その後の授業も終わり
ようやく放課後になった
私は自分の席で教科書を鞄へ入れていた
今日は長い長い一日だった……
朝から伊織くんと登校して
学校中で噂になって
昼休みに日向と桐生先生の死闘を見せられ
午後は伊織くんに触れるたび
変な電気みたいなのが走って
もうめちゃくちゃだ
私は机の中にある教科書やノートを
片っ端から鞄へ入れていく
今日は全部持って帰る
朝からの騒ぎを考えたら
学校に私物なんて残しておきたくない
ただで済む気がしない
ぱんぱんになっていく鞄を見ながら
私は考える
やっぱり今日は道場へ行こう
ちゃんと稽古して汗かいて
頭の中を空っぽにして
このおかしくなった私を元に戻す
うん、それがいい
「美緒~」
「ん?」
日向が机の横までやってきた
私の鞄を見る
「今日は荷物多いね~」
「ちょっとね」
「ふ~ん」
日向はそれ以上聞かなかった
「一緒に帰ろ~」
「あれ?」
私は顔を上げる
「日向」
「部活は?」
「辞めてきた~」
「早っ!」
「だって~」
日向がにこにこ笑う
「もう」
「いれないでしょ~」
確かに
昼休みに先輩全員投げ飛ばして
顧問と本気で戦った人が
そのまま合気道部に残ってる方が
おかしいかもしれない
「じゃあ――」
そう言いかけた時だった
廊下の空気が変わった
ざわ……
ん?
ざわざわ……
女子たちの視線が一斉に集まっていく
この感じ……
絶対そうだ
来る!
伊織くんが来る!
私は逃がさないように日向の腕をつかんだ
「日向!」
「ん~?」
「今日!」
「うちで一緒に勉強しない!?」
「勉強~?」
日向が不思議そうに首を傾げた
「そう!」
「宿題とか!」
「予習とか!」
「二人でやった方が捗るでしょう!?」
そうすれば帰り道は日向も一緒だ
二人きりにならなくて済む
完璧!
「え~」
日向が少し考える
「美緒の家か~」
「そう!」
「来るでしょ!?」
「いいよ~」
よし!
「そういえば~」
日向がにこっと笑った
「あの美味しそうな弟くんも~」
「家にいるの~?」
「は?」
私は固まった
「湊のこと?」
「うん~」
日向が嬉しそうに頷く
「そろそろ~」
「一緒に遊べるかも~」
「遊ぶって」
「どんな意味!?」
「どうだろ~?」
「そもそも」
「湊に何するつもり!?」
日向は自分の肩をぐるぐる回した
「でも今日は~」
「先生の相手をして疲れてるし~」
「万全の時がいいかな~」
「あ」
そっちの意味?
戦う方?
「って!」
私は日向の肩をつかんだ
「どっちにしても駄目だから!」
「え~?」
「うちの弟に手を出さないでよ!」
「ちょっとくらい~」
「駄目!」
「日向の技はたちが悪すぎるのよ!」
「からの~?」
「何かの振りじゃないから!」
「でも今日は無理かな~」
「また元気な時に相手してもらう~」
その時
「美緒さん」
来た!
私はゆっくり教室の入り口を見る
伊織くんが立っていた
周りの女子たちが
ざわざわしながらこっちを見ている
でも大丈夫
私は一人じゃない
今日は日向と勉強する約束をした
これで帰りは三人だ
二人きりにはならない!
伊織くんが私の席までやってくる
そしてにこやかに笑った
「一緒に帰ろう」
私はすぐに日向を見る
さあ一緒に帰りましょう我が友よ!
帰り道は一緒よ日向!
二人で家へ――
「じゃあ私~」
日向が鞄を肩へ掛け直した
「先に帰るね~」
「今日は詩織さん早番だから~」
「え!?」
すっ
日向が見事なくらい滑らかに離れていく
「ちょっと!」
「日向!?」
「一緒に勉強するんでしょう!?」
「また今度ね~」
「今!」
「約束したばっかりでしょ!?」
「頑張ってね~」
「何を!?」
日向は流れるように立ち去った
本当に帰った……
あの女
今日は湊と遊ぶには
自分の調子が悪いと気づいたら
一瞬の迷いもなく
私を置いていきやがった!
「美緒さん?」
「な、なに!?」
「まだ帰らない?」
「帰りますよ!」
「帰りますとも!」
もう! 諦めた!
私は鞄を持って立ち上がる
伊織くんと並んで教室を出た
視線が痛い
ものすごく痛い
廊下を歩くだけで
あっちから
こっちから
視線が突き刺さる
「美緒さん」
「なに?」
「今日のお弁当」
「美味しかったよ」
「そ、そう」
今その話する!?
その瞬間
横にいた女子がスマホを片手に何かを入力した
あ……
共有された……
「卵焼きも美味しかったし」
「う、うん」
「唐揚げも」
「うん」
「あと」
「あの緑の……」
「ほうれん草のおひたし?」
「そう」
「あれも好きだな」
「そうなんだ」
「明日も入ってる?」
「好きなら入れるけど」
「ありがとう」
「楽しみにしてる」
ざわっざわっ
ほらああああ!
