千鶴が日向へ向かって飛び込んでくる
日向はそう思った
だけど違った
千鶴の両手が忍び装束の中へ入る
取り出したのはいくつもの黒い玉
それを日向ではなく
広い玄関の四方へ投げた
階段、廊下、壁際、二階の手すり
黒い玉が次々と落ちる
「え~?」
次の瞬間
すべての玉が一斉に破裂した
ぱんっ!
ぱんっ!
ぱんっ!
白い煙が勢いよく噴き出す
一瞬で玄関が煙に包まれた
「げほっ!」
日向が口元を押さえる
目が焼けるように痛い
涙が溢れる
何度瞬きをしても千鶴の姿が見えない
「うえ~」
「なにこれ~?」
返事はない
煙はさらに濃くなっていく
日向は目を開けられず両目を閉じる
息を止めようとしても吸うたびに喉が痛い
咳が止まらなくなる
その煙の向こうで
千鶴は顔全体を覆う黒い防護面を装着していた
目、鼻、口、すべてが守られている
日向は、何とか小さく開けた目で千鶴を見る
「ずるい~」
日向が涙を流しながら、それでも笑みを浮かべる
防護面の奥からくぐもった声が返ってきた
「ありがとうございます」
「褒めてないよ~」
「忍にとっては褒め言葉です」
千鶴の姿が煙の中へ消える
気配も足音もない
日向は両腕を上げる
千鶴がどこにいるのか
まったく分からない
その時、空気が切り裂かれた
ぱんっ!!
「うあっ!」
日向の体が大きく揺れる
朱色の道着が右の肩口から胸元へ斜めに引き裂かれた
布だけではないその下の皮膚まで細長く裂けている
傷口から血がにじみ出す
日向が痛みに顔を歪めた
何が起きたのか分からない
煙の中から何かが床を擦る音がする
それからもう一度
ぱんっ!!
今度は日向の左の太腿の黒い布が裂けた
その下の肌も切りつけられたように裂ける
「いっ……!」
日向がその場へ片膝をつく
煙の向こうから千鶴の声が聞こえた
「日向のムチ打撃」
その手には長く黒い鞭が握られている
「私も真似をしようとしたのですが」
千鶴が鞭を引く
煙の中で黒い鞭が蛇のようにうねる
「私にはできませんでした」
ぱんっ!!
「ぐっ……!」
日向の脇腹が打たれた
道着の横が裂ける
皮膚が大きく引き裂かれた
日向が脇腹を押さえる
「本当に」
「日向はすごいですね」
「そう~?」
日向が苦しそうに笑う
「褒められると~」
「照れるな~」
「ですが」
千鶴が鞭を握り直す
「本物の鞭の扱いなら」
防護面の奥でその目が細くなる
「私も負けませんよ」
日向が咳き込みながら立ち上がろうとする
小さく目を開けるが涙で殆ど見えない
千鶴の位置も分からない
その背後に千鶴が立っていることにも気づけなかった
千鶴が大きく腕を振るう
ぱんっ!!
鞭が日向の背中へ叩き込まれた
「ぎっ……!」
朱色の道着が横一文字に裂ける
背中の皮膚が大きく引き裂かれた
裂けた道着の隙間から日向の背中が露わになる
そこには今日できたものではない
無数の古傷が残っている
何度も
何度も
同じ場所を打たれたように
日向の背中を、数え切れない傷痕が覆っていた
防護面の奥で千鶴の目がわずかに見開かれた
その一瞬、鞭を握る手が止まる
日向はあまりの痛みに
体を震わせながら床へ両手をついた
その背中へ千鶴は再び鞭を振り上げる
ぱんっ!!
二発目
「うああっ!」
古い傷痕の上へ新しい傷が刻まれる
日向の腕から力が抜けてそのまま床へ倒れ込む
それでも千鶴は止めない
鞭を振り上げる
「全部」
「受け止めてくださるのでしょう?」
三発目
ぱんっ!!
