

またあの匂いがした

私は慌てて換気扇を最大パワーにする

頼む! 換気扇!

全部吸い込んでくれーーーー!

なんなのよ

この吸い寄せられるような匂い!

何かの特殊能力なんじゃないの!?

九条くんはよそったご飯をお盆へ載せ

食卓へ運んでいった

認めざるを得ないわね

私には九条くんへの耐性がない

男の多い家で育ったから

てっきり私は男慣れしていると思っていた

でも

お父さんや弟たちと九条くんは違うのよ

早めに気づけてよかった

慣れるまでは

なるべく近づかないようにしよう

「姉ちゃん!」
「腹減ったってば!」

「はーい!」

私は生姜焼きの入ったフライパンを持ち上げた

食卓の鍋敷きへ置こうとした時

椅子の脚に足を引っかけた

「あっ!」

体が前へ倒れる

フライパンが私の手から離れた

「姉ちゃん!」

湊が真っ先に飛び出した

宙へ浮いたフライパンの取っ手を素早くつかむ

それとほとんど同時に

九条くんが私の体を抱き止めた

「あっぶねえ!」
「夕飯が消えるところだった!」

湊の声が遠くに聞こえた

私は九条くんの胸の中にいた

あの匂いに包まれ

九条くんの体のぬくもりが

直接伝わってくる

やばい
やばい
やばい!

私は目を見開き

九条くんの顔を見た

九条くんも私を見つめていた

「大丈夫?」

「はい!」
「大丈夫です!」

「怪我はない?」

「体は……なんとも」

「よかった」

九条くんは私の肩に手を添えながら

ゆっくりと立たせてくれた

そして無事に立てたことを確認すると

そっと体を離した

湊がフライパンを食卓の中央へ置く

その瞬間

父と弟たちが一斉に箸を構えた

それに気づいた九条くんも

すぐに席へ座り箸を構える

父が声を上げた

「いくぞ!」
「レディー!」
「ファイト!」

奪い合うようにおかず争奪戦が始まった

そんな騒ぎもどこ吹く風で

私はその場に立ったまま呆然としていた

どうしよう

胸のドキドキが全然止まらない

やばい

やばいよ

私

本当に

九条くんと一緒に暮らせるの!?