君の手を掴むための遠回り


​「神楽くんって、部活のときすごくカッコいいのに、話すとすごく優しいよね」

​「そう? 普通だよ」

​
噂を聞きつけてアプローチしてきた別のクラスの女子。

放課後の下駄箱前で待ち伏せされ、恥ずかしそうに渡された手紙。

断るべきだと頭では分かっているのに、一人で夜を迎える恐怖が勝り、俺はまた「いいよ」と嘘の笑顔で頷いてしまった。
​
手を繋ぎ、休日に街へ出かけ、求められれば唇を重ねる。

周りの男子からは
「神楽、また新しい彼女作ったのかよ」
「マジで羨ましいわ」
と半ば呆れ混じりの冷やかしや嫉妬の視線を向けられた。


​「神楽ってさ、女子には優しいけど、なんか踏み込ませてくれないよな」

「わかる。いつも笑ってるけど、目が笑ってないっていうか……」


​部室で着替えている最中、聞こえよがしに囁かれる陰口。

けれど、そんな言葉すら俺の心には届かない。

むしろ''女子を乗り換えるチャラ男''という不名誉なレッテルを貼られることで、瑠華を裏切り続けている罪深い自分にふさわしい罰を受けているような気すらしていた。


────けれど、本当に苦しいのは相手の想いが深くなった時だった。


​「神楽くん、私ね……神楽くんの『一番』になりたいな」


​ある日の放課後、誰もいない教室で、彼女が俺の腕にすがりつきながら愛おしそうに囁いてきた。

その言葉を聞いた瞬間、俺の全身の血の気が一気に引いていく。


​(一番……? 俺の一番は……っ)


​脳裏に浮かぶのは、あの夏の日に手を振り返してくれた瑠華の笑顔だけだ。