私たちは5人で九条家の門をくぐった
広い庭の奥に大きな母屋が建っている
私たちはそこへ向かって歩いていく
だけど母屋の前まで来たところで足を止めた
大勢の人間が私たちを待ち構えていた
刀を腰に差した九条の剣士たち
黒い忍び装束に身を包んだ榊の忍たち
合わせて二十人以上はいる
母屋の前を塞ぐように横一列に並び
全員の視線が私たちへ向けられていた
静かだった
誰も言葉を発しない
だけど
今にも一斉に襲いかかってきそうな張り詰めた空気
私の後ろから四人が前へ出た
湊、お父さん、日向、桐生先生
私を守るように四人が横へ並ぶ
湊が腰を落とす
お父さんがゆっくり両手を上げる
桐生先生も濃紺の袴を揺らしながら半歩前へ出た
そして日向だけが心から嬉しそうに笑っている
「わは~」
両手を胸の前で合わせる
「来た来た~」
日向は目をキラキラさせながら
なんかきゃぴきゃぴしていた
一人だけ……違う世界の住人ね
九条の剣士が刀の柄へ手をかけた
榊の忍たちも袖や腰へ手を伸ばす
湊の足が僅かに動く
お父さんの目が細くなる
桐生先生が静かに指を開く
日向が両腕をだらりと下げて
さらに嬉しそうに笑った
その時
「待ちなさい!」
女の鋭い声が庭へ響いた
全員の動きが止まる
母屋の玄関
開かれた扉の前に
一人の少女が立っていた
黒い忍び装束に後ろで束ねた長い黒髪
「千鶴……」
千鶴が玄関から庭へ出る
そして私たちを取り囲もうとしていた者たちを見回した
よく通る声で告げる
「この方々は」
「伊織様の客人です」
伊織様
その呼び方に胸の奥が少しだけざわついた
千鶴が続ける
「手を出すことは許しません」
「全員下がりなさい」
誰も反論しなかった
刀へ手をかけていた剣士たちが一斉に手を離す
榊の忍たちも音もなく姿勢を戻した
そして左右へ分かれる
玄関まで一本の道が開いた
九条の剣士たちは母屋の両側へ
榊の忍たちは庭の木々や建物の陰へ
次々と散っていく
あれだけいた人たちが
あっという間にいなくなった
その時
残念そうな声が私の横から聞こえた
「えええぇぇ~」
日向だった
「そんなぁ~」
「せっかく」
「いっぱい来てくれたのに~」
肩を落として本気で残念がっている
「日向ってさ……」
「何をしに来たのよ」
日向が私を見て笑う
「美緒のお手伝いだよ~」
「友達の危機に駆け付けたの~」
絶対……
それだけじゃない……
っというか
本当はそっちじゃない気がする……
千鶴が私たちへ向かって静かに頭を下げた
「皆様」
「お待ちしておりました」
顔を上げる
「伊織様が」
「お会いになります」
そして玄関の奥へ手を向けた
「どうぞこちらへ」
私はもう一度歩き出した
湊たちも黙ってあとへ続く
広い玄関へ入る
天井は二階まで吹き抜けになっている
正面には屋敷の奥まで続く幅の広い廊下
右側にも別の通路が延びている
左側には二階へ続く大きな階段
私は靴を脱ごうとした
その時
「そのままで結構です」
千鶴が言った
「え?」
「靴は脱がない方がよろしいかと」
千鶴が私たちの足元を見る
「土足でどうぞ」
誰も理由を聞かなかった
この先で何が待っているのか
その一言だけで
なんとなく分かったから
私は靴を履いたまま九条家の中へ上がった
皆がそのまま続く
「桐生先生」
千鶴が先生を呼び止めた
「なに?」
千鶴が懐から一通の封筒を取り出す
「兄が」
「あなたを食事に招待したいそうです」
桐生先生が差し出された封筒を受け取った
封を切り、中の手紙へ目を通す
先生の眉が少しだけ動いた
そして大きくため息をつく
「気に入られちゃってた」
「ってことね」
手紙を折り畳む
それ以上は何も言わないまま
右側の通路へ向かって歩き出した
「先生?」
私が呼んでも振り返らない
片手だけを上げる
「大丈夫」
「ちょっとデートしてくるだけだから」
デート?
