月曜日
いつものように弟達を送り出してから
朝ごはんを食べて
学校へ行く準備をする
ただ今日はいつもと少し違った
「美緒」
「準備できました」
「うん」
玄関にはうちの学校の制服姿の千鶴が立っていた
忍び装束で天井に張り付いていた子が
今日は赤いチェック柄のスカートを履いて
胸元に同じ柄のリボンをつけている
黒く長い髪に透き通るような白い肌
そして小さな顔
もともと可愛いとは思っていたけど
こうして改めて
同じ制服を着ているところを見ると
なんというか
圧倒的に可憐で清楚な美少女に見える
正直……
隣に並んで歩きたくないくらい
とてもじゃないけど戦っている時の姿が想像できない
綺麗な花にはトゲがある
千鶴のためにある言葉なんじゃないかしら……
「似合ってるね」
「すごく可愛い」
「ありがとうございます」
千鶴が嬉しそうに笑う
「美緒と同じ学校へ通えるなんて楽しみです」
「うん、私も嬉しい」
「分からないことあったら聞いて」
「はい」
千鶴が庭の方を見る
「あの」
「美緒」
「なに?」
「洗濯物を干されたのですか?」
「うん」
「次からは」
「私にも声をかけてください」
「え?」
「私も」
「お手伝いしたかったです」
「でも」
「朝の六時だったよ?」
「それでもです」
千鶴が少しだけ不満そうな顔を私に向けた
「私もこの家で暮らすのですから」
「家事は手伝わせてください」
「分かった」
「次からは声をかけるね」
「はい」
千鶴が満足そうに笑った
伊織くんも靴を履きながら千鶴を見る
「本当に転校してくるとは思わなかったよ」
「兄も許可してくれましたので」
「宗一郎が?」
「はい、快く」
千鶴が微笑む
「好きにしろ、と」
ああ
そんなこと言ってたな
「それに」
千鶴が私と伊織くんを見る
「高梨家に住みながら」
「私だけ別の学校へ通うなんて寂しいです」
言われてみればそうだ
「そうだね」
「私も千鶴と一緒で嬉しいよ」
その時に私は気づいた
千鶴はチラチラと伊織くんを見ている
ああ……そりゃそうだよね
伊織くんが千鶴の制服姿に感想を言ってなかった
すると伊織くんから声をかけられた
「美緒さん」
「今日のお弁当のおかずってなに?」
は?
こんな美少女が新品の制服着てるのにお弁当のおかず?
無神経すぎるわ……
湊だってもう少し気が回るわよ
「千鶴の制服姿可愛いね!」
「伊織くんも感想言ってあげなよ」
私にそう言われて伊織くんが千鶴へ目を向けた
少しの間
伊織くんが千鶴を見つめる
千鶴は肩を縮めて目を伏せて右手を胸に当てた
か……かわいい……
ひょっとして千鶴もフェロモン的な何かを出してる?
女の私ですらちょっと感じるわ……
「似合ってるよ」
「ただ……」
「ただ?」
「スカートが短くないか?」
私は千鶴のスカートを見る
別に普通の長さだった
ってか私とほぼ同じだった
なんだかとんでもなくモヤっとした
だからつい言ってしまった
「それ……どういう意味?」
「な、なんでもないよ」
「ちょっと心配になっただけだよ」
さらにモヤっとした
「だから……」
「それってどういう意味?」
伊織くんが物凄く困った顔で私を見た
あれ……?
なんで私……
こんなムキになってるの
そこで千鶴がチラっと私のスカートを見る
それから伊織くんへ目を向けて
呆れたように言った
「普通の長さですよ」
「伊織ちゃんは昔から心配し過ぎです」
「それでは行きましょう」
千鶴にそう言われて
伊織くんは
なんとも言えない表情をしていた
なに……その顔
なんなの?……その顔は?
その顔は、どういう意味?
