1位 オフィーリア・ウェインライト 500点
2位 エミリー・ギルモア 450点
3位 アルフレッド・ロズウェル 445点
アルフレッドは、しばらくその数字を見つめていた。
廊下には、上位十名までの成績が張り出されている。
一位のオフィーリアは五百点。
五教科すべて満点だった。
「すごいですわ、オフィーリア様!」
エミリーが興奮した声を上げる。
当のオフィーリアは嬉しそうではあるものの、それほど驚いた様子はない。
むしろ自分のことより、エミリーやアルフレッドの名前が張り出されていることの方が嬉しかった。
「エミリーもアルもすごいわね」
「うふふ。オフィーリア様に褒められるなんて光栄ですわ」
エミリーは頬を緩ませる。
「ああ、リア……ありがとう」
アルフレッドだけは自分の顔が強ばるのを感じた。
自分だって、決して悪い成績ではない。
むしろ三位なのだから、十分に誇っていいはずだ。
それでも、自分より上に二人の令嬢の名前が並んでいることが、どうしても面白くなかった。
(僕がオフィーリアに負けるなんて……)
「リア、ずいぶん頑張ったんだね」
「え?」
オフィーリアがきょとんとする。
「試験勉強だよ。満点なんて、相当勉強しないと取れないだろう? いい加減、認めろよ。きっと寝る間も惜しんで勉強したに決まってる」
「いつもたっぷり寝ているわよ?」
「僕はね、毎日かなり勉強したんだ。それでも間違えたところがあったのに」
「まあ。アルは本当に努力家なのね。とても立派なことだと思うわ」
オフィーリアは感心したように微笑んだ。
それから、なんでもないことのように続ける。
「私は特に何もしなかったもの。毎日勉強していたアルはすごいわ」
初めてだった。
オフィーリアの隣に立っていることを、居心地が悪いと思ったのは。
「オフィーリア様は天才なのですわ!」
それまで二人の話を聞いていたエミリーが、突然声を上げた。
「すごいですわ! こんなに可愛くて綺麗なのに、それだけじゃなくて頭までいいなんて……!」
「えっ? 違うわよ」
オフィーリアは慌てて首を振った。
「私はただ、《《一度聞いたことは絶対に忘れない》》だけなのよ」
「……はい?」
エミリーが固まった。
アルフレッドも固まる。
オフィーリアはそんな二人に気づかず、懐かしそうに微笑む。
「そういえば、叔母様にも昔、ずいぶん驚かれたことがあったわ」
「叔母様……キャサリン会長にかい?」
アルフレッドが口を挟む。
「ええ。私、小さい頃から叔母様が大好きで、いつも一緒にいたのよ」
母を亡くしてから、キャサリンはオフィーリアをどこへ行くにも連れて歩いた。
当然、商会本部へ行くことも多かった。
キャサリンが会長を務める商会は王都随一の規模を誇り、その本部には連日、多くの商人や職人が出入りしていた。
「あるとき、叔母様が帳簿を探しながら、『以前取引した商人から、いくらで商品を買ったかしら』って呟いたの」
「それで?」
「私が金額を教えてあげたわ。叔母様が『この値段では儲けがほとんどないわ』って怒っていたのも覚えていたから」
「……それは、いつの話だったんですの?」
「そのときから二年くらい前だったかしら。私が三歳の頃ね」
「三歳の頃のことを、五歳で覚えていらしたの?」
エミリーの声が裏返る。
「それからかしら。大きな商談には、決まって私を隣に置くようになったわ。そのときはいろいろ叔母様から聞かれるのよ」
「何を聞かれるんですの?」
「『あの方、前に来たとき何を気にしていたか覚えている?』とか、『以前この話をしたとき、何て言っていたかしら?』とか。資料には書いていないようなことよ」
「…………」
「叔母様ったらお忙しいから、忘れてしまうことも多いのよ」
オフィーリアはくすくす笑った。
「オフィーリア様……」
「なあに?」
「それを、天才というのですわ!」
「でも、私は聞いたことを覚えているだけよ?」
「普通は忘れるんです!」
「そうなの?」
「そうですわ!」
エミリーが力いっぱい断言する。オフィーリアは困ったように首を傾げているが、アルフレッドは驚愕していた。
一度聞いただけの話を、何年経っても正確に覚えている。
そんなことは、自分には到底できない。
「リア……」
「なあに?」
いつもと変わらない、無邪気なエメラルドグリーンの瞳がアルフレッドを見上げる。
「君は……僕が思っていたような女の子じゃなかったんだね」
「え?」
オフィーリアは不思議そうにアルフレッドを見上げた。
「私は昔からずっと同じよ? なにも変わらないわ」
その通りだった。オフィーリアは何も変わっていない。
アルフレッドが知らなかっただけなのだ。
可愛らしくて、少し頼りなくて。自分が守ってやらなければならない女の子だと思い込んでいただけだった。
彼は隣で笑っている婚約者を見つめた。今までなら、その笑顔を見るだけでときめいたのに。
今日は視界に入れるのも苦痛だった。
裏切られた――アルフレッドはそんな気持ちでいたのだった。
