甘いヒーローの独り占め

顔にかかっていたサラッとした髪を耳にかけると、真っ赤な耳が見えて、智也は嬉しそうに笑った。


「…桜子」

「…っ…わ、私…!地味だし…しゃ、社長してる智くんみたいにっ…す、すごい人じゃない…!…その…私…っ…」


桜子の後頭部と背中に智也の手が回ると、力強くも優しく抱きしめられた。


「俺は桜子の全部が好きだ。泣き虫なところも、自信がないところも、笑うところも…全部…」

「と、智く…っ」


耳元で智也の囁くような声と吐息を聞いたあと、両手が離されて、頬に触れられた。
桜子は、うるさいくらい自分の中に響く鼓動の速さを感じながら、智也を見上げる。


「好きだよ、桜子」


智也の微笑む表情は、幼い頃と変わらないように感じた。
桜子の中で、ドクンッと一際大きく高鳴った鼓動が聞こえた。

うまく言葉が出てこない桜子は、顔だけが真っ赤になったままだ。


「全部俺だけのにしたいし、他の男に見せたくないくらいだ…」

「…っ……」

「その顔、期待していいのか?」

「え…!?」


返答に詰まってしまった桜子の頭を、智也が優しくポンポンと撫でる。


「悪い…急かした。返事はいつでもいい。映画の前に、洗濯機見てくる」


手を離して立ち上がった智也が去ると、遅れてやってくる鼓動の高鳴りに、桜子はギュッと目を閉じた。

桜子の頭には、泣いていた幼い自分を、いつも守ってくれていた智也の小さくも大きな背中を思い出していた。


(私…ど、どうしたら…)

「桜子。今、服を乾燥にかけた。あと少し待てるか?」

「…あ…う、うん…」

「じゃあ、その間、映画を教えてくれ」


リモコンを手に取る智也が、操作をしていく。


「え、えっと…おすすめの…えいっ…映画は…ー」


桜子から教えられたタイトル名を打ち込み、表示された映画のあらすじを、足を組んだ智也は黙々と読む。
チラッと隣に座る智也に、チラッと視線を向ける桜子は、変わらない表情の智也に、なぜだか少しだけ心が沈んだ。


(…変、なの…私…)


いくつかのタイトルとあらすじを読み終えた智也。
通知音が聞こえたスマホを取り出しては、画面を見てチラッと桜子に視線を向けた。


「食べないのか?エクレア」

「え!?あ!う、ん…たべ、食べる…!」


桜子は、慌てて袋を開けて、気を紛らわすようにエクレアを食べ始める。