「ああああっ!」
日向の悲鳴が広い玄関へ響いた
背中を押さえることもできない
痛みから逃げるように床の上でただ身をよじる
涙が次々とこぼれる
催涙煙幕のせいだけじゃない
痛い……
本当に
……痛い
「うっ……」
日向が声を押し殺そうとする
でもできなかった
「うぅ……」
「うぅーーううぅぅーー」
声にならない声が漏れた
子供のように泣きながら身を震わせる
……ああ
痛いなぁ
鞭で叩かれるのは
痛いんだよ
背中に残った数え切れない傷痕
その一つ一つを
私は今でも覚えている
私が覚えている一番古い記憶
私は水野の家に生まれた
物心がついた頃には
もう道場で稽古をしていた
小さな私が道場の真ん中に立っている
その後ろにはパパ
その腕が動いて空気が鳴った
次の瞬間
バチンっ!
背中が焼けるように痛くなった
私は床へ倒れた
痛くて
苦しくて
声を上げて泣いた
でも
誰も助けてくれなかった
「立て」
パパはそれしか言わなかった
立てなければ
また打たれた
泣けば
また打たれた
逃げようとすれば
もっと強く打たれた
それから
毎日
毎日
私はムチで打たれてきた
手で
腕で
脚で
体のすべてを一本のムチのように使う
水野の武術を教えられた
私は出来が良かったらしい
教えられたことをすぐに覚えた
痛みを受けた分だけ強くなった
そして
初めて私のムチがパパの顔へ届いた日
ばちん!
パパの顔が斜めに裂けた
皮膚が破れ血が流れた
私は怒られると思った
また、打たれると思った
だけどパパは笑った
初めて私に笑いかけてくれた
大きな手で私の頭を撫でた
「よくやった」
褒めてくれた
嬉しかった
すごく
嬉しかった
だから
もっと稽古した
もっと
たくさんの人を打った
道場にいるいろんな大人を
何度も
何度も
ムチで打った
服を裂いた
皮膚を裂いた
泣かせた
悲鳴を上げさせた
たくさん打てば
たくさん褒めてもらえた
私の頭を撫でてくれた
すごいな
強いな
将来が楽しみだ
そう言ってくれた
楽しかった
ずっと続くと思っていた
だけど
私が大きくなるにつれて
一人
また一人
稽古の相手をしてくれなくなった
怪我が治っていない
今日は体調が悪い
仕事がある
いろんな理由をつけて私から逃げた
中学生になる頃には
誰も私の相手をしてくれなくなった
パパまで私と稽古をしなくなった
私が怖いから
打たれると痛いから
自分の体が傷つくのが
……嫌だから
小さくて弱かった私のことは
毎日叩いたくせに
自分が痛いのは
嫌なんだ
つまらない
ずるい
その頃から
私の父を見る目は変わった
この人は駄目な大人だ
私が弱かった時だけ近くにいた
私が強くなって怖くなったら
近づきもしない
パパはママを捨てた
新しい女を連れてきた
その女も飽きたら捨てた
きっと私も同じだ
面白い間だけ傍に置いて
都合が悪くなったら捨てる
中学校の卒業が間近になった頃には
誰一人として私の相手をしてくれなくなった
きっとみんな私のことが怖いだけなんだ
だったら怖くない顔をすればいい
笑っていれば怖がられない
ゆっくりとやわらかく話せば怖がらない
また一緒に遊んでくれる
そう思って
私はいつも笑うようになった
道場で誰かと目が合うたびに
にこにこと笑った
そして怖がらせないように話しかけた
「ねえ~」
「今日~」
「私と遊んでくれる~?」
毎日
いろんな人に頼んで回った
でも
誰も遊んでくれなかった
目を逸らされた
逃げられた
聞こえないふりをされた
それでも私は笑った
怖がらせないように
嫌われないように
明日こそ
誰かが遊んでくれるかもしれないから
だけど
誰も私を見てくれなかった
それどころか
私は今までみんなと稽古していた道場から
離れた小部屋へ移された
そこなら好きなだけ稽古をしていい
そう言われた
小部屋の真ん中には大きなサンドバッグが
一つだけ吊るされていた
私に与えられた
新しい遊び相手
私は
その子を叩いた
ばちん
泣かない
ばちん
声を上げない
ばちん
逃げもしない
ばちん
私を褒めてくれない
何度叩いても
何も返してくれない
私の顔に貼り付けたはずの笑顔は
いつの間にか消えていた
それでも
毎日その子を叩いた
朝から夜まで
何度も何度も同じ遊びを繰り返した
ある日
ひときわ大きな音が小部屋へ響いた
ばちぃぃん!!
