次に目を覚ました時
私は病院のベッドにいた
体中に包帯が巻かれている
息をするだけで体中が痛んだ
それなのに私の頬は自然と上がった
これはみんなが
本気で私と遊んでくれた証拠だから
それから私はしばらく入院した
パパも
道場の誰も
一度も来てくれなかった
そして退院の日
私を迎えに来たのは
見覚えのある一人の女だった
詩織さん
パパの元愛人だった人
捨てられたあともお金を渡されて
都合よく使われている女
今度は
私まで押しつけられたんだ
そう思った
私がまだ小さかった頃
詩織さんは会うたびに頭を撫でてくれた
お菓子をくれた
いつも優しく笑いかけてくれた
詩織さんはパパから
たくさんのお金を受け取ったみたいだった
だから私を引き取ったのだと思った
お金を貰ったから仕方なく
私を受け入れたのだと思った
でも
違った
詩織さんは私の名前の通帳を渡してきた
私が通帳を見ると
パパの名前で2000万円が振り込まれていた
「本当に、ごめんね」
詩織さんは申し訳なさそうに
学費の分だけはこのお金から出させて欲しいと言ってきた
なにを謝っているのか
よく分からなかった
詩織さんとの生活は居心地が良かった
少し古いマンションの2階の2DK
今まで暮らした水野の家とは比べようもなく狭いけど
そこには詩織さんがいた
私に優しくしてくれた
朝になれば美味しいご飯を作ってくれた
私が好きなものを知ると
いつも多めに作ってくれる
学校へ行けば
可愛いキャラ弁を持たせてくれた
帰れば
笑っておかえりと言ってくれた
何かができなくても
怒らなかった
誰かを傷つけなくても
笑いかけてくれた
ある日
私は詩織さんにも聞いてみた
「ねえ~」
「叩いてもいい~?」
「私が叩くから~」
「詩織さんも私のこと叩いて~」
詩織さんは少し困った顔で笑った
「私は」
「日向を叩けないな」
やっぱりこの人も
私とは遊んでくれない
そう思った
だけど詩織さんは
くるりと後ろを向いて
私へ背中を向けた
「でも」
「叩きたいなら」
「背中やお尻を叩いてもいいよ」
「叩いた痕が隠せないところは叩かないでね」
そう言われて
私は腕を振り上げた
詩織さんは両手を強く握って
目をぎゅっと閉じている
私の腕が止まった
叩くのが……
可哀そう……?
こんなこともあるんだ
私は腕を下ろした
「やめる~」
「いいの?」
「うん~」
「詩織さん弱いから~」
詩織さんは振り返って私の目を見て言った
「日向が叩きたい時は」
「いつでも叩いていいからね」
「痛いのが好きなの~?」
「痛いのは……」
「嫌いだよ」
「なら叩かないよ~」
それから少しだけ泣きそうな顔で笑って
私の頭を撫でてくれた
「日向」
「今までごめんね」
「これからは」
「ずっと傍にいるから」
そうして私は
詩織さんと二人で暮らした
一緒に買い物へ行った
同じ食卓で毎日ご飯を食べた
テレビを見て二人で笑った
夜になれば「おやすみ」と言って
私のおでこにキスをしてくれた
詩織さんと暮らし始めてから
私は誰も叩かなかった
誰にも叩かれなかった
なのに
毎日が楽しかった
そんな日々を過ごして
春
私は高校へ入学した
私はそこで
いいものを見つけた
私を怖がる必要がなさそうな人
私から逃げる必要がなさそうな人
私がどれだけ求めても
きっと壊れない人
高梨美緒
初対面ですぐに分かった
この子は
私と同じくらい強い
この子は
詩織さんと同じくらい優しい
私が初めて見つけた
私とも戦える同い年の子
ヨダレが出るほど
追いかけたくなる子だ
美緒は私のすぐ隣の席だった
どうやって話しかけようか考えた
私と遊ぼうよ~?
それとも
叩いてもいい~?
いや
私のことは叩いてもいいよ~?
