君の手を掴むための遠回り


『神楽はモテる』

『女子たちが付き合いたがっている』

という噂は、男子たちの冷やかし交じりの会話を通して、当然のように俺の耳にも届いていた。

​けれど、どれだけ周りから持て囃されても、俺の心は1ミリも揺れなかった。

憧れや熱っぽい視線を向けられれば向けられるほど、自分の内側の空虚さが際立ち、冷めていくのを感じるだけだった。

俺が欲しいのは大勢からの賞賛でも甘い視線でもなく、ただ一人、瑠華の温もりだけだったからだ。


──そんな冷え切った空騒ぎの中で、俺の卑怯な逃げ道が開いてしまったのは、中学1年の秋だった。


​「神楽くん……私、神楽くんのことがずっと好きだったの。私と付き合ってくれませんか?」


​夕暮れの校舎裏。

噂通りに照れくさそうに頬を染め、告白してくれたのは同じクラスの女子だった。

​噂に耳を傾け、周りから羨ましがられる状況になっても、その時の俺の頭に浮かんだのは
「瑠華との約束を守らなきゃ」
という誠実さではなかった。

この子の隣にいれば、噂や熱狂に紛れて、あの恐ろしい夜の孤独から逃げ出せる
────そんな、最低で卑怯な安堵感だった。


​「……いいよ。俺でよかったら、よろしくね」


​嘘の笑顔でそう答えた瞬間、胸の奥でチクリと罪悪感の針が刺さった。