エヴァンは、意識のないネネティアを抱き上げ、ゆっくりと立ち上がった。
体に巣食っていたかせが消え去り、熱い血潮が全身を巡る。
疲労は残っているものの、自分の体が自分のものに戻ったのを感じる。
空間が音もなく裂け、次の瞬間には、小さな研究小屋の扉の前にエヴァンが現れていた。
彼は気配すらない神速の空間転移で小屋へと帰ってきた。
「これほど軽いとは、気分がいいな」
それからどれくらい経っただろうか。
柔らかな光が、まぶたの裏を透かして温かい。
ネネティアがゆっくりと目を開けると、そこは見慣れた小屋の寝室だった。天井の木目、窓辺に吊るされた乾燥薬草の束――何年も見てきた、変わらない光景。
「ティア、起きたか」
ベッドの上。視線を巡らせると、寝台の脇に座るエヴァンの姿があった。隠しきれない疲労の色が浮かんでいる。ずっとこうして付き添っていてくれたのだろう。
「エヴ様……」
名を呼ぶと、ネネティアの声はかすれていた。エヴァンはわずかに目を細めた。安堵の色が、その表情に静かに広がっていく。
エヴァンはネネティアの体を起こすと、水を差し出し、飲み干したのを確認する。
「まだ休んだほうがいい」
エヴァンは優しく、ネネティアの額をなでた。
沈黙の後、エヴァンはこぼした。
「……全部、見たんだな」
その問いに、ネネティアはゆっくりとうなずいた。
あの精神の世界で見た、彼の記憶の一つ一つが、まだ鮮明に胸の中に残っている。
ネネティアはりんごのように真っ赤になった。
「……っ」
「ありがとう、ネネティア。元気になったら、ゆっくり話をしよう」
その声には優しさがにじんでいた。ネネティアは素直にうなずき、再びまぶたを閉じる。
エヴァンは黙って彼女を毛布で包み込んだ。静かな呼吸を確かめるたび、胸の奥から込み上げてくるものがあった。
エヴァンは、その寝顔をしばらくの間、ただ見つめていた。長い年月の間積み重なってきた想いが、ようやく形になったことへの喜びを、静かにかみしめながら。
それから三日、ネネティアは高熱を出し、眠り続けた。エヴァンは彼女の看病をしながら絶えず案じた。
四日目の朝、ようやく熱が下がり、すっかり顔色を取り戻したネネティアは寝台の上で大きく伸びをした。
「あーよく寝たー!お腹すいたー!」
「たくましいな」
様子を見に来たエヴァンが、安心して笑う。ネネティアはベッドから起きると、彼のもとへ駆け寄った。
「エヴ様、心配かけてごめんね。もう平気です!」
「何よりだよ」
やわらかな表情のエヴァンを見て、ネネティアの胸が、じんわりと熱くなる。
そして……思い出したかのように息を呑むと、ネネティアは突然、固まった。
「あっ!えっと、……あの、私、……お水!お水を飲んできますね」
逃げるように去ってしまう。
「ネネティア?……様子がおかしいが……」
エヴァンはその様子を怪訝そうに見つめた。いつものネネティアではありえない、よそよそしい態度。
「いいいいいつもどおりですっ!!!」
「どこか、痛んだりはしていないか」
「大丈夫!元気!!元気です!ちょっと!疲れてるかも!?疲れたみたいです!あはっ」
ネネティアは真っ赤な顔のままそういうと、そそくさと部屋を出ていってしまった。
体に巣食っていたかせが消え去り、熱い血潮が全身を巡る。
疲労は残っているものの、自分の体が自分のものに戻ったのを感じる。
空間が音もなく裂け、次の瞬間には、小さな研究小屋の扉の前にエヴァンが現れていた。
彼は気配すらない神速の空間転移で小屋へと帰ってきた。
「これほど軽いとは、気分がいいな」
それからどれくらい経っただろうか。
柔らかな光が、まぶたの裏を透かして温かい。
ネネティアがゆっくりと目を開けると、そこは見慣れた小屋の寝室だった。天井の木目、窓辺に吊るされた乾燥薬草の束――何年も見てきた、変わらない光景。
「ティア、起きたか」
ベッドの上。視線を巡らせると、寝台の脇に座るエヴァンの姿があった。隠しきれない疲労の色が浮かんでいる。ずっとこうして付き添っていてくれたのだろう。
「エヴ様……」
名を呼ぶと、ネネティアの声はかすれていた。エヴァンはわずかに目を細めた。安堵の色が、その表情に静かに広がっていく。
エヴァンはネネティアの体を起こすと、水を差し出し、飲み干したのを確認する。
「まだ休んだほうがいい」
エヴァンは優しく、ネネティアの額をなでた。
沈黙の後、エヴァンはこぼした。
「……全部、見たんだな」
その問いに、ネネティアはゆっくりとうなずいた。
あの精神の世界で見た、彼の記憶の一つ一つが、まだ鮮明に胸の中に残っている。
ネネティアはりんごのように真っ赤になった。
「……っ」
「ありがとう、ネネティア。元気になったら、ゆっくり話をしよう」
その声には優しさがにじんでいた。ネネティアは素直にうなずき、再びまぶたを閉じる。
エヴァンは黙って彼女を毛布で包み込んだ。静かな呼吸を確かめるたび、胸の奥から込み上げてくるものがあった。
エヴァンは、その寝顔をしばらくの間、ただ見つめていた。長い年月の間積み重なってきた想いが、ようやく形になったことへの喜びを、静かにかみしめながら。
それから三日、ネネティアは高熱を出し、眠り続けた。エヴァンは彼女の看病をしながら絶えず案じた。
四日目の朝、ようやく熱が下がり、すっかり顔色を取り戻したネネティアは寝台の上で大きく伸びをした。
「あーよく寝たー!お腹すいたー!」
「たくましいな」
様子を見に来たエヴァンが、安心して笑う。ネネティアはベッドから起きると、彼のもとへ駆け寄った。
「エヴ様、心配かけてごめんね。もう平気です!」
「何よりだよ」
やわらかな表情のエヴァンを見て、ネネティアの胸が、じんわりと熱くなる。
そして……思い出したかのように息を呑むと、ネネティアは突然、固まった。
「あっ!えっと、……あの、私、……お水!お水を飲んできますね」
逃げるように去ってしまう。
「ネネティア?……様子がおかしいが……」
エヴァンはその様子を怪訝そうに見つめた。いつものネネティアではありえない、よそよそしい態度。
「いいいいいつもどおりですっ!!!」
「どこか、痛んだりはしていないか」
「大丈夫!元気!!元気です!ちょっと!疲れてるかも!?疲れたみたいです!あはっ」
ネネティアは真っ赤な顔のままそういうと、そそくさと部屋を出ていってしまった。

