第一章 ごめんなさい
蓮くんに手を引かれて、凪くんと良菜ちゃんから少しキョリをとった。
ここでも、花火の音や色彩はキレイに彩られている。
胸がドキドキして、足が固まる。
返事を待つ蓮くんの表情は薄暗いまま。
蓮くんは学校一のイケメン男子で、私とは無縁なはずだった人。
でも、二年生になって同じクラスになってから少しずつ話すようになって、人生で初めて告白された人なんだ。
考えれば、あれから私はちょっと変わったと思う。
蓮くんだけじゃなくて、いろんな人と少しずつだけど話せるようになって。
今、私がこうして花火を見れるのも、蓮くんのおかげなのかもしれない。
「ごめんなさい」
やっと出た声は、だらしない。
蓮くんの表情が曇った。
でも、すぐにパッと笑顔になって。
「わかった。ありがとう」
と、寂しげに発した。
振るのって、こんなに辛いんだ。
同情になっちゃうかもしれないけど、喉が震えるような痛み。
「みんなのところに戻ろっか」
蓮くんの言葉にこくりと頷く。
「⋯⋯そんな顔しないで」
刹那、蓮くんの腕に抱きしめられた。
ちょっと複雑な気持ちになる。
「ごめん。ほんとにごめんね、蓮くん」
私は、これからも蓮くんと仲良しでいたい。
なのに、ひどいことしてそんなこと思うなんて、図々しいよね。
ポロリと溜めこんでいた涙が溢れた。
冷たい涙が、ほおをゆっくりとつたっていく。
第二章 切り替え
こんなときにまでめいわくかけちゃうなんて、私ってほんとサイテー。
泣いてる姿なんか、誰にも見られたくない⋯⋯ッ。
「今日はもう、ふたりで過ごそう?」
蓮くんはそう提案した。
きっと、私が誰にも会いたくないことを察したから。
優しい。とっても優しいよ、蓮くん。
「⋯⋯うん」
小さく丸まりながら、その場にしゃがんだ。
花火の音にも身体が反応しなくなる。
必死に涙を拭っても、また流れてきて。
「そんなに悲しむなら、おれと付き合ってよ」
冷静だ。でも、かすかに震えてる蓮くんの声。
蓮くんの言うことはごもっとも。
でも、そこまで言ってくれる蓮くんでもダメなんだ。
「私、好きな人ができたの」
顔を伏せながら告げる。
蓮くんの顔は見えないし、花火も見えない。
「そうなんだ」
やっとくれた返事も、花火の音にかき消されたそうになって。
「もしかして、凪のこと?」
——えッ? 当てられた?
ついさっき、自分でも知ったことなのに。
「うん」
驚きながらも頷く。
驚きで、涙が引っ込んでいく。
「どうして分かったの?」
やっと顔を上げて、横に座る蓮くんを見つめる。
「実は、前からずっと予想してたんだ」
態度に出ちゃってるとか? それならやめないとっ。
「林間学習前くらいから察して、わざと凪と仲よくしてた」
そ、そんなに前から見抜かれてたなんて。
「一緒に過ごしてて、おれも凪のことが大切になった」
ヒューッ、と花火が上がる音。
「でも、おれは諦めないからね」
ニヤッと意地悪くほほえむ蓮くんに、胸がホッとする。
これで、ひとまず一件落着だ。
第三章 隣は優くん
夏休み終了。
なんだか今年は自分のアルバムにおさまり切らないほどの思い出に包まれている。
「二学期になったということで、席替えをします!」
担任がポロシャツを輝かせながら言った。
いろんな反応で溢れる。
でも、私は残念に思っている人だと思う。
今になって、この席はベストポジションだから。
誰がとは言わないけど⋯⋯。恋乃葉もいるし!
くじを引いた場所に移動しないといけないんだ。
せめて、後ろの席がいい!
新しい自分の席にこしをおろす。
私の席は、窓側の一番後ろの席。
やった。願いが叶った。
でも、恋乃葉や凪くんとは席が離れちゃったんだ。
ま、まあ、ちゃんとやっていける⋯⋯よね?