こっちの方が仲良くなれそうかな
どれなら怖がられないかな
そんなことを考えていると
美緒の方から私へ顔を向けた
「隣の席だね」
「これからよろしく!」
不意をつかれた
「う、うん」
「よろしくね~」
「私もあなたに興味があったんだ~」
「ほんと?」
美緒が嬉しそうに笑った
「私、高梨美緒」
「知ってる子が誰もいなくてさ」
「よかったら」
「仲良くしてくれる?」
「私は水野日向~」
「もちろんだよ~」
「うれしいな~」
こうして
私が追いかけるより先に
美緒は友達になってくれた
そして
やっぱり最初に感じたとおりだった
美緒といると
話をするだけで
一緒に歩くだけで
ただ隣にいるだけで楽しかった
詩織さん以外にも
こんな人がいたんだ
私の好きな遊びには付き合ってくれないけど
きっといつか本気で遊んでくれる
それから
桐生玲奈
先生なんかやっていた
私みたいな匂いがする女
期待どおり
あんなに叩いたのに
私を見る目に恐怖の色はなかった
その日のうちに何事もなかったような顔で
授業をしていた
……そして
ぱんっ!!
もう一度鞭が背中へ入った
「うあっ……!」
日向の体が大きく震えた
痛い
苦しい
涙が止まらない
それなのに
日向の口元が少しずつ上がっていく
私を怖がらない
私から逃げない
こんなに私とおもいっきり遊んでくれる
痛くしたら
痛く返してくれる
新しい最高の遊び相手
榊千鶴
「千鶴~」
日向が泣きながら笑った
煙の向こうで千鶴の鞭が止まる
「なんです?」
「ありがとう~」
千鶴が防護面の奥で眉を寄せた
「何がですか?」
日向が震える両腕を床へつく
裂けた背中から血が流れている
それでもゆっくりと体を起こしていく
「私を~」
「怖がらないでいてくれて~」
ふらつきながら立ち上がる
「一緒に」
「遊んでくれて~」
千鶴が日向を見る
日向は目を閉じたまま笑っていた
「まだ」
「終わっていませんよ」
「うん~」
「私の八つ当たりは」
「こんなものではありません」
「よかった~」
日向が両腕をだらりと下げる
「まだ」
「遊べるね~」
千鶴が鞭を構えた
「もちろんです」
千鶴の黒い鞭が煙を切り裂き日向へ襲いかかる
その鞭へ
日向も右腕を振るった
腕全体を一本のムチのようにしならせる
本物の鞭と日向のムチ打撃が
正面からぶつかった
ばあん!!
何かが破裂したような音が響く
黒い鞭が日向の右腕へ巻きついた
皮膚へ食い込む
それでも日向は腕を引かなかった
鞭を通して千鶴の力が伝わってくる
日向の腕、肩、腰が流れるように動いた
その瞬間
鞭を通して日向の力が千鶴へ返っていく
「っ!」
千鶴の体が大きく崩れた
前へたたらを踏む
日向が巻きついた鞭を引く
同時に自分から前へ飛び出した
千鶴のもとまで続く鞭を一本の道にして
一気に駆け抜ける
煙の中
二人の間にあった距離があっという間に消えた
千鶴が顔を上げる
その時にはもう目の前に日向が立っていた
「なっ――」
千鶴はまだ体勢を立て直せていない
日向が笑った
「私のば~ん」
「本気でやるよ~」
「舌を噛まないでね~」
右腕がしなる
ばちん!!
千鶴の右の胸元へムチ打撃が入った
黒い忍び装束が斜めに裂ける
その下の皮膚まで大きく引き裂かれた
「ぐっ……!」
千鶴の体が傾く
そこへ左腕
ばちん!!
今度は左の脇腹
忍び装束と肌が横一文字に裂ける
「うっ!」
日向は止まらない
しなった右腕が千鶴の右の太腿へ入った
ばちん!!
「っあ!」
黒い布が裂け
その下へ赤い傷が走る
千鶴の右脚から力が抜けて片膝が落ちる
その瞬間
日向の右脚が大きく振り上げられた
脚全体を一本のムチにした強烈な蹴り
ばあん!!
千鶴の右腰へ入った
「がっ……!」
千鶴の体が弾かれるように大きく回る
その背中が日向へ向いた
「さっきの~」
日向が両腕を上げる
「お返し~」
ばちん!!
一発
千鶴の背中が裂ける
「うあっ!」
ばちん!!
二発
新しい傷が背中へ刻まれる
「やっ……!」
そして
日向が最後の一撃を振り下ろした
ばちん!!