私は自分が伊織くんを睨みつけていたことに気付いた
伊織くんは困ったようにぎこちない笑顔を返してくる
あれ……?
私……やばくない?
自分の頬を両手で叩く
パチン!
伊織くんと千鶴が驚いて私の顔を見る
「早くいこう!」
「遅刻しちゃうよ!」
玄関を出て
私と伊織くんと千鶴の三人で並んで歩く
そこで私は気づくべきだった
この組み合わせが外からどう見えるのかを
駅へ向かう途中で
女子高生とすれ違うと振り返られた
「あれ?」
少し歩くと
今度は同じ学校の制服を着た女子がいた
「あ」
私たちを見て一瞬固まり
それからスマホを見て
ものすごい速さで操作し始めた
学校へ近づくと生徒が増える
当然、視線も増える
「九条くんだ」
「彼女さんの美緒ちゃんもいる」
あ……
もう彼女扱いされてる……
「あの子誰?」
「え、可愛くない?」
「うちの制服じゃん」
「見たことないね、転校生?」
「三人で登校してるよ?」
なんかざわざわしてきた
「美緒」
千鶴が小さな声で聞いてくる
「皆さんがこちらを見ていますが」
「そうね」
「伊織くんって人気があるのよ」
「こういうものだと思って諦めて」
学校で一番目立つ男の隣に
噂になりまくっている私
さらに知らない美少女まで加わっている
うん駄目だ目立つ
ものすごく目立つ
校門へ着く頃にはSNSでの共有が行き届き
ほぼ全員がこちらを見ていた
「来た!」
誰かの声がした
来たって何……
私たちは珍獣か……
「本当に三人だ!」
「写真の通りだ!」
「あの子、可愛すぎない?」
「二人目ってこと?」
まだ学校着いたばっかりなんだけど
スマホを見ると日向からメッセージが来ていた
『美緒~』
『朝から面白いことになってるね~』
その下に遠くから撮られた私たち三人の画像
いつ撮ったのよ……
電車内から学校の最寄り駅
そして校門までほぼ全ての流れが撮影されていた
「どんだけ撮られてんの!?」
「美緒さん、どうしたの?」
「見て!」
伊織くんにスマホを見せる
「もう拡散されてる!」
「これがSNS?」
「すごく早いね」
「早いねじゃない!」
千鶴が画面を覗き込む
「なるほど」
「これが」
「情報戦というものですか」
「千鶴が言ってるのって」
「なにかが違わない?」
「現代の忍びは皆さんスマートフォンを使うのですね」
「だから違うって!」
伊織くんが笑う
「千鶴」
「覚えない方がいいよ」
「これは僕たちには関係ない」
「承知しました」
今……関係ないって言った?
だから伊織くんって気にしてなかったの?
教室へ着いて私は席に座る
そしてホームルーム
「座れー」
担任の桐生先生が教室に入ってきた
いつもより教室がざわついている
理由は分かっている
朝から転校生の話で持ちきりだからだ
桐生先生が出席簿を机へ置いた
「もう知ってる人も多いと思いますが」
先生がちょっと疲れた顔をする
「今日から転校生が入ります」
教室が沸いた
「やっぱり!」
「朝いた子!?」
「九条君と一緒だった子!?」
「静かに!」
扉が開いて千鶴が入ってきた
男子が一斉に静かになった
分かりやすい
千鶴が教壇の横へ立つ
姿勢がいい
長い黒髪に整った顔
小柄で華奢な体つき
超可憐
中身を知ってる私でも
つい見惚れてしまう
「榊千鶴です」
綺麗な姿勢で頭を下げる
「まだ分からないことも多いですが」
「皆さんよろしくお願いいたします」
男子たちがざわついた
「かわい……」
「やば」
「めっちゃ可愛い」
「アイドルが来た」
そういえば
昨日の針金って何に使ったんだろう