「内山じゃん」
私はちょっと前から勘づいてたけど。
隣の人は、優くんなんだ。
なんだかんだ、けっこういいポジション。
優くん、恋乃葉と席離れちゃったね。
恋乃葉と蓮くんは隣どうしなんだ。
すっごく楽しそうに話してる。
ふと思って、優くんの方をチラッと見てみる。
図星だ。彼はみけんにしわをよせて恋乃葉と蓮くんのことを見つめていて。
嫉妬しちゃってるよ。かわいい。
人の不幸は蜜の味? えへへ。絶対に口に出せないや。
第四章 残り三週間
翌日。席替えの次のお話。
「えー。残り三週間で皆さん念願の体育祭があります」
そそそ、そうだ。忘れてた。
私が毎回余り物になる行事、体育祭。
今年こそ、そんな自分を卒業したいなあ。
それに今年は、好きな人もいるんだもん。
ひとつひとつの行事を胸に刻みたいと思ってる。
「今から、種目リーダーを決めます。男女ひとりずつ、立候補してくれる人いますか?」
学級委員が前に立って、仕切り始める。
人前でこんなに威風堂々としてられる人には尊敬しかない。
「はーい。おれやりたいです」
すると、ちゅうちょなく挙手をしたのは、私の隣の人。
「ありがとう。早いもの勝ちということで、男子は木村に決定します」
ひええッ。優くんもただ者じゃないなあ。
「女子で誰か、やってくれる人はいますか?」
そういえば、この学級委員のふたりって付き合ってるのかな?
「うちにやらせてください」
刹那、前の方で手が挙がる。
みんなの口角が上がった。
「じゃ、じゃあ、女子は飯田で決定です」
ワーッと拍手喝采。
恋人同士のふたりが担当するなんて。
さすが、陽キャのふたり!
「それじゃあ次は、種目の説明するから」
さすがのリーダー。真摯な様子が身にしみる。
「今年の二年は色ごとに対抗でバスケの試合をします」
ば、バスケかあ。
どんなスポーツも苦手だけど、球技はもってのほか。
「種目リーダーで、クラスでふたつのチームを組んでもらって、さっそく明日から交代制で体育館での練習があります」
はあ。これはまた忙しくなりそうだなあ。
「てことで、今日は種目リーダーの集まりがあるから放課後に生徒会室に集合」
タイミングよく、ホームルーム終了のチャイムが鳴った。
第五章 練習風景
さらに翌日の放課後。
ついに今日から、バスケの試合のための練習が始まる。
不安しかないけど⋯⋯。
心臓がでてきそうなほどの緊張をのみこむ。
チームは、朝に種目リーダーが発表してくれた。
私はAチームで、リーダーは恋乃葉。
それに、蓮くんも⋯⋯凪くんもいる。
優くんはBチームのリーダーで。
クラスで順番に体育館にシュートやパスの練習をするんだ。
みんなの足だけは引っ張らないように頑張らないと!
「内山さん。一緒にパスの練習する?」
凛々しい声に、ドキッと胸がなる。
「いいの?」
そこにいたのは、蓮くんと凪くん。
凪くんが輝いて見える⋯⋯。
こんなに光ってたっけ?
直視するのが簡単じゃない。
こくりと頷く蓮くんと凪くん。
「それじゃあ、お願いします」
蓮くんとはちょっと気まずいけど⋯⋯。
「蓮くんッ。あたしにもバスケ教えてよー!」
そのとき。クラスの女子が固まって蓮くんの姿を塞ぐように割り込んできた。
わわッ。誰かに足を引っかけられた。
体幹が悪い私は、ドサッと尻もちをつきそうになる。
ガシッ。
瞬間、誰かが私の手を強く握った。
ヒョイッと身体が持ち上がる。
パチパチと瞬く。
「凪くん⋯⋯」
思わず声をもらす。
手を握ってくれたのは凪くんで。
起き上がらせてもらった反動で、逆に凪くんと鼻と鼻のキョリがグッと近づく。
ボボッと顔が赤くなるのを感じる。
「大丈夫?」
凪くんは清々しい顔をして私のことを見つめている。
もう、ダメだよ。
「熱、出たかも⋯⋯」
恋のせいだ。恋のせいで熱が出た。
「えッ。大丈夫?」
大丈夫、大丈夫って。お兄ちゃんみたい。
「うん。ありがとう」
顔、赤いよね。
「大瀬はもう、女子に捕まったね」
あ、そうだ。
ほんとだ。もう女子にのみこまれてる。
「ふたりでサボろうか」
不意に出た凪くんのつぶやきに、耳がぴくぴく反応する。
「おれ、好きだよ。葵のこと」
バスケットボールの跳ねる音が、一瞬聞こえなくなった。
私の手を握る凪くんの手は、温かくて。
さ、サボるってどういう意味——?
