宗一郎さんの目が細くなる
「認めん」
千鶴も兄をまっすぐに見る
「だったら」
一歩、部屋へ入った
「私が認めさせます」
「なに?」
「私が自分の身を守れることを」
「お兄様に証明いたします!」
千鶴が私たちを見る
「美緒」
「それからそちらの怖いお二方」
「ここからは私にやらせてください」
「え?」
「でも」
千鶴が私を見る
「迎えに来てくれたんですよね?」
「う、うん」
「ありがとうございます」
その顔を見たら何も言えなくなった
私は一歩下がる
日向も肩をすくめる
「しょうがないかな~」
「どうぞ~」
先生も構えを解いた
「好きにしなさい」
宗一郎さんが千鶴を見る
「本気か?」
「もちろんです」
「お前が俺に勝てると?」
「やってみなければ分かりません」
宗一郎さんが構える
「お前の技は全て知っている」
千鶴も腰を落とした
「そうですね」
「でもそれは私もですよ」
二人が動いた
速い
宗一郎さんの右拳を千鶴がかわす
その拳から寸鉄が覗いた
一度拳を止めて下へ振り下ろす
知っていたように千鶴は体を引いて避けた
宗一郎さんが離れて暗器を投げた
千鶴は体を傾けてその横を通り過ぎた
すぐに宗一郎さんの顔に向けて石が飛ばされる
それを右腕で払い落とす
「すご……」
日向が小さく呟く
「お互いに全部知ってるんだ」
千鶴も宗一郎さんもお互いに何をするのか全部知っている
きっと、ずっと昔から一緒に稽古してきたんだ……
宗一郎さんが右手で砂を掴む
千鶴は先に袖で顔を覆う
砂が舞う
宗一郎さんが横へ回る
でも千鶴はもうそちらを見ていた
千鶴が宗一郎さんの右腕へ絡みつく
関節を壊そうとする
宗一郎さんが分かっていたように腕を引く
互角……?
いや
少しずつ千鶴が押されている
宗一郎さんの方が体が大きい
力も経験もある
「千鶴!」
宗一郎さんの右拳が腹へ入る
「っ!」
千鶴が後ろへ下がる
宗一郎さんが追う
「終わりだ!」
振り下ろされた拳を千鶴がかわす
そのまま千鶴が懐へ入った
「甘い!」
宗一郎さんが右手で千鶴の腕を掴む
「お前の動きは全部知っている!」
千鶴の動きが止められた
「俺に勝てると思ったか」
「ええ」
「勝ちます!」
その瞬間
私は違和感に気づいた
千鶴の構え
え?
よく知っている構え
千鶴が宗一郎さんの右手を振りほどく
深く踏み込んで両手を引く
まさか
宗一郎さんの目が見開かれる
私は叫んだ
「うそおお!?」
まぎれもない
それは私の両手掌
ドンッ!!
鈍い音が部屋に響いた
千鶴が放った両手掌はそのまま宗一郎さんの胸へ入る
宗一郎さんの体が浮いた
「がっ!」
後ろへ飛んで畳を転がり
柱の手前でようやく止まった
静かになった
私は口を開けたまま千鶴を見る
千鶴は両手を前へ出したまま
大きく息を吐いた
すると千鶴が眉をひそめて手を振った
「痛っ」
両手をぶらぶらさせる
「凄い衝撃……」
「とても何発も撃てません」
「やっぱり美緒は凄いですね」
「いやいやいや!」
私は駆け寄る
「いつ覚えたの!?」
千鶴が私を見る
「あなたに撃ち込まれた日から」
「ずっと練習していたんです」
「勝手に!?」
「技は見て盗むものでしょう?」
「そういうものなの!?」
「そういうものです」
宗一郎さんがゆっくり体を起こした
苦しそうに胸を押さえている
千鶴が振り返った
「お兄様」
宗一郎さんが千鶴を見る
「私の技は」
「全部知っていると言いましたよね」
千鶴が私をちらっと見る
「でも」
「これは知らなかったでしょう?」
宗一郎さんは何も言わなかった
千鶴が一歩前へ出る
「私は榊家の人間です」
「でも榊家だけで生きているわけではありません」
「外に出れば新しい人とも出会います」
「友達もできます」
「知らないことだって覚えられます」
「私は、もっと強くなれます」
「お兄様に守ってもらわなくても大丈夫です」
宗一郎さんが俯く
「だから」
「私は高梨家へ帰ります」
しばらく宗一郎さんは黙っていた
そして小さく息を吐く
「好きにしろ」
千鶴の目が少しだけ大きくなる
宗一郎さんが顔を伏せたまま続けた
「ただ」
「必要になれば榊を使え」
「いえ……私は――」
「必要ならなんでも使う」
「それが榊だ」
千鶴がしばらく兄を見る
「……分かりました」
「必要になった時は」
「そうします」
宗一郎さんが少し苦い顔をする
それから桐生先生へ顔を向けた