制服に変わったところはないけど……
「榊さん!」
男子の一人が手を上げる
「彼氏いる!?」
「おりません」
男子が沸いた
「よっしゃ!」
何がよっしゃなのよ……
あんたじゃ無理よ……色々な意味で
一方の女子
特に伊織くんを好きな女子たちの反応は全然違った
「でも今朝、九条くんと一緒だったよね?」
「そうそう」
「あれ何?」
「高梨さんもいたけど」
「2号とかじゃないの?」
その子はそう言いながら私を睨んできた
「2号?」
千鶴が意味が分からないように問い返す
ってか……
1号は私のことよね……
だんだん敵意を向けられることに慣れてきたわ
人って環境に適応するのね……
歓迎する男子
警戒する女子
ものすごく分かりやすく二つに割れた
先生が座席表を見る
「榊さんの席は……」
「高梨の隣が空いてるな」
「はい」
千鶴がこっちへ歩いてくる
「美緒」
「近くの席で嬉しいです」
「これからよろしくお願いいたします」
「う、うん」
「よろしくね」
ざわっ
教室がさらにざわついた
「やっぱり知り合い!?」
「どういうことなの!?」
あ
まずい
また面倒なことになるやつだ
「静かに!」
先生の声が響いた
休み時間は予想通り
千鶴の机は一瞬で男子に囲まれた
あと女子も少し
「榊さんどこから来たの?」
「髪めっちゃ綺麗!」
「部活入る?」
「九条君とはどういう関係?」
最後の質問だけ女子からだった
千鶴は少し考える
「伊織ちゃんとは」
「幼い頃からの知り合いです」
女子たちの目が鋭くなる
「伊織ちゃん!?」
「幼なじみ!?」
「まあ」
「そのようなものですね」
空気が変わった
男子は関係なく盛り上がっている
女子は明らかに警戒を強めた
私は机に肘をついた
面倒くさい
ものすごく
面倒くさい
その時
「美緒~」
「おはよ~」
聞き慣れたのんびりした声がした
人だかりの向こうから日向が現れた
「おはよう、日向」
「この前はありがとう」
「詩織さん心配してなかった?」
「大丈夫だよ~」
「遅くなるって言ってあったから~」
千鶴が日向を見る
「あ」
「この前の」
日向はにこにこしながら千鶴の机の前まで来た
「この前は~」
「ちゃんとお話できなかったよね~」
「はい」
千鶴も立ち上がる
「あなたも」
「美緒と一緒に戦ってくださったのですよね」
頭を下げる
「榊千鶴です」
「その節はありがとうございました」
「水野日向~」
「どういたしまして~」
日向が笑いながら千鶴の顔をじーっと見つめる
「な、なんですか?」
「千鶴って呼んでもいい~?」
「もちろんです」
千鶴も少し考えてから言う
「それなら私も日向とお呼びします」
「うんうん~」
なんだ普通じゃん
日向も千鶴も普通に友達になれそう
そう思った次の瞬間
日向が言った
「千鶴ってさ~」
「お兄さんより美味しそうだよね~」
私は固まった
千鶴が小さく首を傾げる
「はて」
「私は食べ物ではありませんが」
そうよ
そこは正しい反応ね
というか
この二人がどんな会話するのか想像できない
ちょっと興味がわいてきたわ
千鶴が日向をじっと見てにこりと笑った
「初対面から思っていましたが」
「日向は少し変わっていますよね」
「そう~?」
「はい」
千鶴がとても穏やかな声で続ける
「なんだか」
「とても邪悪な感じがします」
ぶっ
私は吹き出しそうになった
言った!
初対面に近い相手に邪悪って言った!
ある意味さすがよ千鶴!
日向の目が少しだけ輝く
「え~」
「照れるな~」
照れだした!?