三発目
「あああぁぁぁぁっ!!」
千鶴の悲鳴が煙に包まれた玄関へ響いた
千鶴が床へ崩れ落ちる
衝撃で黒い防護面が外れ床へ転がっていく
千鶴はそのまま体を丸めた
「うっ……」
裂けた服の下
全身に刻まれた傷から血がにじんでいる
「うぅ……」
あまりの痛みに体が震える
床の上で身をよじる
薄くなり始めた煙が千鶴の目と喉を刺激する
「痛い……!」
涙が次々とこぼれる
「痛いです……!」
千鶴が声を上げて泣いた
「うああぁぁぁぁ!」
その姿を見下ろしていた
日向の笑顔が突然固まった
「……あれ~?」
肩、胸、脇腹、太腿
そして何度も鞭を受けた背中
興奮で忘れていた痛みが一気に戻ってきた
「いっ……!」
日向の膝から力が抜ける
床へ両手をついた
手をついた衝撃だけで背中の傷が焼けるように痛む
「うああっ!」
日向も床へ倒れた
千鶴の隣で体を丸める
「痛い~!」
涙がぼろぼろと流れた
「すっごく痛いね~!」
「日向が……!」
千鶴が涙を流しながら叫ぶ
「やったのでしょう!」
「千鶴だって~」
「ひどいじゃん~!」
「全部受け止めると」
「言ったのは日向です!」
「こんなに痛いなんて」
「聞いてないよ~!」
二人で泣きながら言い合う
だけどもうどちらにも
立ち上がる力は残っていなかった
催涙煙幕がようやく薄れていく
広い玄関の片隅で
二人は裂けた服と血と涙を抱えた
同じように体を丸めて痛みに震える
「千鶴~」
「なんです……?」
「楽しかったね~」
千鶴が涙を落としながら
ほんの少し笑った
「とても」
「楽しかったです」
日向も笑う
「またやろうね~」
「次は……」
千鶴が途切れそうな声で答える
「美緒の後でいいです」
二人の手が
床の上をゆっくりと伸びる
指先が触れた
慰め合うように互いの手を握った
そして
ほとんど同時に意識を失った
好きな人の
一番にはなれない
だけど
自分の痛みを受け止めて
一緒に泣いてくれた友達なら
見つかった
私は病院のベッドにいた
体中に包帯が巻かれている
息をするだけで体中が痛んだ
それなのに私の頬は自然と上がった
これはみんなが
本気で私と遊んでくれた証拠だから
それから私はしばらく入院した
パパも
道場の誰も
一度も来てくれなかった
そして退院の日
私を迎えに来たのは
見覚えのある一人の女だった
詩織さん
パパの元愛人だった人
捨てられたあともお金を渡されて
都合よく使われている女
今度は
私まで押しつけられたんだ
そう思った
私がまだ小さかった頃
詩織さんは会うたびに頭を撫でてくれた
お菓子をくれた
いつも優しく笑いかけてくれた
詩織さんはパパから
たくさんのお金を受け取ったみたいだった
だから私を引き取ったのだと思った
お金を貰ったから仕方なく
私を受け入れたのだと思った
でも
違った
詩織さんは私の名前の通帳を渡してきた
私が通帳を見ると
パパの名前で2000万円が振り込まれていた
「本当に、ごめんね」
詩織さんは申し訳なさそうに
学費の分だけはこのお金から出させて欲しいと言ってきた
なにを謝っているのか
よく分からなかった
詩織さんとの生活は居心地が良かった
少し古いマンションの2階の2DK
今まで暮らした水野の家とは比べようもなく狭いけど
そこには詩織さんがいた
私に優しくしてくれた
朝になれば美味しいご飯を作ってくれた
私が好きなものを知ると
いつも多めに作ってくれる
学校へ行けば
可愛いキャラ弁を持たせてくれた
帰れば
笑っておかえりと言ってくれた
何かができなくても
怒らなかった
誰かを傷つけなくても
笑いかけてくれた
ある日
私は詩織さんにも聞いてみた
「ねえ~」
「叩いてもいい~?」
「私が叩くから~」
「詩織さんも私のこと叩いて~」
詩織さんは少し困った顔で笑った
「私は」
「日向を叩けないな」
やっぱりこの人も
私とは遊んでくれない
そう思った
だけど詩織さんは
くるりと後ろを向いて
私へ背中を向けた
「でも」
「叩きたいなら」
「背中やお尻を叩いてもいいよ」
「叩いた痕が隠せないところは叩かないでね」
そう言われて
私は腕を振り上げた
詩織さんは両手を強く握って
目をぎゅっと閉じている
私の腕が止まった
叩くのが……
可哀そう……?