2位 エミリー・ギルモア 450点
3位 アルフレッド・ロズウェル 445点
アルフレッドは、しばらくその数字を見つめていた。
廊下には、上位十名までの成績が張り出されている。
一位のオフィーリアは五百点。
五教科すべて満点だった。
「すごいですわ、オフィーリア様!」
エミリーが興奮した声を上げる。
当のオフィーリアは嬉しそうではあるものの、それほど驚いた様子はない。
むしろ自分のことより、エミリーやアルフレッドの名前が張り出されていることの方が嬉しかった。
「エミリーもアルもすごいわね」
「うふふ。オフィーリア様に褒められるなんて光栄ですわ」
エミリーは頬を緩ませる。
「ああ、リア……ありがとう」
アルフレッドだけは自分の顔が強ばるのを感じた。
自分だって、決して悪い成績ではない。
むしろ三位なのだから、十分に誇っていいはずだ。
それでも、自分より上に二人の令嬢の名前が並んでいることが、どうしても面白くなかった。
(僕がオフィーリアに負けるなんて……)
「リア、ずいぶん頑張ったんだね」
「え?」
オフィーリアがきょとんとする。
「試験勉強だよ。満点なんて、相当勉強しないと取れないだろう? いい加減、認めろよ。きっと寝る間も惜しんで勉強したに決まってる」
「いつもたっぷり寝ているわよ?」
「僕はね、毎日かなり勉強したんだ。それでも間違えたところがあったのに」
「まあ。アルは本当に努力家なのね。とても立派なことだと思うわ」
オフィーリアは感心したように微笑んだ。
それから、なんでもないことのように続ける。
「私は特に何もしなかったもの。毎日勉強していたアルはすごいわ」
初めてだった。
オフィーリアの隣に立っていることを、居心地が悪いと思ったのは。
「オフィーリア様は天才なのですわ!」
それまで二人の話を聞いていたエミリーが、突然声を上げた。
「すごいですわ! こんなに可愛くて綺麗なのに、それだけじゃなくて頭までいいなんて……!」
「えっ? 違うわよ」
オフィーリアは慌てて首を振った。
「私はただ、《《一度聞いたことは絶対に忘れない》》だけなのよ」
「……はい?」
エミリーが固まった。
アルフレッドも固まる。
オフィーリアはそんな二人に気づかず、懐かしそうに微笑む。
「そういえば、叔母様にも昔、ずいぶん驚かれたことがあったわ」
「叔母様……キャサリン会長にかい?」
アルフレッドが口を挟む。
「ええ。私、小さい頃から叔母様が大好きで、いつも一緒にいたのよ」
母を亡くしてから、キャサリンはオフィーリアをどこへ行くにも連れて歩いた。
当然、商会本部へ行くことも多かった。
キャサリンが会長を務める商会は王都随一の規模を誇り、その本部には連日、多くの商人や職人が出入りしていた。
「あるとき、叔母様が帳簿を探しながら、『以前取引した商人から、いくらで商品を買ったかしら』って呟いたの」
「それで?」
「私が金額を教えてあげたわ。叔母様が『この値段では儲けがほとんどないわ』って怒っていたのも覚えていたから」
「……それは、いつの話だったんですの?」
「そのときから二年くらい前だったかしら。私が三歳の頃ね」
「三歳の頃のことを、五歳で覚えていらしたの?」
エミリーの声が裏返る。
「それからかしら。大きな商談には、決まって私を隣に置くようになったわ。そのときはいろいろ叔母様から聞かれるのよ」
「何を聞かれるんですの?」
「『あの方、前に来たとき何を気にしていたか覚えている?』とか、『以前この話をしたとき、何て言っていたかしら?』とか。資料には書いていないようなことよ」
「…………」
「叔母様ったらお忙しいから、忘れてしまうことも多いのよ」
オフィーリアはくすくす笑った。
「オフィーリア様……」
「なあに?」
「それを、天才というのですわ!」
「でも、私は聞いたことを覚えているだけよ?」
「普通は忘れるんです!」
「そうなの?」
「そうですわ!」
エミリーが力いっぱい断言する。オフィーリアは困ったように首を傾げているが、アルフレッドは驚愕していた。
一度聞いただけの話を、何年経っても正確に覚えている。
そんなことは、自分には到底できない。
「リア……」
「なあに?」
いつもと変わらない、無邪気なエメラルドグリーンの瞳がアルフレッドを見上げる。
「君は……僕が思っていたような女の子じゃなかったんだね」
「え?」
オフィーリアは不思議そうにアルフレッドを見上げた。
「私は昔からずっと同じよ? なにも変わらないわ」
その通りだった。オフィーリアは何も変わっていない。
アルフレッドが知らなかっただけなのだ。
可愛らしくて、少し頼りなくて。自分が守ってやらなければならない女の子だと思い込んでいただけだった。
彼は隣で笑っている婚約者を見つめた。今までなら、その笑顔を見るだけでときめいたのに。
今日は視界に入れるのも苦痛だった。
裏切られた――アルフレッドはそんな気持ちでいたのだった。