聞き返す前に
桐生先生は右側の通路の奥へ消えていった
千鶴が今度は正面の広い廊下を指す
「伊織様は」
「この先におられます」
私は廊下の奥を見る
遠くまで真っすぐに続いている
その先に伊織くんがいる
「どうぞ」
「お進みください」
私は歩き出した
湊もそのあとへ続く
お父さんも黙って歩き出した
だけど日向の足音が聞こえない
私は一度だけ振り返った
日向は玄関の中央に立ったまま
にこにこと笑っていた
その視線の先には千鶴がいる
千鶴もそんな日向を見た
そしてほんの少しだけ笑った
私は日向を置いて正面の廊下を進んでいく
だけど心配はしなかった
日向は千鶴と遊びたいから残ったんだ
千鶴もそれを望んでいるように見えた
だからきっと大丈夫
◇ ◇ ◇
美緒たちが歩いていくのを確認すると
千鶴が大きなため息をついた
吹き抜けの玄関にある大きな階段を上る
一段
また一段
静かに上っていく
そして階段の途中で足を止めた
日向へ向き直る
そのままゆっくり腰を下ろした
階段に座り両膝を抱えて体を丸めて
日向を見下ろした
日向は玄関の中央に立ったまま
嬉しそうに笑っている
広い玄関に日向と千鶴
二人だけが残った
広い庭の奥に大きな母屋が建っている
私たちはそこへ向かって歩いていく
だけど母屋の前まで来たところで足を止めた
大勢の人間が私たちを待ち構えていた
刀を腰に差した九条の剣士たち
黒い忍び装束に身を包んだ榊の忍たち
合わせて二十人以上はいる
母屋の前を塞ぐように横一列に並び
全員の視線が私たちへ向けられていた
静かだった
誰も言葉を発しない
だけど
今にも一斉に襲いかかってきそうな張り詰めた空気
私の後ろから四人が前へ出た
湊、お父さん、日向、桐生先生
私を守るように四人が横へ並ぶ
湊が腰を落とす
お父さんがゆっくり両手を上げる
桐生先生も濃紺の袴を揺らしながら半歩前へ出た
そして日向だけが心から嬉しそうに笑っている
「わは~」
両手を胸の前で合わせる
「来た来た~」
日向は目をキラキラさせながら
なんかきゃぴきゃぴしていた
一人だけ……違う世界の住人ね
九条の剣士が刀の柄へ手をかけた
榊の忍たちも袖や腰へ手を伸ばす
湊の足が僅かに動く
お父さんの目が細くなる
桐生先生が静かに指を開く
日向が両腕をだらりと下げて
さらに嬉しそうに笑った
その時
「待ちなさい!」
女の鋭い声が庭へ響いた
全員の動きが止まる
母屋の玄関
開かれた扉の前に
一人の少女が立っていた
黒い忍び装束に後ろで束ねた長い黒髪
「千鶴……」
千鶴が玄関から庭へ出る
そして私たちを取り囲もうとしていた者たちを見回した
よく通る声で告げる
「この方々は」
「伊織様の客人です」
伊織様
その呼び方に胸の奥が少しだけざわついた
千鶴が続ける
「手を出すことは許しません」
「全員下がりなさい」
誰も反論しなかった
刀へ手をかけていた剣士たちが一斉に手を離す
榊の忍たちも音もなく姿勢を戻した
そして左右へ分かれる
玄関まで一本の道が開いた
九条の剣士たちは母屋の両側へ
榊の忍たちは庭の木々や建物の陰へ
次々と散っていく
あれだけいた人たちが
あっという間にいなくなった
その時
残念そうな声が私の横から聞こえた
「えええぇぇ~」
日向だった
「そんなぁ~」
「せっかく」
「いっぱい来てくれたのに~」
肩を落として本気で残念がっている
「日向ってさ……」
「何をしに来たのよ」
日向が私を見て笑う
「美緒のお手伝いだよ~」
「友達の危機に駆け付けたの~」
絶対……
それだけじゃない……
っというか
本当はそっちじゃない気がする……
千鶴が私たちへ向かって静かに頭を下げた
「皆様」
「お待ちしておりました」
顔を上げる
「伊織様が」
「お会いになります」
そして玄関の奥へ手を向けた
「どうぞこちらへ」
私はもう一度歩き出した
湊たちも黙ってあとへ続く
広い玄関へ入る
天井は二階まで吹き抜けになっている
正面には屋敷の奥まで続く幅の広い廊下
右側にも別の通路が延びている
左側には二階へ続く大きな階段
私は靴を脱ごうとした
その時
「そのままで結構です」
千鶴が言った
「え?」
「靴は脱がない方がよろしいかと」
千鶴が私たちの足元を見る
「土足でどうぞ」
誰も理由を聞かなかった
この先で何が待っているのか
その一言だけで
なんとなく分かったから
私は靴を履いたまま九条家の中へ上がった
皆がそのまま続く
「桐生先生」
千鶴が先生を呼び止めた
「なに?」
千鶴が懐から一通の封筒を取り出す
「兄が」
「あなたを食事に招待したいそうです」
桐生先生が差し出された封筒を受け取った
封を切り、中の手紙へ目を通す
先生の眉が少しだけ動いた
そして大きくため息をつく
「気に入られちゃってた」
「ってことね」
手紙を折り畳む
それ以上は何も言わないまま
右側の通路へ向かって歩き出した
「先生?」
私が呼んでも振り返らない
片手だけを上げる
「大丈夫」
「ちょっとデートしてくるだけだから」
デート?
聞き返す前に
桐生先生は右側の通路の奥へ消えていった
千鶴が今度は正面の広い廊下を指す
「伊織様は」
「この先におられます」
私は廊下の奥を見る
遠くまで真っすぐに続いている
その先に伊織くんがいる
「どうぞ」
「お進みください」
私は歩き出した
湊もそのあとへ続く
お父さんも黙って歩き出した
だけど日向の足音が聞こえない
私は一度だけ振り返った
日向は玄関の中央に立ったまま
にこにこと笑っていた
その視線の先には千鶴がいる
千鶴もそんな日向を見た
そしてほんの少しだけ笑った
私は日向を置いて正面の廊下を進んでいく
だけど心配はしなかった
日向は千鶴と遊びたいから残ったんだ
千鶴もそれを望んでいるように見えた
だからきっと大丈夫
◇ ◇ ◇
美緒たちが歩いていくのを確認すると
千鶴が大きなため息をついた
吹き抜けの玄関にある大きな階段を上る
一段
また一段
静かに上っていく
そして階段の途中で足を止めた
日向へ向き直る
そのままゆっくり腰を下ろした
階段に座り両膝を抱えて体を丸めて
日向を見下ろした
日向は玄関の中央に立ったまま
嬉しそうに笑っている
広い玄関に日向と千鶴
二人だけが残った