こんなこともあるんだ
私は腕を下ろした
「やめる~」
「いいの?」
「うん~」
「詩織さん弱いから~」
詩織さんは振り返って私の目を見て言った
「日向が叩きたい時は」
「いつでも叩いていいからね」
「痛いのが好きなの~?」
「痛いのは……」
「嫌いだよ」
「なら叩かないよ~」
それから少しだけ泣きそうな顔で笑って
私の頭を撫でてくれた
「日向」
「今までごめんね」
「これからは」
「ずっと傍にいるから」
そうして私は
詩織さんと二人で暮らした
一緒に買い物へ行った
同じ食卓で毎日ご飯を食べた
テレビを見て二人で笑った
夜になれば「おやすみ」と言って
私のおでこにキスをしてくれた
詩織さんと暮らし始めてから
私は誰も叩かなかった
誰にも叩かれなかった
なのに
毎日が楽しかった
そんな日々を過ごして
春
私は高校へ入学した
私はそこで
いいものを見つけた
私を怖がる必要がなさそうな人
私から逃げる必要がなさそうな人
私がどれだけ求めても
きっと壊れない人
高梨美緒
初対面ですぐに分かった
この子は
私と同じくらい強い
この子は
詩織さんと同じくらい優しい
私が初めて見つけた
私とも戦える同い年の子
ヨダレが出るほど
追いかけたくなる子だ
美緒は私のすぐ隣の席だった
どうやって話しかけようか考えた
私と遊ぼうよ~?
それとも
叩いてもいい~?
いや
私のことは叩いてもいいよ~?
こっちの方が仲良くなれそうかな
どれなら怖がられないかな
そんなことを考えていると
美緒の方から私へ顔を向けた
「隣の席だね」
「これからよろしく!」
不意をつかれた
「う、うん」
「よろしくね~」
「私もあなたに興味があったんだ~」
「ほんと?」
美緒が嬉しそうに笑った
「私、高梨美緒」
「知ってる子が誰もいなくてさ」
「よかったら」
「仲良くしてくれる?」
「私は水野日向~」
「もちろんだよ~」
「うれしいな~」
こうして
私が追いかけるより先に
美緒は友達になってくれた
そして
やっぱり最初に感じたとおりだった
美緒といると
話をするだけで
一緒に歩くだけで
ただ隣にいるだけで楽しかった
詩織さん以外にも
こんな人がいたんだ
私の好きな遊びには付き合ってくれないけど
きっといつか本気で遊んでくれる
それから
桐生玲奈
先生なんかやっていた
私みたいな匂いがする女
期待どおり
あんなに叩いたのに
私を見る目に恐怖の色はなかった
その日のうちに何事もなかったような顔で
授業をしていた
……そして
ぱんっ!!
もう一度鞭が背中へ入った
「うあっ……!」
日向の体が大きく震えた
痛い
苦しい
涙が止まらない
それなのに
日向の口元が少しずつ上がっていく
私を怖がらない
私から逃げない
こんなに私とおもいっきり遊んでくれる
痛くしたら
痛く返してくれる
新しい最高の遊び相手
榊千鶴
「千鶴~」
日向が泣きながら笑った
煙の向こうで千鶴の鞭が止まる
「なんです?」
「ありがとう~」
千鶴が防護面の奥で眉を寄せた
「何がですか?」
日向が震える両腕を床へつく
裂けた背中から血が流れている
それでもゆっくりと体を起こしていく
「私を~」
「怖がらないでいてくれて~」
ふらつきながら立ち上がる
「一緒に」
「遊んでくれて~」
千鶴が日向を見る
日向は目を閉じたまま笑っていた
「まだ」
「終わっていませんよ」
「うん~」
「私の八つ当たりは」
「こんなものではありません」
「よかった~」
日向が両腕をだらりと下げる
「まだ」
「遊べるね~」
千鶴が鞭を構えた
「もちろんです」
千鶴の黒い鞭が煙を切り裂き日向へ襲いかかる
その鞭へ
日向も右腕を振るった
腕全体を一本のムチのようにしならせる
本物の鞭と日向のムチ打撃が
正面からぶつかった
ばあん!!