第六章 お付き合い
すすす、好きッ?
凪くんが私のことを?
「ほ、ほんとに?」
出るはずの声が震える。
心の底から這い上がってくるような沸騰。
「本当」
て、とこは——。
「私もだよ」
下げていた頭を上げて、凪くんのことを一直線に見つめる。
「私も、凪くんのことが好き」
ひええッ。言っちゃったよぉ。
「私と付き合ってください」
い、勢いにのって言っちゃったけど、引かれてないかな?
「それ、おれが言いたかった言葉」
意地悪くほほえむ凪くん。
完全に射抜かれた。
「おれと付き合ってくれる?」
今、こんなことしていい時間じゃないよねッ?
誰かに見られたり⋯⋯しないかな?
蓮くんに見惚れて、みんな気づいてないんだ。
「お、お願いします」
初恋が実った瞬間。
ボワッと花が咲いたようなふわふわした気持ち。
「おめでと、ふたりとも」
とたん。肩にフワッと手がのる。
「恋乃葉」
隣には優くんもいる。
や、やっぱりバレてた。
付き合ったことを自覚すると、さらに恥ずかしいッ。
「あ、ありがとう」
蓮くんには、少し申し訳ない気もするけど⋯⋯。
それもだけど!
凪くんには、正体を明かすべきかもしれない。
そう揺らいでる私がいる。
恋乃葉にさえ明かしていない私の姿。
凪くんを信じるか。
「勝手に、内山は蓮の付き合うのかと思ってたわ」
カッと笑う優くん。
グサッと鋭いものがみぞおちに刺さる音がする。
「優くん」
刹那、恋乃葉は優くんのことを睨みつけた。
あッ、と目を泳がせる優くん。
「ごめんッ」
パンッと手を合わせる彼に、私は変に申し訳なくなる。
「ううん。私こそ⋯⋯」
「大瀬は、おれのライバルだったから」
ドキン、と鼓動が激しくなる。
「これからよろしくな」
大きくほほえむ凪くんに、私もほほえみ返す。
第七章 私の人
あれから練習を積み重ねて、ついに明日が体育祭本番。
今日は、種目リーダーの人たちが競技の準備をするから体育館での練習もない。
だから、みんなで帰るところ。
恋乃葉はいないから⋯⋯。
「一緒に帰ろ」
と、凪くんに誘われてしまった。
嬉しい。嬉しいけど、まだ素直になれない自分がいる。
蓮くんへの同情とこの先の不安が積もっていくようなナゾの疎外感。
「あ。体操服忘れちゃった」
校門を出る直前。教室に体操服を忘れていたことに気づいた。
明日は絶対に体操服が必要。でも、今日は体育で汗がにじんちゃってる。
「ごめん。体操服取ってくるから、先に帰ってて」
せっかく一緒に帰るチャンスだったのにー。
「いいよ。待ってる」
凪くんは足を止めた。
や、優しい。優しすぎる。
「ありがとう。すぐ戻るから!」
息を切らしながらも、かばんを背負って教室まで駆け足。
教室のカギ、開いてるといいんだけど⋯⋯。
廊下までやってきた。
よかった。明かりがついてる。
ガラガラ、と勢いよくとびらを開けた。
切れた息を整えるために、大きく息を吸う。
「蓮くん⋯⋯」
自分の席に座って日誌を書く蓮くんと遭遇した。
つい、口角が下がってしまう。
こう、誰もいないと少し気まずいな。
「そんな顔しないでよ」
グッ。顔に出ちゃってたことを自覚する。
「ごめん。忘れ物を取りにきただけだから」
もし、蓮くんが私に告白していないなら、こんなに胸が苦しくないのかな。
そもそも、私が前で過ぎたのがいけないんだ。
蓮くんは悪くない。出しゃばった私が悪い。
「凪と付き合ったんだってね」
教室に背中を向けたとたん、蓮くんのさみしげな声に足が止まった。
蓮くんに手を引かれて、凪くんと良菜ちゃんから少しキョリをとった。
ここでも、花火の音や色彩はキレイに彩られている。