「でもさ~」
日向が嬉しそうに千鶴を見る
「なんか私たちって気が合うかも~」
「そうでしょうか?」
「うん~」
日向が笑う
「私も千鶴って~」
「邪悪な感じがするな~って思ってたんだ~」
「初めて会った気がしない~」
千鶴の目がほんの少し細くなった
でも口元は笑っている
「奇遇ですね」
「私もそう思っていたんです」
「ひょっとしたら」
「本当に気が合うのかもしれません」
「ね~」
「はい」
二人がにこにこ笑い合う
一見すごく仲が良さそう
なのになんだろう
私の背中を変な汗が流れた
違う……駄目だ
この二人
ある意味合いすぎてる
日向はほがらかに笑いながら
目を覆いたくなるような戦いをする子
千鶴は薄く笑いながら
人の顔に石を投げて隙あらば関節を壊そうとする子
なんとなく分かる……
たぶんこいつら
私が間にいないと何かの拍子に
笑顔のまま死闘を始めるわ
よし決めた
放っておいたら駄目だ
私は二人の間に割って入った
「ねえ!」
「ん~?」
「はい?」
二人が同時に私を見る
「せっかく」
「席も近くなったんだから!」
私はできるだけ明るく笑った
「三人で仲良くやろうよー!」
日向が嬉しそうに笑う
「いいね~」
千鶴もにこりと笑った
「はい」
「私も嬉しいです」
よし
「お昼も三人で食べようね!」
「ずっと三人でいよう!」
日向が少しだけ首を傾げる
「美緒~」
「今日どうしたの~?」
「え?」
「なんか積極的~」
「嬉しいな~」
千鶴も嬉しそうに頷いた
「美緒がそう言ってくださるなら」
「私は大歓迎ですよ」
「う、うん!」
これでいい
私は笑顔の二人を見る
「千鶴~」
「お昼が楽しみだね~」
「はい」
「日向は何がお好きなのですか?」
「ん~」
「私はね~」
普通に会話を始めた
私は二人の真ん中に自分の椅子を少し寄せた
決めた
私がこの二人を見張る
絶対に二人きりにはしない
友達として
根本的に間違ってる気もするけど仕方ない
だってこいつら
放っておいたら
絶対いつかやるわ
いつものように弟達を送り出してから
朝ごはんを食べて
学校へ行く準備をする
ただ今日はいつもと少し違った
「美緒」
「準備できました」
「うん」
玄関にはうちの学校の制服姿の千鶴が立っていた
忍び装束で天井に張り付いていた子が
今日は赤いチェック柄のスカートを履いて
胸元に同じ柄のリボンをつけている
黒く長い髪に透き通るような白い肌
そして小さな顔
もともと可愛いとは思っていたけど
こうして改めて
同じ制服を着ているところを見ると
なんというか
圧倒的に可憐で清楚な美少女に見える
正直……
隣に並んで歩きたくないくらい
とてもじゃないけど戦っている時の姿が想像できない
綺麗な花にはトゲがある
千鶴のためにある言葉なんじゃないかしら……
「似合ってるね」
「すごく可愛い」
「ありがとうございます」
千鶴が嬉しそうに笑う
「美緒と同じ学校へ通えるなんて楽しみです」
「うん、私も嬉しい」
「分からないことあったら聞いて」
「はい」
千鶴が庭の方を見る
「あの」
「美緒」
「なに?」
「洗濯物を干されたのですか?」
「うん」
「次からは」
「私にも声をかけてください」
「え?」
「私も」
「お手伝いしたかったです」
「でも」
「朝の六時だったよ?」
「それでもです」
千鶴が少しだけ不満そうな顔を私に向けた
「私もこの家で暮らすのですから」
「家事は手伝わせてください」
「分かった」
「次からは声をかけるね」
「はい」
千鶴が満足そうに笑った
伊織くんも靴を履きながら千鶴を見る
「本当に転校してくるとは思わなかったよ」
「兄も許可してくれましたので」
「宗一郎が?」
「はい、快く」
千鶴が微笑む
「好きにしろ、と」
ああ
そんなこと言ってたな
「それに」
千鶴が私と伊織くんを見る
「高梨家に住みながら」
「私だけ別の学校へ通うなんて寂しいです」
言われてみればそうだ
「そうだね」
「私も千鶴と一緒で嬉しいよ」
その時に私は気づいた
千鶴はチラチラと伊織くんを見ている
ああ……そりゃそうだよね
伊織くんが千鶴の制服姿に感想を言ってなかった
すると伊織くんから声をかけられた
「美緒さん」
「今日のお弁当のおかずってなに?」
は?
