君の手を掴むための遠回り


彼女は自分以外の『誰か』の影を感じ取っていたのだと思う。

離れていきそうな俺を引き留めるように、彼女は俺のシャツの胸元をギュッと掴むと、必死な顔で顔を近づけてきた。


​「私のこと、好きだよね……? お願い、証明して……」


​すがるような声でそう言われ、促されるままに唇を重ねた。

そのまま求められるがままに身体を重ねても、俺の心は氷のように冷え切ったままだった。

​肌が触れ合い、熱を交わすその渦中でも、俺の頭の中を埋め尽くしていたのは瑠華のことだけだった。


​(俺は……何をしてるんだ……っ)


​自分を求めてくれる目の前の彼女を酷く傷つけ、利用し、その最中ですら他の女の子を想っている。

自分の卑劣さと汚さに、胸の奥から吐き気が込み上げてきた。身体が繋がれば繋がるほど、心は孤独で引き裂かれそうになり、暗闇の中へ落ちていくような恐怖に苛まれた。

​そんな荒んだ日々の中、屋上で久しぶりに瑠華と二人きりで言葉を交わす機会が訪れた。