胸がドキドキして、足が固まる。
返事を待つ蓮くんの表情は薄暗いまま。
蓮くんは学校一のイケメン男子で、私とは無縁なはずだった人。
でも、二年生になって同じクラスになってから少しずつ話すようになって、人生で初めて告白された人なんだ。
考えれば、あれから私はちょっと変わったと思う。
蓮くんだけじゃなくて、いろんな人と少しずつだけど話せるようになって。
今、私がこうして花火を見れるのも、蓮くんのおかげなのかもしれない。
「ごめんなさい」
やっと出た声は、だらしない。
蓮くんの表情が曇った。
でも、すぐにパッと笑顔になって。
「わかった。ありがとう」
と、寂しげに発した。
振るのって、こんなに辛いんだ。
同情になっちゃうかもしれないけど、喉が震えるような痛み。
「みんなのところに戻ろっか」
蓮くんの言葉にこくりと頷く。
「⋯⋯そんな顔しないで」
刹那、蓮くんの腕に抱きしめられた。
ちょっと複雑な気持ちになる。
「ごめん。ほんとにごめんね、蓮くん」
私は、これからも蓮くんと仲良しでいたい。
なのに、ひどいことしてそんなこと思うなんて、図々しいよね。
ポロリと溜めこんでいた涙が溢れた。
冷たい涙が、ほおをゆっくりとつたっていく。
第二章 切り替え
こんなときにまでめいわくかけちゃうなんて、私ってほんとサイテー。
泣いてる姿なんか、誰にも見られたくない⋯⋯ッ。
「今日はもう、ふたりで過ごそう?」
蓮くんはそう提案した。
きっと、私が誰にも会いたくないことを察したから。
優しい。とっても優しいよ、蓮くん。
「⋯⋯うん」
小さく丸まりながら、その場にしゃがんだ。
花火の音にも身体が反応しなくなる。
必死に涙を拭っても、また流れてきて。
「そんなに悲しむなら、おれと付き合ってよ」
冷静だ。でも、かすかに震えてる蓮くんの声。
蓮くんの言うことはごもっとも。
でも、そこまで言ってくれる蓮くんでもダメなんだ。
「私、好きな人ができたの」
顔を伏せながら告げる。
蓮くんの顔は見えないし、花火も見えない。
「そうなんだ」
やっとくれた返事も、花火の音にかき消されたそうになって。
「もしかして、凪のこと?」
——えッ? 当てられた?
ついさっき、自分でも知ったことなのに。
「うん」
驚きながらも頷く。
驚きで、涙が引っ込んでいく。
「どうして分かったの?」
やっと顔を上げて、横に座る蓮くんを見つめる。
「実は、前からずっと予想してたんだ」
態度に出ちゃってるとか? それならやめないとっ。
「林間学習前くらいから察して、わざと凪と仲よくしてた」
そ、そんなに前から見抜かれてたなんて。
「一緒に過ごしてて、おれも凪のことが大切になった」
ヒューッ、と花火が上がる音。
「でも、おれは諦めないからね」
ニヤッと意地悪くほほえむ蓮くんに、胸がホッとする。
これで、ひとまず一件落着だ。
第三章 隣は優くん
夏休み終了。
なんだか今年は自分のアルバムにおさまり切らないほどの思い出に包まれている。
「二学期になったということで、席替えをします!」
担任がポロシャツを輝かせながら言った。
いろんな反応で溢れる。
でも、私は残念に思っている人だと思う。
今になって、この席はベストポジションだから。
誰がとは言わないけど⋯⋯。恋乃葉もいるし!
くじを引いた場所に移動しないといけないんだ。
せめて、後ろの席がいい!
新しい自分の席にこしをおろす。
私の席は、窓側の一番後ろの席。
やった。願いが叶った。
でも、恋乃葉や凪くんとは席が離れちゃったんだ。
ま、まあ、ちゃんとやっていける⋯⋯よね?