サンドバッグが真ん中から裂けた
中の砂が床へ流れ落ちていく
……私の唯一の遊び相手が
……壊れた
もう
限界だった
私は小部屋の扉を開けて廊下へ出た
みんながいる道場へ向かって歩く
一歩近づく
また
一歩近づく
道場からみんなの声が聞こえてくる
私がいないところで楽しそうに遊んでる
それを聞いているうちに
下がっていた頬が少しずつ上がっていった
口元がゆっくりと緩んでいく
道場へ近づけば近づくほど
いつもの笑顔が私の顔へ刻まれていった
道場の扉を開ける
みんなが一斉に私を見た
誰も笑ってくれなかった
だから
私の笑顔を見せてあげた
「みんな~」
両腕をだらりと下げる
「一緒に~」
一歩を踏み出して道場の中へ入った
「遊ぼうよ~」
そして
みんなを襲った
私から逃げた人たちを
一人ずつ捕まえてたくさん叩いた
服を裂いた
皮膚を裂いて泣かせた
たくさん
たくさん
悲鳴を上げさせた
みんなも私を叩いてくれた
「みんなで押さえつけろ!」
誰かの指示が聞こえた
叩かれるのはいい
でも大人に押さえられたら遊べない
もっと早く
捕まらないように
また
沢山沢山
みんなを叩いた
その中にはパパもいた
逃げようとするパパを捕まえて
初めて褒めて貰った時と同じ顔を打った
今度はもう二度と
女の人が見向きもしなくなるように
顔がぐちゃぐちゃになるように
何度も何度も
すごく
楽しかった
みんな
やっと
私と遊んでくれた
日向はそう思った
だけど違った
千鶴の両手が忍び装束の中へ入る
取り出したのはいくつもの黒い玉
それを日向ではなく
広い玄関の四方へ投げた
階段、廊下、壁際、二階の手すり
黒い玉が次々と落ちる
「え~?」
次の瞬間
すべての玉が一斉に破裂した
ぱんっ!
ぱんっ!
ぱんっ!
白い煙が勢いよく噴き出す
一瞬で玄関が煙に包まれた
「げほっ!」
日向が口元を押さえる
目が焼けるように痛い
涙が溢れる
何度瞬きをしても千鶴の姿が見えない
「うえ~」
「なにこれ~?」
返事はない
煙はさらに濃くなっていく
日向は目を開けられず両目を閉じる
息を止めようとしても吸うたびに喉が痛い
咳が止まらなくなる
その煙の向こうで
千鶴は顔全体を覆う黒い防護面を装着していた
目、鼻、口、すべてが守られている
日向は、何とか小さく開けた目で千鶴を見る
「ずるい~」
日向が涙を流しながら、それでも笑みを浮かべる
防護面の奥からくぐもった声が返ってきた
「ありがとうございます」
「褒めてないよ~」
「忍にとっては褒め言葉です」
千鶴の姿が煙の中へ消える
気配も足音もない
日向は両腕を上げる
千鶴がどこにいるのか
まったく分からない
その時、空気が切り裂かれた
ぱんっ!!
「うあっ!」
日向の体が大きく揺れる
朱色の道着が右の肩口から胸元へ斜めに引き裂かれた
布だけではないその下の皮膚まで細長く裂けている
傷口から血がにじみ出す
日向が痛みに顔を歪めた
何が起きたのか分からない
煙の中から何かが床を擦る音がする
それからもう一度
ぱんっ!!