こんな美少女が新品の制服着てるのにお弁当のおかず?
無神経すぎるわ……
湊だってもう少し気が回るわよ
「千鶴の制服姿可愛いね!」
「伊織くんも感想言ってあげなよ」
私にそう言われて伊織くんが千鶴へ目を向けた
少しの間
伊織くんが千鶴を見つめる
千鶴は肩を縮めて目を伏せて右手を胸に当てた
か……かわいい……
ひょっとして千鶴もフェロモン的な何かを出してる?
女の私ですらちょっと感じるわ……
「似合ってるよ」
「ただ……」
「ただ?」
「スカートが短くないか?」
私は千鶴のスカートを見る
別に普通の長さだった
ってか私とほぼ同じだった
なんだかとんでもなくモヤっとした
だからつい言ってしまった
「それ……どういう意味?」
「な、なんでもないよ」
「ちょっと心配になっただけだよ」
さらにモヤっとした
「だから……」
「それってどういう意味?」
伊織くんが物凄く困った顔で私を見た
あれ……?
なんで私……
こんなムキになってるの
そこで千鶴がチラっと私のスカートを見る
それから伊織くんへ目を向けて
呆れたように言った
「普通の長さですよ」
「伊織ちゃんは昔から心配し過ぎです」
「それでは行きましょう」
千鶴にそう言われて
伊織くんは
なんとも言えない表情をしていた
なに……その顔
なんなの?……その顔は?
その顔は、どういう意味?
私は自分が伊織くんを睨みつけていたことに気付いた
伊織くんは困ったようにぎこちない笑顔を返してくる
あれ……?
私……やばくない?
自分の頬を両手で叩く
パチン!
伊織くんと千鶴が驚いて私の顔を見る
「早くいこう!」
「遅刻しちゃうよ!」
玄関を出て
私と伊織くんと千鶴の三人で並んで歩く
そこで私は気づくべきだった
この組み合わせが外からどう見えるのかを
駅へ向かう途中で
女子高生とすれ違うと振り返られた
「あれ?」
少し歩くと
今度は同じ学校の制服を着た女子がいた
「あ」
私たちを見て一瞬固まり
それからスマホを見て
ものすごい速さで操作し始めた
学校へ近づくと生徒が増える
当然、視線も増える
「九条くんだ」
「彼女さんの美緒ちゃんもいる」
あ……
もう彼女扱いされてる……
「あの子誰?」
「え、可愛くない?」
「うちの制服じゃん」
「見たことないね、転校生?」
「三人で登校してるよ?」
なんかざわざわしてきた
「美緒」
千鶴が小さな声で聞いてくる
「皆さんがこちらを見ていますが」
「そうね」
「伊織くんって人気があるのよ」
「こういうものだと思って諦めて」
学校で一番目立つ男の隣に
噂になりまくっている私
さらに知らない美少女まで加わっている
うん駄目だ目立つ
ものすごく目立つ
校門へ着く頃にはSNSでの共有が行き届き
ほぼ全員がこちらを見ていた
「来た!」
誰かの声がした
来たって何……
私たちは珍獣か……
「本当に三人だ!」
「写真の通りだ!」
「あの子、可愛すぎない?」
「二人目ってこと?」
まだ学校着いたばっかりなんだけど
スマホを見ると日向からメッセージが来ていた
『美緒~』
『朝から面白いことになってるね~』
その下に遠くから撮られた私たち三人の画像
いつ撮ったのよ……
電車内から学校の最寄り駅
そして校門までほぼ全ての流れが撮影されていた
「どんだけ撮られてんの!?」
「美緒さん、どうしたの?」
「見て!」
伊織くんにスマホを見せる
「もう拡散されてる!」
「これがSNS?」
「すごく早いね」
「早いねじゃない!」
千鶴が画面を覗き込む
「なるほど」
「これが」
「情報戦というものですか」
「千鶴が言ってるのって」
「なにかが違わない?」
「現代の忍びは皆さんスマートフォンを使うのですね」
「だから違うって!」
伊織くんが笑う
「千鶴」
「覚えない方がいいよ」
「これは僕たちには関係ない」
「承知しました」
今……関係ないって言った?