「桐生玲奈殿」
桐生先生は名前を呼ばれて少し驚いた顔をした
「な、なによ」
宗一郎さんがゆっくりと頭を下げた
「非礼を詫びる」
「その技は見事だった」
「情けを掛けられなければ俺は……」
「それから」
「お父上を侮辱したことを謝罪します」
先生はしばらく宗一郎さんを見ていた
「……そう」
「ならいいわ」
「それに」
先生が小さく息を吐く
「殺し合いだったら」
「あなたも」
「こんなものじゃないんでしょ」
そして少しだけ口元を緩めた
「素直に反省できる男って」
「強いと思うわ」
「素敵よ」
「それは……」
宗一郎さんが少し困った顔をする
「あなたに言われるのは」
「光栄だな……」
日向が楽しそうな笑顔で私の横へ来た
「美緒~」
「友達に技盗まれてたよ~」
「そうなのよ!」
「しかも結構うまかったね~」
「そこなのよ!」
「簡単にできちゃうなんてショックなんだけど」
千鶴が振り返る
「美緒」
「少し教えてください」
「どうやって連打しているんですか?」
「嫌よ!」
「千鶴に教えたら出来ちゃいそうじゃない」
「けちですね」
「勝手に盗んだ人が言う!?」
ふと伊織くんを見た
ずっと同じ場所に座っている
私たちが宗一郎さんと戦っている時も
千鶴が兄と向き合っている時も
一度も慌てることなく静かに見守っていた
私は伊織くんのところまで戻る
すると伊織くんが立ち上がった
そしていつもの優しい顔で笑った
「おかえり」
その一言でなんとなく分かった
伊織くんは何もしなかったんじゃない
ずっと私たちなら大丈夫だって
信じて待っていてくれたんだ
胸の奥が少しだけ温かくなる
「ただいま」
私も笑った
千鶴が忍び装束のまま駆け寄ってくる
「高梨家へ帰りましょう」
「その格好で?」
「だめですか?」
「美緒の道着も人のこと言えないと思いますけど」
「職務質問とかされそうじゃない?」
「その時は」
「伊織ちゃんの趣味で着ていますって言いましょう」
「いや……」
「それはちょっとやめてほしいかな」
伊織くんと千鶴が笑った
私もなんだか笑ってしまった
こうして千鶴は
自分の力で
榊家の門を出ることになった
「認めん」
千鶴も兄をまっすぐに見る
「だったら」
一歩、部屋へ入った
「私が認めさせます」
「なに?」
「私が自分の身を守れることを」
「お兄様に証明いたします!」
千鶴が私たちを見る
「美緒」
「それからそちらの怖いお二方」
「ここからは私にやらせてください」
「え?」
「でも」
千鶴が私を見る
「迎えに来てくれたんですよね?」
「う、うん」
「ありがとうございます」
その顔を見たら何も言えなくなった
私は一歩下がる
日向も肩をすくめる
「しょうがないかな~」
「どうぞ~」
先生も構えを解いた
「好きにしなさい」
宗一郎さんが千鶴を見る
「本気か?」
「もちろんです」
「お前が俺に勝てると?」
「やってみなければ分かりません」
宗一郎さんが構える
「お前の技は全て知っている」
千鶴も腰を落とした
「そうですね」
「でもそれは私もですよ」
二人が動いた
速い
宗一郎さんの右拳を千鶴がかわす
その拳から寸鉄が覗いた
一度拳を止めて下へ振り下ろす
知っていたように千鶴は体を引いて避けた
宗一郎さんが離れて暗器を投げた
千鶴は体を傾けてその横を通り過ぎた
すぐに宗一郎さんの顔に向けて石が飛ばされる
それを右腕で払い落とす
「すご……」
日向が小さく呟く
「お互いに全部知ってるんだ」
千鶴も宗一郎さんもお互いに何をするのか全部知っている
きっと、ずっと昔から一緒に稽古してきたんだ……
宗一郎さんが右手で砂を掴む
千鶴は先に袖で顔を覆う
砂が舞う
宗一郎さんが横へ回る
でも千鶴はもうそちらを見ていた
千鶴が宗一郎さんの右腕へ絡みつく
関節を壊そうとする
宗一郎さんが分かっていたように腕を引く
互角……?
いや
少しずつ千鶴が押されている
宗一郎さんの方が体が大きい
力も経験もある
「千鶴!」
宗一郎さんの右拳が腹へ入る
「っ!」
千鶴が後ろへ下がる
宗一郎さんが追う
「終わりだ!」
振り下ろされた拳を千鶴がかわす
そのまま千鶴が懐へ入った
「甘い!」
宗一郎さんが右手で千鶴の腕を掴む
「お前の動きは全部知っている!」
千鶴の動きが止められた
「俺に勝てると思ったか」
「ええ」
「勝ちます!」
その瞬間
私は違和感に気づいた
千鶴の構え
え?
