『いつからか、君が特別だった』


大学生活にも、少しずつ慣れてきた頃。

私は、親友の莉央と二人で大学の中庭を歩いていた。

大学に入ってからの私は、授業を受けて、アルバイトに行って。
そんな毎日を繰り返している。

もともと私は、何かに積極的に飛び込んでいくタイプではない。

誘われれば行ってみるけれど、自分から「やってみたい」と思って動くことは、あまりなかった。

そんな私とは反対に、莉央はいつも明るくて優しくて、人との距離を縮めるのが上手だった。

莉央とは、高校からの親友だ。
高校でも、大学でも、気づけばいつも一緒にいる。

「ねえ、紗季」

「ん……?」

隣を歩いていた莉央が、ふいに私の顔を見る。

「私、サークル入ろうかなって思ってるんだけど」

「サークル?」

「うん。友達に誘われたの」

「へぇ……」

私は少しだけ首を傾けた。

「何のサークル?」

「写真」

「写真?」

「そう。そんなに本格的じゃないみたい。みんなで写真撮りに行ったり、ご飯食べたりする感じなんだって」

「楽しそう……」

思わずそう呟くと、莉央が嬉しそうに笑った。

「でしょ?」

「うん」

「紗季も一緒に入らない?」

「私も……?」

「うん。紗季がいたら嬉しいし」

そう言われて、私は少し考えた。

大学に入ってから、授業とアルバイトの繰り返し。

それが嫌だったわけではないけれど、何か新しいことを始めるのも悪くない気がした。

それに、莉央と一緒なら。

「……じゃあ、行ってみようかな?」

「ほんと?」

「うん」

「やった」

莉央が嬉しそうに笑う。

その顔を見ていると、私まで嬉しくなる。

その日の帰り道。

莉央から、サークルのことをいろいろ聞いた。

どんな人がいるのか。

いつ活動しているのか。

今度はどこへ写真を撮りに行くのか。

私は相槌を打ちながら聞いていた。

「そういえば、蓮もそのサークル入るって」

「蓮くんも?」

「うん」

「そうなんだぁ」

名前を聞いて、少しだけ考える。

蓮くんは、莉央の知り合い。

私も何度か顔を合わせたことがある。

「知ってる人がいるなら安心だね?」

「でしょ!」

莉央が笑う。

「あと、蓮が友達も誘うって言ってた」

「友達?」

「うん。高瀬湊くんってほら、爽やかなイケメンくん!」

「高瀬湊くん……」

まだ顔も知らない人の名前を、私は小さく繰り返した。

それが、この先何年も私の中に残る名前になるなんて。

そのときの私は、知るはずもなかった。