だから伊織くんって気にしてなかったの?
教室へ着いて私は席に座る
そしてホームルーム
「座れー」
担任の桐生先生が教室に入ってきた
いつもより教室がざわついている
理由は分かっている
朝から転校生の話で持ちきりだからだ
桐生先生が出席簿を机へ置いた
「もう知ってる人も多いと思いますが」
先生がちょっと疲れた顔をする
「今日から転校生が入ります」
教室が沸いた
「やっぱり!」
「朝いた子!?」
「九条君と一緒だった子!?」
「静かに!」
扉が開いて千鶴が入ってきた
男子が一斉に静かになった
分かりやすい
千鶴が教壇の横へ立つ
姿勢がいい
長い黒髪に整った顔
小柄で華奢な体つき
超可憐
中身を知ってる私でも
つい見惚れてしまう
「榊千鶴です」
綺麗な姿勢で頭を下げる
「まだ分からないことも多いですが」
「皆さんよろしくお願いいたします」
男子たちがざわついた
「かわい……」
「やば」
「めっちゃ可愛い」
「アイドルが来た」
そういえば
昨日の針金って何に使ったんだろう
制服に変わったところはないけど……
「榊さん!」
男子の一人が手を上げる
「彼氏いる!?」
「おりません」
男子が沸いた
「よっしゃ!」
何がよっしゃなのよ……
あんたじゃ無理よ……色々な意味で
一方の女子
特に伊織くんを好きな女子たちの反応は全然違った
「でも今朝、九条くんと一緒だったよね?」
「そうそう」
「あれ何?」
「高梨さんもいたけど」
「2号とかじゃないの?」
その子はそう言いながら私を睨んできた
「2号?」
千鶴が意味が分からないように問い返す
ってか……
1号は私のことよね……
だんだん敵意を向けられることに慣れてきたわ
人って環境に適応するのね……
歓迎する男子
警戒する女子
ものすごく分かりやすく二つに割れた
先生が座席表を見る
「榊さんの席は……」
「高梨の隣が空いてるな」
「はい」
千鶴がこっちへ歩いてくる
「美緒」
「近くの席で嬉しいです」
「これからよろしくお願いいたします」
「う、うん」
「よろしくね」
ざわっ
教室がさらにざわついた
「やっぱり知り合い!?」
「どういうことなの!?」
あ
まずい
また面倒なことになるやつだ
「静かに!」
先生の声が響いた
休み時間は予想通り
千鶴の机は一瞬で男子に囲まれた
あと女子も少し
「榊さんどこから来たの?」
「髪めっちゃ綺麗!」
「部活入る?」
「九条君とはどういう関係?」
最後の質問だけ女子からだった
千鶴は少し考える
「伊織ちゃんとは」
「幼い頃からの知り合いです」
女子たちの目が鋭くなる
「伊織ちゃん!?」
「幼なじみ!?」
「まあ」
「そのようなものですね」
空気が変わった
男子は関係なく盛り上がっている
女子は明らかに警戒を強めた
私は机に肘をついた
面倒くさい
ものすごく
面倒くさい
その時
「美緒~」
「おはよ~」
聞き慣れたのんびりした声がした
人だかりの向こうから日向が現れた
「おはよう、日向」
「この前はありがとう」
「詩織さん心配してなかった?」
「大丈夫だよ~」
「遅くなるって言ってあったから~」
千鶴が日向を見る
「あ」
「この前の」
日向はにこにこしながら千鶴の机の前まで来た
「この前は~」
「ちゃんとお話できなかったよね~」
「はい」
千鶴も立ち上がる