「内山じゃん」
私はちょっと前から勘づいてたけど。
隣の人は、優くんなんだ。
なんだかんだ、けっこういいポジション。
優くん、恋乃葉と席離れちゃったね。
恋乃葉と蓮くんは隣どうしなんだ。
すっごく楽しそうに話してる。
ふと思って、優くんの方をチラッと見てみる。
図星だ。彼はみけんにしわをよせて恋乃葉と蓮くんのことを見つめていて。
嫉妬しちゃってるよ。かわいい。
人の不幸は蜜の味? えへへ。絶対に口に出せないや。
第四章 残り三週間
翌日。席替えの次のお話。
「えー。残り三週間で皆さん念願の体育祭があります」
そそそ、そうだ。忘れてた。
私が毎回余り物になる行事、体育祭。
今年こそ、そんな自分を卒業したいなあ。
それに今年は、好きな人もいるんだもん。
ひとつひとつの行事を胸に刻みたいと思ってる。
「今から、種目リーダーを決めます。男女ひとりずつ、立候補してくれる人いますか?」
学級委員が前に立って、仕切り始める。
人前でこんなに威風堂々としてられる人には尊敬しかない。
「はーい。おれやりたいです」
すると、ちゅうちょなく挙手をしたのは、私の隣の人。
「ありがとう。早いもの勝ちということで、男子は木村に決定します」
ひええッ。優くんもただ者じゃないなあ。
「女子で誰か、やってくれる人はいますか?」
そういえば、この学級委員のふたりって付き合ってるのかな?
「うちにやらせてください」
刹那、前の方で手が挙がる。
みんなの口角が上がった。
「じゃ、じゃあ、女子は飯田で決定です」
ワーッと拍手喝采。
恋人同士のふたりが担当するなんて。
さすが、陽キャのふたり!
「それじゃあ次は、種目の説明するから」
さすがのリーダー。真摯な様子が身にしみる。
「今年の二年は色ごとに対抗でバスケの試合をします」
ば、バスケかあ。
どんなスポーツも苦手だけど、球技はもってのほか。
「種目リーダーで、クラスでふたつのチームを組んでもらって、さっそく明日から交代制で体育館での練習があります」
はあ。これはまた忙しくなりそうだなあ。
「てことで、今日は種目リーダーの集まりがあるから放課後に生徒会室に集合」
タイミングよく、ホームルーム終了のチャイムが鳴った。
第五章 練習風景
さらに翌日の放課後。
ついに今日から、バスケの試合のための練習が始まる。
不安しかないけど⋯⋯。
心臓がでてきそうなほどの緊張をのみこむ。
チームは、朝に種目リーダーが発表してくれた。
私はAチームで、リーダーは恋乃葉。
それに、蓮くんも⋯⋯凪くんもいる。
優くんはBチームのリーダーで。
クラスで順番に体育館にシュートやパスの練習をするんだ。
みんなの足だけは引っ張らないように頑張らないと!
「内山さん。一緒にパスの練習する?」
凛々しい声に、ドキッと胸がなる。
「いいの?」
そこにいたのは、蓮くんと凪くん。
凪くんが輝いて見える⋯⋯。
こんなに光ってたっけ?
直視するのが簡単じゃない。
こくりと頷く蓮くんと凪くん。
「それじゃあ、お願いします」
蓮くんとはちょっと気まずいけど⋯⋯。
「蓮くんッ。あたしにもバスケ教えてよー!」
そのとき。クラスの女子が固まって蓮くんの姿を塞ぐように割り込んできた。
わわッ。誰かに足を引っかけられた。
体幹が悪い私は、ドサッと尻もちをつきそうになる。
ガシッ。
瞬間、誰かが私の手を強く握った。
ヒョイッと身体が持ち上がる。
パチパチと瞬く。
「凪くん⋯⋯」
思わず声をもらす。
手を握ってくれたのは凪くんで。
起き上がらせてもらった反動で、逆に凪くんと鼻と鼻のキョリがグッと近づく。
ボボッと顔が赤くなるのを感じる。
「大丈夫?」
凪くんは清々しい顔をして私のことを見つめている。
もう、ダメだよ。
「熱、出たかも⋯⋯」
恋のせいだ。恋のせいで熱が出た。
「えッ。大丈夫?」
大丈夫、大丈夫って。お兄ちゃんみたい。
「うん。ありがとう」
顔、赤いよね。
「大瀬はもう、女子に捕まったね」
あ、そうだ。
ほんとだ。もう女子にのみこまれてる。
「ふたりでサボろうか」
不意に出た凪くんのつぶやきに、耳がぴくぴく反応する。
「おれ、好きだよ。葵のこと」
バスケットボールの跳ねる音が、一瞬聞こえなくなった。
私の手を握る凪くんの手は、温かくて。
さ、サボるってどういう意味——?
