いまさら家に男が一人増えたところで構いません!

宗一郎さんが動いた

「たしかに……侮っていたようだ」
「榊家当主代理、榊宗一郎」
「参る!」

一気に私へ踏み込んでくる

速い!

右の拳が突き出された

私は腕を上げてそれを受ける

重い

だけど今度は飛ばされない

足を踏ん張って耐えた

その横から日向が飛び込む

「よいしょ~」

体を回しながら右の蹴りが飛ぶ

宗一郎さんが体をひねってかわした

バチン!

空中で日向の蹴りからムチのような音が響いた

避けた宗一郎さんが音と衝撃に驚いて顔を歪めた

その瞬間に先生が飛び込んだ

「っ!」

ビリッ!

先生の指先が宗一郎さんの袖を引き裂く

それだけじゃない

宗一郎さんの左腕が切られて血が飛んだ

「ちっ……!」

宗一郎さんが先生へ視線を向ける

今だ!

私は踏み込んだ

「ちぇりゃあああ!!」

両手を宗一郎さんの腹へ突き出す

宗一郎さんが反応して左腕を腹の前へ入れる

ドンッ!!

両手掌が宗一郎さんの左腕ごと腹へめり込んだ

「ぐっ……!」

宗一郎さんの体が大きく後ろへずれる

それでも倒れない

でも左腕を押さえて顔が歪む

「ぐ……!」

そのまま片膝が畳へ落ちた

私は構えたまま見る

日向

先生

そして私

三方向からもう一度距離を詰める

宗一郎さんが顔を上げた

左腕はだらりと下がったまま動かない

ダメージも受けている

日向が楽しそうに笑う

「もう一回いく~?」

先生も指を開いた

「今度は外さないわよ」

私も腰を落とす

宗一郎さんが三人を順番に見た

そしてゆっくり立ち上がる

「なるほど……素手では」

宗一郎さんが懐へ手を入れた

「少々分が悪いな」

手の中で何かが光った

「美緒!」

日向の声

私は反射的に体を引く

シュッ!

目の前を銀色のものが通り過ぎた

「なに!?」

宗一郎さんが短い鉄の棒のようなものを握っている

先生の目が細くなる

「寸鉄……」
「そんなものまで使うの?」

宗一郎さんが笑った

さっきまでとは違う笑い方だった

「榊を何だと思っている」

宗一郎さんが右腕を振る

シュシュッ!

何かが飛んでくる

「うわっ!」

私は横へ跳ぶ

畳に細い棒のようなものが突き刺さった

日向も体をひねる

先生は一歩だけ動いて避けた

「武器まであり~?」

日向が笑う

宗一郎さんが日向へ踏み込んだ

右手の寸鉄が走る

日向が首を傾けるようにかわした

そのまま腕を掴もうとする

でも宗一郎さんが右手で羽織を払った

ばさっ!

脱いだ羽織が日向の顔を覆う

「わっ」

日向の視界が塞がれた

「日向!」

私が踏み込むと宗一郎さんが私を見た

その手が懐へ入った

嫌な予感

私は腕で顔を覆う

ぱっ!

細かいものがぶつかった

「砂!?」

砂を腕で払いのけて宗一郎さんを探す

どこ!?

「上よ!」

先生の声

すぐに上を見上げた

「は!?」

天井近くの梁に宗一郎さんがいた

梁の上へ身を伏せ

気配を殺すようにこちらを見下ろしている

なんなのよこの人!?

宗一郎さんが落ちてくる

そう思って身構えた

一秒

二秒

「え?」

来ない

次の瞬間に宗一郎さんが落ちた

遅い!

タイミングをずらされた

私の反応が一瞬遅れる

ドンッ!

肩に蹴りが入った

「くっ!」

私は両腕で防いだが勢いで飛ばされて畳を転がる

宗一郎さんは着地すると

すぐに先生へ向かう

先生が指を開いて身構える

すると宗一郎さんが先生の手前で屈み

右手を畳の隙間へ入れた

バンッ!

畳が跳ね上がった

私は目を見開いた

「ちょっ!」
「漫画で見たことあるやつ!?」

畳一枚が壁のように立つ

その時、甲高い声が響いた

「きえええぇぇぇい!!」

先生の声!?

バリッ!!

畳が縦に真っ二つに裂けた

「なっ!?」

その裂け目を抜けるように

桐生先生が一気に踏み込んだ

宗一郎さんの右腕を取って体を崩す

割れた畳が二人の姿を隠した

一瞬

二人の姿が見えなくなる

畳が倒れた時

桐生先生の指先が

宗一郎さんの喉元から離れるところだった

「殺し合いじゃないから」

次の瞬間

シュッ!