「あなたも」
「美緒と一緒に戦ってくださったのですよね」
頭を下げる
「榊千鶴です」
「その節はありがとうございました」
「水野日向~」
「どういたしまして~」
日向が笑いながら千鶴の顔をじーっと見つめる
「な、なんですか?」
「千鶴って呼んでもいい~?」
「もちろんです」
千鶴も少し考えてから言う
「それなら私も日向とお呼びします」
「うんうん~」
なんだ普通じゃん
日向も千鶴も普通に友達になれそう
そう思った次の瞬間
日向が言った
「千鶴ってさ~」
「お兄さんより美味しそうだよね~」
私は固まった
千鶴が小さく首を傾げる
「はて」
「私は食べ物ではありませんが」
そうよ
そこは正しい反応ね
というか
この二人がどんな会話するのか想像できない
ちょっと興味がわいてきたわ
千鶴が日向をじっと見てにこりと笑った
「初対面から思っていましたが」
「日向は少し変わっていますよね」
「そう~?」
「はい」
千鶴がとても穏やかな声で続ける
「なんだか」
「とても邪悪な感じがします」
ぶっ
私は吹き出しそうになった
言った!
初対面に近い相手に邪悪って言った!
ある意味さすがよ千鶴!
日向の目が少しだけ輝く
「え~」
「照れるな~」
照れだした!?
「でもさ~」
日向が嬉しそうに千鶴を見る
「なんか私たちって気が合うかも~」
「そうでしょうか?」
「うん~」
日向が笑う
「私も千鶴って~」
「邪悪な感じがするな~って思ってたんだ~」
「初めて会った気がしない~」
千鶴の目がほんの少し細くなった
でも口元は笑っている
「奇遇ですね」
「私もそう思っていたんです」
「ひょっとしたら」
「本当に気が合うのかもしれません」
「ね~」
「はい」
二人がにこにこ笑い合う
一見すごく仲が良さそう
なのになんだろう
私の背中を変な汗が流れた
違う……駄目だ
この二人
ある意味合いすぎてる
日向はほがらかに笑いながら
目を覆いたくなるような戦いをする子
千鶴は薄く笑いながら
人の顔に石を投げて隙あらば関節を壊そうとする子
なんとなく分かる……
たぶんこいつら
私が間にいないと何かの拍子に
笑顔のまま死闘を始めるわ
よし決めた
放っておいたら駄目だ
私は二人の間に割って入った
「ねえ!」
「ん~?」
「はい?」
二人が同時に私を見る
「せっかく」
「席も近くなったんだから!」
私はできるだけ明るく笑った
「三人で仲良くやろうよー!」
日向が嬉しそうに笑う
「いいね~」
千鶴もにこりと笑った
「はい」
「私も嬉しいです」
よし
「お昼も三人で食べようね!」
「ずっと三人でいよう!」
日向が少しだけ首を傾げる
「美緒~」
「今日どうしたの~?」
「え?」
「なんか積極的~」
「嬉しいな~」
千鶴も嬉しそうに頷いた
「美緒がそう言ってくださるなら」
「私は大歓迎ですよ」
「う、うん!」
これでいい
私は笑顔の二人を見る
「千鶴~」
「お昼が楽しみだね~」
「はい」
「日向は何がお好きなのですか?」
「ん~」
「私はね~」
普通に会話を始めた
私は二人の真ん中に自分の椅子を少し寄せた
決めた
私がこの二人を見張る
絶対に二人きりにはしない
友達として
根本的に間違ってる気もするけど仕方ない
だってこいつら
放っておいたら
絶対いつかやるわ