今度は日向の左の太腿の黒い布が裂けた
その下の肌も切りつけられたように裂ける
「いっ……!」
日向がその場へ片膝をつく
煙の向こうから千鶴の声が聞こえた
「日向のムチ打撃」
その手には長く黒い鞭が握られている
「私も真似をしようとしたのですが」
千鶴が鞭を引く
煙の中で黒い鞭が蛇のようにうねる
「私にはできませんでした」
ぱんっ!!
「ぐっ……!」
日向の脇腹が打たれた
道着の横が裂ける
皮膚が大きく引き裂かれた
日向が脇腹を押さえる
「本当に」
「日向はすごいですね」
「そう~?」
日向が苦しそうに笑う
「褒められると~」
「照れるな~」
「ですが」
千鶴が鞭を握り直す
「本物の鞭の扱いなら」
防護面の奥でその目が細くなる
「私も負けませんよ」
日向が咳き込みながら立ち上がろうとする
小さく目を開けるが涙で殆ど見えない
千鶴の位置も分からない
その背後に千鶴が立っていることにも気づけなかった
千鶴が大きく腕を振るう
ぱんっ!!
鞭が日向の背中へ叩き込まれた
「ぎっ……!」
朱色の道着が横一文字に裂ける
背中の皮膚が大きく引き裂かれた
裂けた道着の隙間から日向の背中が露わになる
そこには今日できたものではない
無数の古傷が残っている
何度も
何度も
同じ場所を打たれたように
日向の背中を、数え切れない傷痕が覆っていた
防護面の奥で千鶴の目がわずかに見開かれた
その一瞬、鞭を握る手が止まる
日向はあまりの痛みに
体を震わせながら床へ両手をついた
その背中へ千鶴は再び鞭を振り上げる
ぱんっ!!
二発目
「うああっ!」
古い傷痕の上へ新しい傷が刻まれる
日向の腕から力が抜けてそのまま床へ倒れ込む
それでも千鶴は止めない
鞭を振り上げる
「全部」
「受け止めてくださるのでしょう?」
三発目
ぱんっ!!
「ああああっ!」
日向の悲鳴が広い玄関へ響いた
背中を押さえることもできない
痛みから逃げるように床の上でただ身をよじる
涙が次々とこぼれる
催涙煙幕のせいだけじゃない
痛い……
本当に
……痛い
「うっ……」
日向が声を押し殺そうとする
でもできなかった
「うぅ……」
「うぅーーううぅぅーー」
声にならない声が漏れた
子供のように泣きながら身を震わせる
……ああ
痛いなぁ
鞭で叩かれるのは
痛いんだよ
背中に残った数え切れない傷痕
その一つ一つを
私は今でも覚えている
私が覚えている一番古い記憶
私は水野の家に生まれた
物心がついた頃には
もう道場で稽古をしていた
小さな私が道場の真ん中に立っている
その後ろにはパパ
その腕が動いて空気が鳴った
次の瞬間
バチンっ!
背中が焼けるように痛くなった
私は床へ倒れた
痛くて
苦しくて
声を上げて泣いた
でも
誰も助けてくれなかった
「立て」
パパはそれしか言わなかった
立てなければ
また打たれた
泣けば
また打たれた
逃げようとすれば
もっと強く打たれた
それから
毎日
毎日
私はムチで打たれてきた
手で
腕で
脚で
体のすべてを一本のムチのように使う
水野の武術を教えられた
私は出来が良かったらしい
教えられたことをすぐに覚えた
痛みを受けた分だけ強くなった
そして
初めて私のムチがパパの顔へ届いた日
ばちん!