周りの女子が聞いてるから!
女子たちが持つスマホでの共有が止まらない
今のはどう聞いても
私が伊織くんにお弁当を作ってる会話だ
いや
実際作ってるけどさ……
私は早足になった
「美緒さん?」
「早く帰るよ!」
「うん」
伊織くんが何も分かっていない顔でついてくる
この人
ちょっと抜けてるところがあるわ
誰にだって欠点はあるのね……
駅まで歩いて二人で電車に乗った
朝ほど混んではいない
それでも並んで立つだけで
すごく近く感じた
なんだか胸が落ち着かない
私は少しだけ伊織くんから距離を取る
「美緒さん?」
「なに?」
「今、離れた?」
なんでそういうことにだけ気づくのよ!
「気のせいだよ」
「そう?」
きっと少し距離をとれば大丈夫
ふわっ
「あ」
またあの匂い
私はそっと鼻を押さえた
なんなのよ
最近稽古をさぼり過ぎた
だからこんなに心が乱れるんだ
電車を降りると
改札の近くで伊織くんの定期券を買った
「これで」
「明日から毎回切符買わなくて済むね」
「ありがとう」
「別に何もしてないけど」
「一緒にいてくれたから」
「僕だけだと分からないことが多くて」
「そ、それは普通でしょ」
伊織くんが嬉しそうに笑う
もう
いちいち
そういう顔するのやめてほしい
また変になる……
家へ向かう道を二人で歩く
もうすぐ道場への分かれ道だ
私はちらっと伊織くんを見る
「伊織くん」
「うん?」
「このあと」
「道場でしょ?」
「うん」
お父さんに住み込みの弟子として認められた以上
基本的に学校が終わったら稽古だ
私は少し考えてから
「今日は私も行く」
伊織くんが少し驚いた顔をした
「美緒さんも?」
「うん」
「今朝も気になったんだけど」
「美緒さんも武術やってるの?」
「まあね」
「あの父親の娘ですから」
「たしなむ程度に」
最近は家のこともあるから
毎日道場へ顔を出すわけじゃない
でも今日はがっつり汗を流したい
だって私は絶対おかしいから
ちゃんと稽古して整えないと
強い刺激があればすぐに治るはず
頭の中が真っ白になるくらい
思いっきり戦えば
こんなのすぐに治る!
ようやく放課後になった
私は自分の席で教科書を鞄へ入れていた
今日は長い長い一日だった……
朝から伊織くんと登校して
学校中で噂になって
昼休みに日向と桐生先生の死闘を見せられ
午後は伊織くんに触れるたび
変な電気みたいなのが走って
もうめちゃくちゃだ
私は机の中にある教科書やノートを
片っ端から鞄へ入れていく
今日は全部持って帰る
朝からの騒ぎを考えたら
学校に私物なんて残しておきたくない
ただで済む気がしない
ぱんぱんになっていく鞄を見ながら
私は考える
やっぱり今日は道場へ行こう
ちゃんと稽古して汗かいて
頭の中を空っぽにして
このおかしくなった私を元に戻す
うん、それがいい
「美緒~」
「ん?」
日向が机の横までやってきた
私の鞄を見る
「今日は荷物多いね~」
「ちょっとね」
「ふ~ん」
日向はそれ以上聞かなかった
「一緒に帰ろ~」
「あれ?」
私は顔を上げる
「日向」
「部活は?」
「辞めてきた~」
「早っ!」
「だって~」
日向がにこにこ笑う
「もう」
「いれないでしょ~」
確かに
昼休みに先輩全員投げ飛ばして
顧問と本気で戦った人が
そのまま合気道部に残ってる方が
おかしいかもしれない
「じゃあ――」
そう言いかけた時だった
廊下の空気が変わった
ざわ……
ん?
ざわざわ……
女子たちの視線が一斉に集まっていく
この感じ……
絶対そうだ
来る!
伊織くんが来る!
私は逃がさないように日向の腕をつかんだ
「日向!」
「ん~?」
「今日!」
「うちで一緒に勉強しない!?」
「勉強~?」
日向が不思議そうに首を傾げた
「そう!」
「宿題とか!」
「予習とか!」
「二人でやった方が捗るでしょう!?」
そうすれば帰り道は日向も一緒だ
二人きりにならなくて済む
完璧!
「え~」
日向が少し考える
「美緒の家か~」
「そう!」
「来るでしょ!?」
「いいよ~」
よし!
「そういえば~」
日向がにこっと笑った
「あの美味しそうな弟くんも~」
「家にいるの~?」
「は?」
私は固まった
「湊のこと?」
「うん~」
日向が嬉しそうに頷く
「そろそろ~」
「一緒に遊べるかも~」
「遊ぶって」
「どんな意味!?」
「どうだろ~?」
「そもそも」
「湊に何するつもり!?」
日向は自分の肩をぐるぐる回した
「でも今日は~」
「先生の相手をして疲れてるし~」
「万全の時がいいかな~」
「あ」
そっちの意味?
