『いつからか、君が特別だった』

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少し歩いて各々写真を撮る。
後ろを振り返ると少し後ろに紗季ちゃんの姿が見えた。

隣には男の先輩がいる。
何か話しているらしく、紗季ちゃんが楽しそうに小さく笑っていた。

(……あ)

それを見た瞬間、
胸の奥がキュッと強く締め付けられた。



紗季ちゃんは少し人見知りで、

サークルに入ったばかりの頃は男子に話しかけられると

少し困ったように固まっていた。

でも最近は慣れてきたみたいで、

こうやって誰とでも柔らかく話すようになった。

打ち解けられたのは良いことだし、

誰にでも優しい紗季ちゃんらしい。


分かっている。



頭では分かっているのに――


気づけば俺は、
考えるより先に足を動かしていた。

「紗季ちゃん」

「あ、湊くん――」

二人の間に自然に割り込むと、
俺は紗季ちゃんの華奢な手首を
少し強めにキュッと掴んだ。

「あっちに良い撮影スポット見つけたから、行こう」

「え? あ、うん!すみません。 また後で」  

紗季ちゃんは俺に引かれながら、
ぺこっと気まずそうに小さく頭を下げた。

相手の先輩が
「あいつ強引だなー」と
苦笑いしていた気もするが、
気にしている余裕はなかった。

とにかく紗季ちゃんを連れて歩き出す。

「あの……湊くん、手」

少し離れた場所でそう言われて、ハッとした。

手首を掴んでいたつもりが、力が入ってぎゅっと握りしめてしまっていたのだ。

「あ、ごめん! 痛かった!?」

「ううん、痛くないよ。ただ、急だったからびっくりしちゃって」

小さく首を振って微笑む紗季ちゃんを見て、胸がざわつく。

なんで俺、こんな強引なことしたんだ……?

紗季ちゃんを他の奴から引き離したかった……?

「あ、見て湊くん。あの花――」

自分の衝動的な行動に戸惑っていた

その時、

背後から勢いよく自転車が

走り抜けてくるのが見えた。

「紗季ちゃん、あぶない!」

咄嗟に紗季ちゃんの肩を引き寄せ、
抱きかかえるようにして自分の胸元へ強く引き込んだ。

風を切る音ととも自転車が通り過ぎる。

「っ……大丈夫!?」

「あ、うん……ありがとう、湊くん」

俺の腕の中で、紗季ちゃんが小さく息を吐く。

自分よりずっと小さな体。

腕の中にすっぽり収まってしまう華奢さ。

俺の胸に触れている紗季ちゃんの体温が、
ダイレクトに伝わってきた。

(小さくて……折れちゃいそうだな)

「あの……湊くん、もう大丈夫だよ?」

上目遣いで見つめ返されて、

俺は自分が紗季ちゃんを

強く抱きしめたまま離していないことに気づいた。


慌てて腕を解いたものの、心臓がうるさいくらいに跳ねている。

手汗が一気に吹き出しそうだった。


さっきの強引な独占欲も。

いま腕の中に残る、柔らかくて温かい感触も。

全部が重なって、頭の中が真っ白になる。

「湊ー、そっちの構図撮れた……って、お前何顔真っ赤にしてんの?」

通りかかった蓮に突っ込まれ、俺は慌てて顔を覆った。

「な、なんでもない……!」

動悸が全然収まらない。

さっきまで当たり前に隣を歩いて、当たり前に笑い合っていたはずなのに。

(俺……紗季ちゃんのことが、好きなんだ)

ハッキリと自覚した瞬間、

今まで通り接することの難しさに気づいて、

背中にスッと冷や汗が流れた。


紗季ちゃんはすごく優しくて、

おっとりしていて、

いつだって、

自分のことより周りを優先してしまうような子だ。

もし俺が急に男として距離を詰めたりしたら、

困らせてしまうかもしれない。

俺の勝手な感情のせいで、

彼女の居場所であるこのサークルの居心地を悪くさせたくない。


でも、

好きだと気づいてしまった以上、
今までみたいに「ただのサークル仲間」として爽やかに笑いかける自信なんて、もうどこにもなかった。

どんな顔して話せばいいんだ?


今まで俺、



どうやって紗季ちゃんと話してたっけ……?


「湊くん……? 顔、本当に赤くなってるけど、体調悪い……?」


心配そうに覗き込んでくる
紗季ちゃんの潤んだ瞳とバッチリ目が合って、
俺は思わず、後ずさりしそうになる。

「っ、だ、大丈夫! 全然平気!」

自分でも引くくらい裏返った声が出た。

紗季ちゃんは不思議そうに目を丸くしている。

(やばい、どうしよう……距離感が全然わかんない……)

普段なら誰とでも上手く話せるはずの自分が、
たった一人、一番大切にしたい女の子の前でだけ、
完全に固まっていた。



湊side end