第六章 お付き合い
すすす、好きッ?
凪くんが私のことを?
「ほ、ほんとに?」
出るはずの声が震える。
心の底から這い上がってくるような沸騰。
「本当」
て、とこは——。
「私もだよ」
下げていた頭を上げて、凪くんのことを一直線に見つめる。
「私も、凪くんのことが好き」
ひええッ。言っちゃったよぉ。
「私と付き合ってください」
い、勢いにのって言っちゃったけど、引かれてないかな?
「それ、おれが言いたかった言葉」
意地悪くほほえむ凪くん。
完全に射抜かれた。
「おれと付き合ってくれる?」
今、こんなことしていい時間じゃないよねッ?
誰かに見られたり⋯⋯しないかな?
蓮くんに見惚れて、みんな気づいてないんだ。
「お、お願いします」
初恋が実った瞬間。
ボワッと花が咲いたようなふわふわした気持ち。
「おめでと、ふたりとも」
とたん。肩にフワッと手がのる。
「恋乃葉」
隣には優くんもいる。
や、やっぱりバレてた。
付き合ったことを自覚すると、さらに恥ずかしいッ。
「あ、ありがとう」
蓮くんには、少し申し訳ない気もするけど⋯⋯。
それもだけど!
凪くんには、正体を明かすべきかもしれない。
そう揺らいでる私がいる。
恋乃葉にさえ明かしていない私の姿。
凪くんを信じるか。
「勝手に、内山は蓮の付き合うのかと思ってたわ」
カッと笑う優くん。
グサッと鋭いものがみぞおちに刺さる音がする。
「優くん」
刹那、恋乃葉は優くんのことを睨みつけた。
あッ、と目を泳がせる優くん。
「ごめんッ」
パンッと手を合わせる彼に、私は変に申し訳なくなる。
「ううん。私こそ⋯⋯」
「大瀬は、おれのライバルだったから」
ドキン、と鼓動が激しくなる。
「これからよろしくな」
大きくほほえむ凪くんに、私もほほえみ返す。
第七章 私の人
あれから練習を積み重ねて、ついに明日が体育祭本番。
今日は、種目リーダーの人たちが競技の準備をするから体育館での練習もない。
だから、みんなで帰るところ。
恋乃葉はいないから⋯⋯。
「一緒に帰ろ」
と、凪くんに誘われてしまった。
嬉しい。嬉しいけど、まだ素直になれない自分がいる。
蓮くんへの同情とこの先の不安が積もっていくようなナゾの疎外感。
「あ。体操服忘れちゃった」
校門を出る直前。教室に体操服を忘れていたことに気づいた。
明日は絶対に体操服が必要。でも、今日は体育で汗がにじんちゃってる。
「ごめん。体操服取ってくるから、先に帰ってて」
せっかく一緒に帰るチャンスだったのにー。
「いいよ。待ってる」
凪くんは足を止めた。
や、優しい。優しすぎる。
「ありがとう。すぐ戻るから!」
息を切らしながらも、かばんを背負って教室まで駆け足。
教室のカギ、開いてるといいんだけど⋯⋯。
廊下までやってきた。
よかった。明かりがついてる。
ガラガラ、と勢いよくとびらを開けた。
切れた息を整えるために、大きく息を吸う。
「蓮くん⋯⋯」
自分の席に座って日誌を書く蓮くんと遭遇した。
つい、口角が下がってしまう。
こう、誰もいないと少し気まずいな。
「そんな顔しないでよ」
グッ。顔に出ちゃってたことを自覚する。
「ごめん。忘れ物を取りにきただけだから」
もし、蓮くんが私に告白していないなら、こんなに胸が苦しくないのかな。
そもそも、私が前で過ぎたのがいけないんだ。
蓮くんは悪くない。出しゃばった私が悪い。
「凪と付き合ったんだってね」
教室に背中を向けたとたん、蓮くんのさみしげな声に足が止まった。

