甘いヒーローの独り占め

…ー

それから迎えた翌週の月曜日。
日中の講義に、一度も智也の姿を見ることはなかった。

桜子は、スマホのトーク画面を見て、連絡しようか迷っていた。
サークルに向かう時間のギリギリまで悩んだ結果、『今日サークルだけど、来れる?』と送ってみる。

緊張気味にしばらく画面を見ていたが、既読の表示もないため、諦めて映画サークルの部室に向かった桜子。
ゆっくりとドアを開けると、部長を含めた十数人が各々で談笑していた。

桜子が入ってきたことを最初に気づいた部長が、立ち上がって桜子の方へやってくる。


「桜子ちゃん!お疲れ〜。今日、ジャンル縛り上映会しようと思っててね。ホラー映画!」

「ほ、ホラー……」

「そうそう…って、ホラー苦手?うわっ、言っとけば良かったね!ほぼ俺が提案してるから…桜子ちゃん、連絡先登録していい?」


ニコニコと話す部長がスマホを取り出していると、反射的に自分もスマホを取り出した桜子。


「事前に相談してもらっていいしさ。あと、今度映画でも」

「…困ります」

「え…」


桜子のスマホを見覚えのある、筋張った色白の手の甲が後ろから覆う。
振り返ると、肩で息を切らし、上着がはだけている智也がいた。


「グループトークで十分でしょう。桜子への連絡なら、俺を介してください。あと、今日はレポートを手伝ってもらうんで、俺と桜子は欠席します」

「く、黒崎く」

「それとこれ、先週の飲み会の参加費です。桜子の分も入ってます。じゃあ、お疲れ様でした」


桜子の手を取って、すぐに部室を後にする智也。
手を引く智也の手は、変わらずゴツっとしている。

頬を赤くする桜子は、手を引かれながら、智也の背中を見上げて歩いた。
そのまま中庭に出ると、智也は空いているベンチを見つけて、桜子と一緒座った。


「ふー.…」

「…智くん…手…」


バッグを置いた智也は、一向に桜子の手を離す気配がないまま、膝に膝を乗せて下を向いた。
息を整えているのか、深呼吸したあと、顔を上げる。

そして、桜子をジッと見つめた。


(あ……拗ねてるときの顔…)

「…俺、言ったんだけど。桜子しか見てないって」


あの日の夜を思い出した桜子は、顔が熱くなる。
智也から視線を逸らさないでいると、初夏の風が吹いて、草木の揺れる音だけが聞こえてきた。


「……えっと…」

「だから正直、他の男が桜子の良さに気づくと、焦る…」

「……」