甘いヒーローの独り占め

じっと見つめてくる智也の視線から、逃げるように顔を引きつらせて笑う桜子。
しかし、肩にかけたバッグを背中に回す様子を見逃さなかった智也は、真顔になる。


「嘘だな。持ってる」

「ふぇ…」


智也は、手を伸ばして桜子の頬をムニッと摘まみ、再度スマホ画面を見せてきた。


「連絡先、教えて」

「…ひゃい…」


ザワザワする教室内の居づらさを感じる桜子は、観念してスマホを取り出して操作した。
智也のQRコードを読み取ると、すぐにスマホが震える。

通知画面を開くと、智也から『よろしく』の文字とスタンプが送られてきていた。
桜子の頬から手を離した智也は、バッグを持ち直し、スマホをポケットに入れた。


「桜子はサークル入る?」

「う、うん…一応…この前見た映画サークルにしようと思ってるけど…他も見てみようかなって…」

「じゃあ、一緒に回る」


それだけを言い残すと、先に教室のドアへと向かっていく智也。
すると、先ほど声をかけていた女子が、声をかけてきた。


「黒崎くん!私たちと回ろうよ!!」

「いい。……桜子」


女子の声に首を横に振ったあと、桜子へ視線を向けた。


(……あぁ…後ろの視線が痛い…!)


睨んでくる女子の視線を受けながら、小走りで智也の元へ駆けた桜子。
智也は教室のドアを開けて、桜子に先へ出るよう促した。

そして、自分が出る際に、一度教室へ振り返る智也は、桜子へ視線を向けていた女子をジロッと見てから桜子を追った。

スマホを取り出して、操作を始める智也と並んで歩く桜子は、周囲の視線を感じる。
チラリと目だけが智也を見上げると、綺麗な横顔に見入ってしまった。


「…と、智くんは、どのサークルに入るか決めた…?」

「……仕事が忙しいから入る気なかった…けど、桜子の言う映画サークルが気になるな。映画は普段から見てるのか?」

「う、うん。割と……映画館とかよく行くし…でも、怖い系は見れない…」

「…ふっ…やっぱり変わらないな」


ふき出す口元を押さえる智也に、恥ずかしくなって顔を赤くさせる桜子。


(そんなに笑わなくても……って、仕事…バイト、大変なのに入るんだ…大丈夫かな…)

「智く」


笑い終えた智也と共に、中庭から聞こえてくる勧誘の声に顔を向けた。
そして、中庭への出入り口から外に出ると、人だかりの中に入って行く二人。