大学校内のざわつきを耳にしながら、山ノ内桜子は講義を受ける教室前で立ち止まっていた。
(緊張する…今日こそ、と、友達作りたい…せめて…話し相手くらい…!!)
下を向いていた顔を上げれば、二つ結びにした髪の毛が揺れた。
桜子はようやく開いているドアから中に入る。
そこそこな人数の受講生を見るが、入ってすぐに席に群がる女子生徒たちに視線を向けた。
「ねー!黒崎くん、もうサークル入った?一緒に回らない?」
「……いや。いい」
女子生徒の中心から聞こえる低い声を聞きつつ、桜子は座る席を探した。
前の席がガラリと空いていたため、集団を避けながら横切ろうとした。
群がる女子生徒のすき間からその姿を見る声の主は、一瞬、動きが止まる。
「桜子?」
名前を呼ばれたことで、思わず斜め後ろを振り返ると、黒髪に目元あたりにかかっている美形と目が合った。
色白の肌も相まって、息をのみかけた桜子は、辺りをキョロキョロと見渡す。
すると、美形が荷物を持って立ち上がると、桜子の方へ歩いてくる。
立ち上がったことで、高身長であることもわかった。
「山ノ内桜子、だよな?」
桜子のフルネームを呼ぶ美形に見覚えがないことがはっきりわかると、桜子は混乱した。
「す、すみません…誰ですか…?」
「…黒崎智也」
美形の名前を聞いた桜子は、少しの沈黙のあと、ハッと気づいて口を開く。
「と、智くん…!?わ…え…ここの大学」
「とりあえず、前の席行くんだろ?…俺も行く」
桜子の言葉を最後まで聞かず、空いている前の席に向かう智也。
しかし、ついてこない桜子に気付くと、智也は振り返って顔を上げた。
「…隣。座って」
「あ、は、はい…!」
ようやく階段を降り始めた桜子は、智也について行き、先に席に座る。
智也が端の席に荷物を置いて隣に座ってくると、小さく呟いた。
「助かった…」
バッグからタブレット端末を取り出した智也は、桜子へチラッと視線を向けた。
「久しぶりだな。中学以来か?」
「そ、そうだね…えっと、“助かった”って…?」
「…いや。うるさかったから」
後ろからヒソヒソと話す声に目を伏せると、頬杖をついてフッと笑う智也。
またしても息が止まるような整った顔立ちに、桜子は呆けつつ見つめてしまった。



