甘いヒーローの独り占め

「いい。袋お願いします」

「でも…!」

「…俺が食べて飲む」


視線だけが桜子を見ていた智也は、財布からカードを取り出して会計を済ませた。
大きめの袋を持って、道路側を歩く智也は、走っていたタクシーへ手を挙げる。


「え…近くなんじゃ…?」

「まだ少し歩くし、桜子に時間をもらってるから」


タクシーのドアが開くと、桜子は何といえない表情になりつつ、乗り込んだ。
智也も乗り込むと、乗車場所の名前を運転手に伝えて、二人はシートベルトを締めた。

車の窓から見える景色を眺めていた桜子は、智也の方を見た。


「あの…智くん、タクシー代は出したい」

「…だめ」

「なんで!?」


思ってもいなかった返答だったのか、驚いた顔になる桜子を見て、智也はフッと笑った。


「なんでだと思う?」


信号で止まると、外の車のライトが智也を後ろから照らし、一瞬だけ表情が見えなくなる。
鼓動が高鳴る音が聞こえた気がした桜子は、顔を下に向けて小さく答えた。


「わ…わかんない…」

「…今はそれでいい」


桜子の言葉に答える智也は、青信号に変わって動き出したタクシーから、外を眺めた。
横目で見ていた桜子も、反対の窓から外を眺める。





少し走ったタクシーは、高層マンション群の中に入り、出入り口で止まった。


(え……?ここ…?ホ、ホテル…!?)


智也の方のドアが開くと、支払いを済ませた智也が先に降りた。
運転手へお礼を伝える桜子も続いて降りると、真上を見上げるほどの高いマンションに、言葉をなくす。


「桜子?」

「…と、と、智くん…?ここって…」

「俺の家。8階だけど」


桜子を連れた智也がマンションの出入り口から入り、オートロック操作盤で部屋番号を打ち込んだ。