よく知っている構え
千鶴が宗一郎さんの右手を振りほどく
深く踏み込んで両手を引く
まさか
宗一郎さんの目が見開かれる
私は叫んだ
「うそおお!?」
まぎれもない
それは私の両手掌
ドンッ!!
鈍い音が部屋に響いた
千鶴が放った両手掌はそのまま宗一郎さんの胸へ入る
宗一郎さんの体が浮いた
「がっ!」
後ろへ飛んで畳を転がり
柱の手前でようやく止まった
静かになった
私は口を開けたまま千鶴を見る
千鶴は両手を前へ出したまま
大きく息を吐いた
すると千鶴が眉をひそめて手を振った
「痛っ」
両手をぶらぶらさせる
「凄い衝撃……」
「とても何発も撃てません」
「やっぱり美緒は凄いですね」
「いやいやいや!」
私は駆け寄る
「いつ覚えたの!?」
千鶴が私を見る
「あなたに撃ち込まれた日から」
「ずっと練習していたんです」
「勝手に!?」
「技は見て盗むものでしょう?」
「そういうものなの!?」
「そういうものです」
宗一郎さんがゆっくり体を起こした
苦しそうに胸を押さえている
千鶴が振り返った
「お兄様」
宗一郎さんが千鶴を見る
「私の技は」
「全部知っていると言いましたよね」
千鶴が私をちらっと見る
「でも」
「これは知らなかったでしょう?」
宗一郎さんは何も言わなかった
千鶴が一歩前へ出る
「私は榊家の人間です」
「でも榊家だけで生きているわけではありません」
「外に出れば新しい人とも出会います」
「友達もできます」
「知らないことだって覚えられます」
「私は、もっと強くなれます」
「お兄様に守ってもらわなくても大丈夫です」
宗一郎さんが俯く
「だから」
「私は高梨家へ帰ります」
しばらく宗一郎さんは黙っていた
そして小さく息を吐く
「好きにしろ」
千鶴の目が少しだけ大きくなる
宗一郎さんが顔を伏せたまま続けた
「ただ」
「必要になれば榊を使え」
「いえ……私は――」
「必要ならなんでも使う」
「それが榊だ」
千鶴がしばらく兄を見る
「……分かりました」
「必要になった時は」
「そうします」
宗一郎さんが少し苦い顔をする
それから桐生先生へ顔を向けた
「桐生玲奈殿」
桐生先生は名前を呼ばれて少し驚いた顔をした
「な、なによ」
宗一郎さんがゆっくりと頭を下げた
「非礼を詫びる」
「その技は見事だった」
「情けを掛けられなければ俺は……」
「それから」
「お父上を侮辱したことを謝罪します」
先生はしばらく宗一郎さんを見ていた
「……そう」
「ならいいわ」
「それに」
先生が小さく息を吐く
「殺し合いだったら」
「あなたも」
「こんなものじゃないんでしょ」
そして少しだけ口元を緩めた
「素直に反省できる男って」
「強いと思うわ」
「素敵よ」
「それは……」
宗一郎さんが少し困った顔をする
「あなたに言われるのは」
「光栄だな……」
日向が楽しそうな笑顔で私の横へ来た
「美緒~」
「友達に技盗まれてたよ~」
「そうなのよ!」
「しかも結構うまかったね~」
「そこなのよ!」
「簡単にできちゃうなんてショックなんだけど」
千鶴が振り返る
「美緒」
「少し教えてください」
「どうやって連打しているんですか?」
「嫌よ!」
「千鶴に教えたら出来ちゃいそうじゃない」
「けちですね」
「勝手に盗んだ人が言う!?」
ふと伊織くんを見た
ずっと同じ場所に座っている
私たちが宗一郎さんと戦っている時も
千鶴が兄と向き合っている時も
一度も慌てることなく静かに見守っていた
私は伊織くんのところまで戻る
すると伊織くんが立ち上がった
そしていつもの優しい顔で笑った
「おかえり」
その一言でなんとなく分かった
伊織くんは何もしなかったんじゃない
ずっと私たちなら大丈夫だって
信じて待っていてくれたんだ
胸の奥が少しだけ温かくなる
「ただいま」
私も笑った
千鶴が忍び装束のまま駆け寄ってくる
「高梨家へ帰りましょう」
「その格好で?」
「だめですか?」
「美緒の道着も人のこと言えないと思いますけど」
「職務質問とかされそうじゃない?」
「その時は」
「伊織ちゃんの趣味で着ていますって言いましょう」
「いや……」
「それはちょっとやめてほしいかな」
伊織くんと千鶴が笑った
私もなんだか笑ってしまった
こうして千鶴は
自分の力で
榊家の門を出ることになった


