伊織くんが九条家へ行ってから
三日が経った
最初は少し頭を冷やしたら
すぐに帰ってくると思っていた
だけど伊織くんは帰ってこない
連絡もない
そして
私はとうとう耐えられなくなった
自分の部屋へ入る
机の上に置いてあったスマートフォンを手に取った
伊織くんの名前を表示する
通話ボタンを押す
トゥルルルル
トゥルルルル
トゥルルルル
出ない
しばらく待つ
トゥルルルル
トゥルルルル
通話が切れた
もう一度
通話ボタンを押す
トゥルルルル
トゥルルルル
やっぱり出ない
私はスマートフォンを耳から離した
画面を見る
無断外泊……
あげく……連絡なし
さらに……
こちらからの電話にすら出ない
「ありえないわ……」
「こんなことしていいと思ってるの?」
電話が駄目なら次はメッセージ
伊織くんとのトーク画面を開いて文字を入力する
『いつ帰ってくるの?』
送信
その瞬間
既読が付いた
「お!」
思わず声が出た
「既読ついた!」
私はとりあえずは無事ってことだと思った
胸の奥にあった心配が一つ消えた気がして
ほっとした
なんだ
ちゃんと見てるじゃない
すぐに返事が来ると思って
私は画面を見つめる
十秒
三十秒
一分
返事は来ない
まあ
なんて返すか考えてるのかもしれない
そりゃそうよね
後ろめたいはずよ
私はそのまま待つ
五分
十分
三十分
スマートフォンを持ったまま
ずっとベッドに座っていた
まだ来ない
一時間
私はずっと画面を睨み続けていた
「なんだ」
「こいつ……」
既読はついている
だけど返事はない
私はもう一度文字を入力した
『今日の晩ご飯、いる?』
送信
秒で既読がついた
「あれ?」
私は画面へ顔を近づける
「やっぱり見てるじゃない」
そこで私は思った
弟達に言うことを聞いてもらいたい時は
最初は優しくした方が
上手くいくことが多い
男はその時の気分で
言うことを聞いたり聞かなかったりする
まずは愛情を持って接してあげた方がいい
それで駄目なら殴るしかない
私は一度深呼吸して
もう一度メッセージを送る
『帰ってくるなら』
『好きなものを作ってあげるよ』
『何がいい?』
送信
また秒で既読がついた
私はスマホの画面を見つめ続ける
しばらく待ったが返信はない
またこちらから送る
『返事くらいしてよ』
秒で既読
『連絡しなさい』
秒で既読
返事はない
また一時間が経った
私はスマホと無言で睨み合っていた
その間
誰も私の部屋へ入ってこなかった
いつもなら奏太や晴が
一度くらいは来るのに
廊下から足音すら聞こえない
家の中が妙に静かだった
そして私はスマートフォンを机の上へ置いた
「へえ……」
自分でも分かる
私は笑っている
だけど目は全然笑っていなかった
「そういうこと」
「しちゃうんだ」
立ち上がる
着替えようとは思わなかった
部屋着のまま廊下へ出る
階段を下りる
リビングには誰もいない
玄関へ向かい
靴を履いて扉を開ける
外はもう薄暗くなっていた
私はそのまま門を開けて外へ出た
向かう先は決まっている
九条家
伊織くんがいる場所
「待ってなさいよ……」
歩き出す
その時
塀の横に人影があることに気づいた
黒い道着
塀へ背中を預けて湊が腕を組んで立っている
湊は私を見ると
嬉しそうににやりと笑った
声はかけてこない
私も何も言わなかった
そのまま湊の前を通り過ぎる
すぐに背後から足音が聞こえてきた
振り返らなくても分かる
湊が私の後ろを歩いている
私より半歩だけ後ろ
いつもの生意気で騒がしい弟とは思えないくらい
静かに黙ってついてくる
さらに進む
道の先に、また人影があった
湊と同じ黒い道着の大きな背中が見えた
こちらへ背を向けたまま
道の真ん中に立っている
お父さん
私たちの足音が聞こえても振り返らない
私はその横を通り過ぎた
言葉は交わさない
湊がお父さんの横を通る
その時
右拳を差し出した
お父さんも左拳を出す
こつん
二人の拳がぶつかる
次の瞬間には、お父さんも私の後ろを歩き始めた
私、湊、お父さん
誰も話さない
ただ
九条家へ向かって歩いていく
やがて大きな屋敷が見えてきた
高い塀
その中央にある、九条家の大きな門
門は大きく開かれていた
まるで私たちが来ることが分かっていたみたいに
そして
その門の前に、二人の人影が立っていた
日向
桐生先生
二人とも道着姿
日向は朱色の道着に、黒い袴のようなズボン
桐生先生は白い道着に濃紺の袴
飾り気のない
合気道の道着姿
二人とも完全に戦う準備を整えていた
私は二人の前でも止まらなかった
言葉も交わさない
その間を通り
ずかずかと九条家の門をくぐる
後ろから日向の小さな笑い声が聞こえた
そのまま私の後ろについてくる
桐生先生も表情を変えずに歩き出す
また人が増えた
私、湊、お父さん、日向、桐生先生
五人で九条家の敷地へ入っていく
私だけ部屋着のまま
だけどそんなこと今はどうでもいい
伊織くん……
待ってなさい
無断外泊の上
電話を無視
メッセージを既読無視
全部まとめて
分からせてあげるから
男は一回くらい泣かさないと
言うことを聞かないのよ!
