春、ゆらり舞い散る花びらに最後の餞別を

その日は深月を看護師さんに任せて家に帰った。どこかで聞こえる雨音も誰かの泣き声にも聞こえないふりをして。


なにもかもが遠く見える。一人、暗闇の中でポツンと立っているような気分だ。


湿ったアスファルトに一つ、また一つとシミをつくっていく。


「み、づきぃ。なんで…うっ」


視界が霞む。ゆっくり手を頬に置くと水が流れている。それが涙だと気付くのにそう時間はかからなかった。


マスクで顔を隠し泣いた。耐えきれない現実を突きつけられてこれが夢だったら良かったのに。二人で笑い合えたのに。そんな現実はもう二度と来ないなんて誰が想像できたろうか。