戦う方?
「って!」
私は日向の肩をつかんだ
「どっちにしても駄目だから!」
「え~?」
「うちの弟に手を出さないでよ!」
「ちょっとくらい~」
「駄目!」
「日向の技はたちが悪すぎるのよ!」
「からの~?」
「何かの振りじゃないから!」
「でも今日は無理かな~」
「また元気な時に相手してもらう~」
その時
「美緒さん」
来た!
私はゆっくり教室の入り口を見る
伊織くんが立っていた
周りの女子たちが
ざわざわしながらこっちを見ている
でも大丈夫
私は一人じゃない
今日は日向と勉強する約束をした
これで帰りは三人だ
二人きりにはならない!
伊織くんが私の席までやってくる
そしてにこやかに笑った
「一緒に帰ろう」
私はすぐに日向を見る
さあ一緒に帰りましょう我が友よ!
帰り道は一緒よ日向!
二人で家へ――
「じゃあ私~」
日向が鞄を肩へ掛け直した
「先に帰るね~」
「今日は詩織さん早番だから~」
「え!?」
すっ
日向が見事なくらい滑らかに離れていく
「ちょっと!」
「日向!?」
「一緒に勉強するんでしょう!?」
「また今度ね~」
「今!」
「約束したばっかりでしょ!?」
「頑張ってね~」
「何を!?」
日向は流れるように立ち去った
本当に帰った……
あの女
今日は湊と遊ぶには
自分の調子が悪いと気づいたら
一瞬の迷いもなく
私を置いていきやがった!
「美緒さん?」
「な、なに!?」
「まだ帰らない?」
「帰りますよ!」
「帰りますとも!」
もう! 諦めた!
私は鞄を持って立ち上がる
伊織くんと並んで教室を出た
視線が痛い
ものすごく痛い
廊下を歩くだけで
あっちから
こっちから
視線が突き刺さる
「美緒さん」
「なに?」
「今日のお弁当」
「美味しかったよ」
「そ、そう」
今その話する!?
その瞬間
横にいた女子がスマホを片手に何かを入力した
あ……
共有された……
「卵焼きも美味しかったし」
「う、うん」
「唐揚げも」
「うん」
「あと」
「あの緑の……」
「ほうれん草のおひたし?」
「そう」
「あれも好きだな」
「そうなんだ」
「明日も入ってる?」
「好きなら入れるけど」
「ありがとう」
「楽しみにしてる」
ざわっざわっ
ほらああああ!
周りの女子が聞いてるから!
女子たちが持つスマホでの共有が止まらない
今のはどう聞いても
私が伊織くんにお弁当を作ってる会話だ
いや
実際作ってるけどさ……
私は早足になった
「美緒さん?」
「早く帰るよ!」
「うん」
伊織くんが何も分かっていない顔でついてくる
この人
ちょっと抜けてるところがあるわ
誰にだって欠点はあるのね……
駅まで歩いて二人で電車に乗った
朝ほど混んではいない
それでも並んで立つだけで
すごく近く感じた
なんだか胸が落ち着かない
私は少しだけ伊織くんから距離を取る
「美緒さん?」
「なに?」
「今、離れた?」
なんでそういうことにだけ気づくのよ!
「気のせいだよ」
「そう?」
きっと少し距離をとれば大丈夫
ふわっ
「あ」
またあの匂い
私はそっと鼻を押さえた
なんなのよ
最近稽古をさぼり過ぎた
だからこんなに心が乱れるんだ
電車を降りると
改札の近くで伊織くんの定期券を買った
「これで」
「明日から毎回切符買わなくて済むね」
「ありがとう」
「別に何もしてないけど」
「一緒にいてくれたから」
「僕だけだと分からないことが多くて」
「そ、それは普通でしょ」
伊織くんが嬉しそうに笑う
もう
いちいち
そういう顔するのやめてほしい
また変になる……
家へ向かう道を二人で歩く
もうすぐ道場への分かれ道だ
私はちらっと伊織くんを見る
「伊織くん」
「うん?」
「このあと」
「道場でしょ?」
「うん」
お父さんに住み込みの弟子として認められた以上
基本的に学校が終わったら稽古だ
私は少し考えてから
「今日は私も行く」
伊織くんが少し驚いた顔をした
「美緒さんも?」
「うん」
「今朝も気になったんだけど」
「美緒さんも武術やってるの?」
「まあね」
「あの父親の娘ですから」
「たしなむ程度に」
最近は家のこともあるから
毎日道場へ顔を出すわけじゃない
でも今日はがっつり汗を流したい
だって私は絶対おかしいから
ちゃんと稽古して整えないと
強い刺激があればすぐに治るはず
頭の中が真っ白になるくらい
思いっきり戦えば
こんなのすぐに治る!


