賢すぎる伯爵令嬢はかわいい妻を演じたい!

「……リディア様のドレス、私のドレスとお揃いに見えますわ」
 
 卒業パーティーの会場で、オフィーリアは目の前の少女を見つめた。色合いも、意匠もよく似ている。偶然にしては、あまりにも。
 けれどリディアは悪びれる様子もなく、嬉しそうに答えた。

「ふふっ。アルフレッド様から贈られたんですよ」
「……アルが?」
「ええ。とても素敵でしょう?」

 オフィーリアは隣に立つ婚約者――アルフレッドを見た。
「どうしてアルが、リディア様のドレスを?」
「細かいことを気にしすぎだよ。卒業パーティーなんだから、ドレスくらい必要だろう? リディアの家は、リアの家ほど裕福じゃないから可哀想だろう? 君は優しさに欠けるよ」
「でも、婚約者でもない女性にドレスを贈るなんて、常識的にあり得ませんわ。誤解を招く行動は控えたほうが……」

 アルフレッドが不機嫌そうに眉を寄せる。
「リアは何でも自分が正しいと思ってるんだろ? そういうところがすごく鼻につくんだよ。成績のことだって僕に対する配慮に欠けると思わないか?」
 突然思いがけない話題になり、オフィーリアは息を呑んだ。
「君はずっと首席だった。入学してから卒業するまで、一度だって僕に譲ろうとしなかったよね?」
「……え?」
 何を言われているのかわからなかった。
「女なら少しはできないふりをしろよっ、ってことさ!」
 アルフレッドの声が会場に響いた。近くにいた者たちが、一斉に振り返る。
「君はどうしてそこまで僕より優れていなければ気が済まないんだ? 少しくらい僕を立てようとは思わなかったのか? 目立ちたがりで可愛げがないんだよ! 」
「…………」
「成績が張り出されるたび、僕がどれだけ惨めだったかわかるか? 婚約者なら僕を気遣い、僕より前に出るべきじゃないだろ!」
 オフィーリアは呆然とアルフレッドを見つめた。
 そんなことを気にしていたなんて、少しも思わなかったのだ。
「……私の成績がアルより良かったことが、それほど嫌だったの?」
「ああ、もちろんさ。自分より頭のいい女が好きな男なんていないよ!」
 アルフレッドは吐き捨てるように言った。
「リディアは違う。僕を頼ってくれる。僕をすごいと言ってくれる。君みたいに、いつも僕より上にいようとはしない。成績ばかりでなく乗馬や球技まで僕よりうまいなんて、少しは慎みを持てよ!」
 いつの間にか、周囲の話し声が止んでいた。
 大勢の視線がアルフレッドに集まっている。
 けれど彼だけはそれに気づいていない。

「だから、リア。僕は君との婚約を破棄する!」
 
 ざわり、と会場が揺れた。

「……婚約、破棄?」

「ああ。僕はリディアと結婚したい!」