三日が経った
最初は少し頭を冷やしたら
すぐに帰ってくると思っていた
だけど伊織くんは帰ってこない
連絡もない
そして
私はとうとう耐えられなくなった
自分の部屋へ入る
机の上に置いてあったスマートフォンを手に取った
伊織くんの名前を表示する
通話ボタンを押す
トゥルルルル
トゥルルルル
トゥルルルル
出ない
しばらく待つ
トゥルルルル
トゥルルルル
通話が切れた
もう一度
通話ボタンを押す
トゥルルルル
トゥルルルル
やっぱり出ない
私はスマートフォンを耳から離した
画面を見る
無断外泊……
あげく……連絡なし
さらに……
こちらからの電話にすら出ない
「ありえないわ……」
「こんなことしていいと思ってるの?」
電話が駄目なら次はメッセージ
伊織くんとのトーク画面を開いて文字を入力する
『いつ帰ってくるの?』
送信
その瞬間
既読が付いた
「お!」
思わず声が出た
「既読ついた!」
私はとりあえずは無事ってことだと思った
胸の奥にあった心配が一つ消えた気がして
ほっとした
なんだ
ちゃんと見てるじゃない
すぐに返事が来ると思って
私は画面を見つめる
十秒
三十秒
一分
返事は来ない
まあ
なんて返すか考えてるのかもしれない
そりゃそうよね
後ろめたいはずよ
私はそのまま待つ
五分
十分
三十分
スマートフォンを持ったまま
ずっとベッドに座っていた
まだ来ない
一時間
私はずっと画面を睨み続けていた
「なんだ」
「こいつ……」
既読はついている
だけど返事はない
私はもう一度文字を入力した
『今日の晩ご飯、いる?』
送信
秒で既読がついた
「あれ?」
私は画面へ顔を近づける
「やっぱり見てるじゃない」
そこで私は思った
弟達に言うことを聞いてもらいたい時は
最初は優しくした方が
上手くいくことが多い
男はその時の気分で
言うことを聞いたり聞かなかったりする
まずは愛情を持って接してあげた方がいい
それで駄目なら殴るしかない
私は一度深呼吸して
もう一度メッセージを送る
『帰ってくるなら』
『好きなものを作ってあげるよ』
『何がいい?』
送信
また秒で既読がついた
私はスマホの画面を見つめ続ける
しばらく待ったが返信はない
またこちらから送る
『返事くらいしてよ』
秒で既読
『連絡しなさい』
秒で既読
返事はない
また一時間が経った
私はスマホと無言で睨み合っていた
その間
誰も私の部屋へ入ってこなかった
いつもなら奏太や晴が
一度くらいは来るのに
廊下から足音すら聞こえない
家の中が妙に静かだった
そして私はスマートフォンを机の上へ置いた
「へえ……」
自分でも分かる
私は笑っている
だけど目は全然笑っていなかった
「そういうこと」
「しちゃうんだ」
立ち上がる
着替えようとは思わなかった
部屋着のまま廊下へ出る
階段を下りる
リビングには誰もいない
玄関へ向かい
靴を履いて扉を開ける
外はもう薄暗くなっていた
私はそのまま門を開けて外へ出た
向かう先は決まっている
九条家
伊織くんがいる場所
「待ってなさいよ……」
歩き出す
その時
塀の横に人影があることに気づいた
黒い道着
塀へ背中を預けて湊が腕を組んで立っている
湊は私を見ると
嬉しそうににやりと笑った
声はかけてこない
私も何も言わなかった
そのまま湊の前を通り過ぎる
すぐに背後から足音が聞こえてきた
振り返らなくても分かる
湊が私の後ろを歩いている
私より半歩だけ後ろ
いつもの生意気で騒がしい弟とは思えないくらい
静かに黙ってついてくる
さらに進む
道の先に、また人影があった
湊と同じ黒い道着の大きな背中が見えた
こちらへ背を向けたまま
道の真ん中に立っている
お父さん
私たちの足音が聞こえても振り返らない
私はその横を通り過ぎた
言葉は交わさない
湊がお父さんの横を通る
その時
右拳を差し出した
お父さんも左拳を出す
こつん
二人の拳がぶつかる
次の瞬間には、お父さんも私の後ろを歩き始めた
私、湊、お父さん
誰も話さない
ただ
九条家へ向かって歩いていく
やがて大きな屋敷が見えてきた
高い塀
その中央にある、九条家の大きな門
門は大きく開かれていた
まるで私たちが来ることが分かっていたみたいに
そして
その門の前に、二人の人影が立っていた
日向
桐生先生
二人とも道着姿
日向は朱色の道着に、黒い袴のようなズボン
桐生先生は白い道着に濃紺の袴
飾り気のない
合気道の道着姿
二人とも完全に戦う準備を整えていた
私は二人の前でも止まらなかった
言葉も交わさない
その間を通り
ずかずかと九条家の門をくぐる
後ろから日向の小さな笑い声が聞こえた
そのまま私の後ろについてくる
桐生先生も表情を変えずに歩き出す
また人が増えた
私、湊、お父さん、日向、桐生先生
五人で九条家の敷地へ入っていく
私だけ部屋着のまま
だけどそんなこと今はどうでもいい
伊織くん……
待ってなさい
無断外泊の上
電話を無視
メッセージを既読無視
全部まとめて
分からせてあげるから
男は一回くらい泣かさないと
言うことを聞かないのよ!