何かが破裂したような音が響く
黒い鞭が日向の右腕へ巻きついた
皮膚へ食い込む
それでも日向は腕を引かなかった
鞭を通して千鶴の力が伝わってくる
日向の腕、肩、腰が流れるように動いた
その瞬間
鞭を通して日向の力が千鶴へ返っていく
「っ!」
千鶴の体が大きく崩れた
前へたたらを踏む
日向が巻きついた鞭を引く
同時に自分から前へ飛び出した
千鶴のもとまで続く鞭を一本の道にして
一気に駆け抜ける
煙の中
二人の間にあった距離があっという間に消えた
千鶴が顔を上げる
その時にはもう目の前に日向が立っていた
「なっ――」
千鶴はまだ体勢を立て直せていない
日向が笑った
「私のば~ん」
「本気でやるよ~」
「舌を噛まないでね~」
右腕がしなる
ばちん!!
千鶴の右の胸元へムチ打撃が入った
黒い忍び装束が斜めに裂ける
その下の皮膚まで大きく引き裂かれた
「ぐっ……!」
千鶴の体が傾く
そこへ左腕
ばちん!!
今度は左の脇腹
忍び装束と肌が横一文字に裂ける
「うっ!」
日向は止まらない
しなった右腕が千鶴の右の太腿へ入った
ばちん!!
「っあ!」
黒い布が裂け
その下へ赤い傷が走る
千鶴の右脚から力が抜けて片膝が落ちる
その瞬間
日向の右脚が大きく振り上げられた
脚全体を一本のムチにした強烈な蹴り
ばあん!!
千鶴の右腰へ入った
「がっ……!」
千鶴の体が弾かれるように大きく回る
その背中が日向へ向いた
「さっきの~」
日向が両腕を上げる
「お返し~」
ばちん!!
一発
千鶴の背中が裂ける
「うあっ!」
ばちん!!
二発
新しい傷が背中へ刻まれる
「やっ……!」
そして
日向が最後の一撃を振り下ろした
ばちん!!
三発目
「あああぁぁぁぁっ!!」
千鶴の悲鳴が煙に包まれた玄関へ響いた
千鶴が床へ崩れ落ちる
衝撃で黒い防護面が外れ床へ転がっていく
千鶴はそのまま体を丸めた
「うっ……」
裂けた服の下
全身に刻まれた傷から血がにじんでいる
「うぅ……」
あまりの痛みに体が震える
床の上で身をよじる
薄くなり始めた煙が千鶴の目と喉を刺激する
「痛い……!」
涙が次々とこぼれる
「痛いです……!」
千鶴が声を上げて泣いた
「うああぁぁぁぁ!」
その姿を見下ろしていた
日向の笑顔が突然固まった
「……あれ~?」
肩、胸、脇腹、太腿
そして何度も鞭を受けた背中
興奮で忘れていた痛みが一気に戻ってきた
「いっ……!」
日向の膝から力が抜ける
床へ両手をついた
手をついた衝撃だけで背中の傷が焼けるように痛む
「うああっ!」
日向も床へ倒れた
千鶴の隣で体を丸める
「痛い~!」
涙がぼろぼろと流れた
「すっごく痛いね~!」
「日向が……!」
千鶴が涙を流しながら叫ぶ
「やったのでしょう!」
「千鶴だって~」
「ひどいじゃん~!」
「全部受け止めると」
「言ったのは日向です!」
「こんなに痛いなんて」
「聞いてないよ~!」
二人で泣きながら言い合う
だけどもうどちらにも
立ち上がる力は残っていなかった
催涙煙幕がようやく薄れていく
広い玄関の片隅で
二人は裂けた服と血と涙を抱えた
同じように体を丸めて痛みに震える
「千鶴~」
「なんです……?」
「楽しかったね~」
千鶴が涙を落としながら
ほんの少し笑った
「とても」
「楽しかったです」
日向も笑う
「またやろうね~」
「次は……」
千鶴が途切れそうな声で答える
「美緒の後でいいです」
二人の手が
床の上をゆっくりと伸びる
指先が触れた
慰め合うように互いの手を握った
そして
ほとんど同時に意識を失った
好きな人の
一番にはなれない
だけど
自分の痛みを受け止めて
一緒に泣いてくれた友達なら
見つかった