暗器が飛ぶ

先生が身を沈める

暗器が壁へ突き刺さった

先生はすぐに立ち上がる

「本当に」
「何でもありね」

宗一郎さんが先生を見る

右手で喉元へ一度触れ

先生をまっすぐに見据えた

「戦いとは」
「最後まで立っていた者が勝ちだ」

強い

というか

やりづらい!

正面からなら三人で押せる

でも暗器に砂、羽織、畳、天井

その場にあるものを全部使ってくる

戦い方そのものが読めない

ふと部屋の端を見る

伊織くんは最初に座った場所から動いていなかった

静かにこっちを見ている

慌ててもいない

止めようともしない

ただ私たちを見ている

「美緒~」

日向の声で我に返る

「これ大変だね~」

「日向が泣き言なんて珍しいね」

「え~」
「美緒のために言ってあげたのに~」

先生が指を開いて宗一郎さんを見る

「でも」
「そろそろ慣れたでしょ!?」

日向も笑う

「もちろん~」

二人が左右へ広がる

私も正面へ出る

宗一郎さんの目が細くなった

その瞬間

周囲の空気が一段重くなる

「行くよ!」

私たち三人が踏み込む

宗一郎さんが暗器を投げた

来る!

今度は見える

体を沈めて頭の上を暗器が通った

私はそのまま懐へ入って両手掌を放つ

宗一郎さんが右腕を差し込み

軌道を外そうとする

ドンッ!

「ぐっ!」

受け流しきれず腹部に入ったが

当たりは浅い

それでも宗一郎さんの体勢が崩れた

つづいて横から日向

宗一郎さんが何か黒い球を幾つも投げつけた

すぐに日向はそれを横に躱した

パンパンパンパン

球は火花を散らしながら破裂した

桐生先生が低い姿勢で迫る

「っ!」

先生の指が肩をかすめる

袖が裂け

その下の肩にも傷が走って血が飛んだ

宗一郎さんの息が荒い

日向がふと足元を見た

さっき宗一郎さんが跳ね上げた畳

その端

日向がしゃがみ込んだ

「ちょっと借りるね~」

畳の縁を掴む

びりっ

長い布を引き剥がした

「え?」

日向はそれを手の中で確かめるように握る

そしてにやっと笑った

「ねえ~」

宗一郎さんが日向を見る

「女子供と武器だったら」
「ハンデはちゃらだよね~?」

宗一郎さんの眉が動く

「だったらさ~」

日向が畳の縁をだらりと垂らした

「私も使っていいよね~」

日向の腕から力が抜ける

宗一郎さんが警戒して構えた

日向の腕が走る

畳の縁が本物の鞭のように大きくしなる

バシィッ!!

「ぐあっ!」

宗一郎さんの脇腹を

強烈に打ち据えた

畳の縁が服ごと皮膚を引き裂き

傷の周囲が赤く盛り上がる

痛みに宗一郎さんの体が前へよろめいた

日向が手元を見る

「おお~」
「これいいね~」

「日向……」

「なに~?」

「楽しんでるでしょ」

「ちょっとだけ~」

ぱしん

日向が畳の縁を床へ鳴らした

宗一郎さんがゆっくり振り返った

その顔はまだ痛みに歪んでいた

「当主さま~」
「水野の技は痛いでしょ~?」

宗一郎さんが歯を食いしばる

懐へ手を入れた

また暗器!

私は身構えた

その時

カンッ!

乾いた音

そして畳の上に石が転がる

宗一郎さんの手から小さな刃物が弾き落とされた

「なっ!?」

宗一郎さんが横を見た

私たちもそちらを見る

障子が開いていた

その向こうに黒い人影

全身を黒い布で包み髪を後ろで束ねている

顔だけが見える

「お兄様」

聞き覚えのある声

「何をしているんですか?」

「千鶴!?」

私は思わず叫んだ

千鶴が忍び装束を纏ってそこに立っていた

「その格好なに!?」

千鶴が私を見る

「逃げるところだったんです」

「逃げるところだった!?」

「はい」
「ようやく体が本調子に戻りましたので」

千鶴が部屋の中を見る

ひっくり返った畳

壁に刺さった暗器

散らばった砂

破れた服

血のついた宗一郎さん

そして構えている私たち三人

千鶴が少し眉を寄せた

「逃げる途中で騒がしいと思ったら」
「何をしているんですか?」

「いや!」
「こっちの台詞なんだけど!」

千鶴が小さく笑った

それから宗一郎さんを見る

「お兄様」

宗一郎さんの顔が険しくなる

「千鶴」
「部屋へ戻りなさい」

「嫌です」

即答だった

「私は高梨家へ帰ります」