パパの顔が斜めに裂けた
皮膚が破れ血が流れた
私は怒られると思った
また、打たれると思った
だけどパパは笑った
初めて私に笑いかけてくれた
大きな手で私の頭を撫でた
「よくやった」
褒めてくれた
嬉しかった
すごく
嬉しかった
だから
もっと稽古した
もっと
たくさんの人を打った
道場にいるいろんな大人を
何度も
何度も
ムチで打った
服を裂いた
皮膚を裂いた
泣かせた
悲鳴を上げさせた
たくさん打てば
たくさん褒めてもらえた
私の頭を撫でてくれた
すごいな
強いな
将来が楽しみだ
そう言ってくれた
楽しかった
ずっと続くと思っていた
だけど
私が大きくなるにつれて
一人
また一人
稽古の相手をしてくれなくなった
怪我が治っていない
今日は体調が悪い
仕事がある
いろんな理由をつけて私から逃げた
中学生になる頃には
誰も私の相手をしてくれなくなった
パパまで私と稽古をしなくなった
私が怖いから
打たれると痛いから
自分の体が傷つくのが
……嫌だから
小さくて弱かった私のことは
毎日叩いたくせに
自分が痛いのは
嫌なんだ
つまらない
ずるい
その頃から
私の父を見る目は変わった
この人は駄目な大人だ
私が弱かった時だけ近くにいた
私が強くなって怖くなったら
近づきもしない
パパはママを捨てた
新しい女を連れてきた
その女も飽きたら捨てた
きっと私も同じだ
面白い間だけ傍に置いて
都合が悪くなったら捨てる
中学校の卒業が間近になった頃には
誰一人として私の相手をしてくれなくなった
きっとみんな私のことが怖いだけなんだ
だったら怖くない顔をすればいい
笑っていれば怖がられない
ゆっくりとやわらかく話せば怖がらない
また一緒に遊んでくれる
そう思って
私はいつも笑うようになった
道場で誰かと目が合うたびに
にこにこと笑った
そして怖がらせないように話しかけた
「ねえ~」
「今日~」
「私と遊んでくれる~?」
毎日
いろんな人に頼んで回った
でも
誰も遊んでくれなかった
目を逸らされた
逃げられた
聞こえないふりをされた
それでも私は笑った
怖がらせないように
嫌われないように
明日こそ
誰かが遊んでくれるかもしれないから
だけど
誰も私を見てくれなかった
それどころか
私は今までみんなと稽古していた道場から
離れた小部屋へ移された
そこなら好きなだけ稽古をしていい
そう言われた
小部屋の真ん中には大きなサンドバッグが
一つだけ吊るされていた
私に与えられた
新しい遊び相手
私は
その子を叩いた
ばちん
泣かない
ばちん
声を上げない
ばちん
逃げもしない
ばちん
私を褒めてくれない
何度叩いても
何も返してくれない
私の顔に貼り付けたはずの笑顔は
いつの間にか消えていた
それでも
毎日その子を叩いた
朝から夜まで
何度も何度も同じ遊びを繰り返した
ある日
ひときわ大きな音が小部屋へ響いた
ばちぃぃん!!
サンドバッグが真ん中から裂けた
中の砂が床へ流れ落ちていく
……私の唯一の遊び相手が
……壊れた
もう
限界だった
私は小部屋の扉を開けて廊下へ出た
みんながいる道場へ向かって歩く
一歩近づく
また
一歩近づく
道場からみんなの声が聞こえてくる
私がいないところで楽しそうに遊んでる
それを聞いているうちに
下がっていた頬が少しずつ上がっていった
口元がゆっくりと緩んでいく
道場へ近づけば近づくほど
いつもの笑顔が私の顔へ刻まれていった
道場の扉を開ける
みんなが一斉に私を見た
誰も笑ってくれなかった
だから
私の笑顔を見せてあげた
「みんな~」
両腕をだらりと下げる
「一緒に~」
一歩を踏み出して道場の中へ入った
「遊ぼうよ~」
そして
みんなを襲った
私から逃げた人たちを
一人ずつ捕まえてたくさん叩いた
服を裂いた
皮膚を裂いて泣かせた
たくさん
たくさん
悲鳴を上げさせた
みんなも私を叩いてくれた
「みんなで押さえつけろ!」
誰かの指示が聞こえた
叩かれるのはいい
でも大人に押さえられたら遊べない
もっと早く
捕まらないように
また
沢山沢山
みんなを叩いた
その中にはパパもいた
逃げようとするパパを捕まえて
初めて褒めて貰った時と同じ顔を打った
今度はもう二度と
女の人が見向きもしなくなるように
顔がぐちゃぐちゃになるように
何度も何度も
すごく
楽しかった
みんな
やっと
私と遊んでくれた


